牧野刑事の厄介な山 11

牧野刑事の厄介な山
スポンサーリンク

コンビニの自動ドアが開く。

「いらっしゃいませ〜」

店員の声を背に、俺の足は迷うことなく店の奥へ向かった。

イートインスペースの隅。

白のカーディガンに黒いスラックス姿の女刑事が、小さなおにぎりを頬張っている。

相変わらず華奢な身体に、まじでちゃんと食ってるのかと心配になる。

「また、こんな時間に食事か?」

声を掛けると、女刑事の肩がぴくりと跳ねた。

振り返ったその目が、大きく見開かれる。

「……道明寺さん?…どうしてここに?」

俺は返事をする代わりに、ひとつ空けた隣の椅子へ腰を下ろす。

「仕事中か?仕事終わりか?」

「あー、今日は仕事終わりです。」

女刑事は苦笑いを浮かべた。

スポンサーリンク

「道明寺さんは、飲んでたんですか?」

「ああ。F3とな」

そう答えたあと、お互い窓の外を見て沈黙。

事件が終われば特に話すこともない。そもそも生きてる環境が違いすぎる俺たち。共通の話題を探すことすら困難だ。

この3ヶ月間、俺の頭に住みついていた女は、結局俺にとって特別な何かを持っていたわけではないのだと自覚し、席をたとうとした瞬間、あることを思い出す。

俺はポケットから携帯を取り出し、メモ機能からあるファイルを開く。

そして、テーブルの上を滑らせて刑事に携帯を渡した。

「…?」

キョトンとした顔で俺を見たあと、携帯に目を落とす。

そして、数秒後、

「えっ?こんなリスト持ってるんですか?」

と、目を輝かせて俺を見た。

「ああ。結構知られていない店もあるらしいぞ。」

「へぇー。」

食い入るように俺の携帯を見つめる刑事。そこには、AIやネットのクチコミ、西田の調査も含めて俺なりにまとめた『深夜に開いてる定食屋』のリストだった。

「どうしてこんなリストを?」

「いや、まぁ。俺も仕事で遅くなること多いし、深夜に油っこいもん食うのはちょっと、」

「道明寺邸では食事の用意はされてないんですか?」

「あ?あー、いや、たまには外で食うのもいいかなぁとか、」

「道明寺財閥のご子息が定食屋ですか」

さすが刑事。なんでもない会話にも鋭い考察が入る。これ以上話すとボロが出そうで、慌てて携帯を引き寄せてポケットにしまおうとした所で、

「あっ、そのリスト、写真にとってもいいですか?」

と、自分の携帯を持ち上げながら刑事が言った。

スポンサーリンク

「ああ。」

再び、女に向けてテーブルの上に携帯を滑らせる。

でも、次の瞬間、俺は気が変わった。

「いや、ダメだ。」

「え?」

「写真じゃなくて、データを送る。」

「データ?」

「ああ。LINEかメールで送る。」

我ながらいい案だ。これなら連絡先を交換することが出来る。

女刑事は理由が分からないという顔で、じっと俺を見つめていた。

その視線を受け止めたまま、俺は静かに言う。

「連絡先、交換しようぜ」

女刑事の動きが止まった。

「……え?」

「連絡先」

「……なぜ?」

俺は少しだけ視線を逸らした。

なぜか?それは俺が知りたい。

つい数分前は、やはりこの女に特別な感情はないと思ったり、その数分後には、リストを見て目を輝かせる女に胸がドキッと高鳴ったり。

その感情の名前が俺自身も知りたい。

「深夜に腹が減った時、一緒に飯を食える相手くらい必要だろ。そんな時にお互い連絡しようぜ。」

「でも、…事件の関係者と私的な連絡先を交換するのは、あまり良くないので。」

思わず苦笑が漏れた。

「事件は終わっただろ。」

「それとこれとは別です。」

きっぱりと言い切る。

……さすがだ。真面目すぎて、笑えるほどだ。

「これでも、かなり事件には協力したつもりだ。」

「もちろんっ、ご協力には感謝しています。」

「なら、1回くらい食事に付き合ってくれてもいーんじゃねーの?」

俺にとっての、人生初の口説きセリフだ。

言ってから、じんわりと頬が熱くなる。

これで断られれば、潔く席を立つつもりだった。

スポンサーリンク

でも、女はほんの少し考えたあと、

携帯の画面を俺に見せた。

「あたしの電話番号です。仕事中はほとんど見ないので、役に立ちませんが。」

そこには、11桁の数字が。

俺は自分の携帯に打ち込み、最後に通話ボタンを押す。

すると、女の手の中にある携帯が振動した。

交換完了。

俺の携帯に初めてプライベートな女の番号が加わった。

お互い、なんとなく気まづくなってまた窓の外を眺めると、ちょうどコンビニの前に黒塗りの車が止まった。

「迎えですか?」

「ああ。乗っていくか?」

「まさか。」

その返事に思わずプッと笑っちまうと、刑事もなぜか恥ずかしそうに視線を逸らして、

「どうぞ、早く行ってください。」

と言って、残りのおにぎりを一口で口に入れた。

「じゃあな。」

「。。。」

もぐもぐさせながら、頭を深く下げる女刑事。

店を出て車へ向かいながら、ポケットの中の携帯を指先でなぞる。

女の番号が一件増えただけ。それだけのことなのに、こんなに不思議なくらい心が踊るものなのか。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす!

タイトルとURLをコピーしました