有りか無しか 16

有りか無しか
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デジャヴか……。

まるでそう思わせるかのように、数日前に見た光景が目の前にあった。

ガードレールに腰掛けてこちらを見ている人。
でも、この前と違うのは、いつもより少しだけ表情が硬い。

あたしを見つけてゆっくり近づいてきた道明寺は、
「遅かったな。」
と言ったあと無言であたしの隣に並び歩く。

「いつからいたの?」

「一時間くらい前か。」

「電話っていう便利なものがあるでしょ。」

あたしがそう言うと、30秒ほど間があいた後、
「電話で済ます話じゃねーし。」
と、呟く道明寺。

何かあったのだろうか。
こういう雰囲気の時のこの人は、仕事で行き詰まっている時や、考え事をしている時だ。
7年も一緒にいたからそう言う事はなんとなく分かる。

「……何かあった?」

「牧野。」

「ん?」

「1年だけ俺に時間くれねーか?」

「え?」

「1年、待ってて欲しい。
その間に、きちんとおまえを迎え入れる準備を整えたい。」

迎え入れる……それは結婚のことだろうか。

「道明寺、あたし」

あんたとの結婚は「無し」だと分かった
そう言おうとするあたしの言葉を遮るように、

「俺、少し東京から離れる事になった。」
と、まっすぐ前を見て道明寺が言った。

「え?離れるって?」

「北海道に行く。」

「…ふーん、いつまで?」

「それは、わかんねぇ。
1か月かもしれねーし、一生かもしれねぇ。」

道明寺財閥の専務が一生北海道で仕事をする訳がない。
でも、道明寺の顔はなぜか硬いまま。
そんな顔をすると、あたしまで不安になる。

「何かあったの?」

「いや。
ただ、おまえに会いたい時に会えなくなぁと思ってよ。」

こういう事をさらっと言うバカに、腹が立つ。

「別に会いに来なくてもいいんですけど。
あたしたちにはいい機会なんじゃない?
この際、きっぱり離れられるチャンスだし。」

酷いセリフかもしれない。
けど、こうでも言わないと、あたしたちは終われないから。
それなのに、この人は静かに続ける。

「政略結婚を選んだのは俺の間違いだった。
おまえと離れてみて、一緒にいれないことがすげぇ辛かった。
おまえを傷つけたのは反省してる。
だから、もう一度やり直す時間がほしい。」

いつも横暴で自己中な男が、急に静かになると調子が狂う。

「あんた、具合悪い?」

「あ?」

「なんか変じゃない?」

「おまえさ、俺が真面目な話ししてるっつーのに、ちゃんと聞いてるのかよ。」

「聞いてるけど、スルーする。」

「はあ?」

急に立ち止まりあたしを高い位置から見下ろす道明寺。

「だって、どこの誰だか分からない人と結婚しようとしてたバカ男なんてもう興味ないし!
それに、よくよく考えてみたら、道明寺財閥の跡取り息子となんか結婚したら、苦労するの当然でしょ!あたしは、生まれた時から苦労して育ってきたの、だからこれからは自由に生きるんだからっ。」

ぜぇーぜぇーしながら一気に言ってやった。
怒るだろうな、不機嫌になるだろう、そう思ったのに、予想に反して目の前の道明寺はクスッと笑ったあと、あたしの頭をガシガシと撫でた。

「ああ、そうやって思いっきり俺に怒れ。
おまえの蹴りも殴りも全部受け止める。
それでもいいから、俺たちこれからも会い続けようぜ牧野。」

どうやったらこの敵を倒せるのだろうか。
課金しても倒せる武器があるなら手に入れたい。

「2週間後にまた戻ってくる。
連絡するからスルーするなよ。」

「……。」

不貞腐れたままのあたしに道明寺が言う。
「牧野、行ってくる。」

「…行ってらっしゃい。」
思わず反射でそう呟くと、

凄い嬉しそうな顔で
「久しぶりに聞いたな、それ。」
とあたしを見つめる。

「何がよ。」

「お前の部屋から仕事に向かうとき、いつもおまえ言ってくれてたよな。」

「…そう?」

道明寺が仕事に行くとき、いつも玄関まで見送っていた。
3ヶ月前まではそうだったあたしたち。

「牧野、もう一回言ってくれ。」 

「え?」

「さっきの言葉。」

言えと言われると、恥ずかしくて言えない。

「やだっ。」

「言えって。」

「なんでよ。」

道明寺から逃げるように早歩きで歩き出すあたし。
その手を道明寺が後ろから掴んで言った。

「勿体ないからゆっくり帰ろーぜ。」

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