司法書士。
牧野が合格した。
弁護士を目指してたはずなのに、いつの間にか司法書士の試験に2年連続で挑戦していたらしい。
合格したと聞いて素直に喜んで、素直におめでとうと伝えた。
だけど、牧野の夢は弁護士であり、それは今も変わっていないと思っていた。
だからそのまま大学院にでも進んで勉強を続けさせようと思っていたのに…………、
「あたし、就職するから。」
「あ?」
「今、就職活動中。」
「聞いてねーぞっ!」
「だから、いま伝えてるでしょ。」
と、呑気に言いやがる。
「弁護士の夢はどうしたんだよっ。」
「うん、それね、
大学で勉強してるうちに進みたい進路が変わって。だから、司法書士の試験を受けたの。」
「進みたい進路?」
牧野の部屋の小さなソファに並んで座ってたこいつが、ソファの上に体育座りをしながら俺の方を向く。
「そう。
あたしね、企業で司法書士の資格を活かして働きたいの。
行く行くはもっと英語も勉強して、会社のために……、」
目をキラキラさせて話すこいつに、ここ最近久しく感じてなかった感情が沸く。
こいつは昔からやると決めたら全力で突き進む。
そこに俺の存在なんてまるで影響しねぇ。
でも、そんな牧野が好きで、そんなこいつの自由さと賢さに心底惚れた。
だから、こいつを不幸にしたくねぇ…………と、臆病になってた時期もあったが、またそんな感情が甦る。
正直に言うと、
牧野にはあと2年は学生のままでいてほしかった。
大学院で法律の事を学びながら司法試験の準備をさせたかった。
「夢を途中で諦めるなんておまえらしくねぇな。」
「だから、諦めたんじゃなくて、」
「投げ出したのか?」
そう言うと、みるみるうちに牧野の顔がこわばっていく。
せっかく苦労して取った資格に、こんなことを言ってやりたい訳じゃない。
「あんたには、そう見える?」
「…………。」
「弁護士が無理だから、諦めて司法書士にしたって思ってる?」
まっすぐに俺を見つめて言ってくるこいつを見ればそうじゃねぇってことは分かってる。
「……道明寺には、分かってほしかった。」
小さな声でそれだけ言ってソファから立ち上がろうとする牧野。
その腕を俺は掴み、
「そうじゃねぇんだよ、わりぃのは俺だ。」
と、牧野の体を再びソファに座らせる。
「……まだ、……俺の準備が出来てねぇんだよ。」
「準備?」
「ああ。
おまえがそう簡単に司法書士試験に合格するとは思ってなかった。」
「ヒドっ!」
俺を睨み付けてくるこいつが、こんな時でさえ無性に可愛くてギューっと腕の中に閉じ込める。
「俺も専務っつー肩書きはあるけどよ、所詮会社に入って一年目だ。
だから、おまえが勉強に集中してる間に、少しでも一人前になる準備がしたかったんだよっ。」
「一人前にって……別にあたしが就職したからってなんか関係ある?」
抱きしめられたまま、俺を見上げるこいつ。
「あるだろ。
半人前のままじゃ、おまえと結婚出来ねぇ。」
「っ!はぁー?け、け、結婚って、」
「そんな驚くことかよ。
恋人同士で、やることもヤって、あとはしてねぇのは結婚だけだろ。」
俺的には分かりやすく言ってやっただけなのに、
「やることヤって……って、あんた……」
と、真っ赤になる牧野。
そんなこいつに、俺の決意を教えてやる。
「ババァにもこの間NYに行ったとき啖呵きってやった。
俺はおまえしか考えらんねぇって。
もし、反対するなら道明寺を出るって。」
「…………お姉さんから聞いた。」
「そうか。
なら、あとはおまえの返事だけ。」
「え?」
「今すぐとはいかねぇけど、
俺と結婚してくれ。
……牧野、返事は?
なぁ、……じらすなって……クチュ
ベッドの中で聞くか?
…………返事するまで寝かせねぇぞ。」
にほんブログ村
ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎
