牧野刑事の厄介な山

牧野刑事の厄介な山
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あたし牧野つくしが警視庁に入って、7年が経つ。配属は、生活安全部・保安課。

風俗営業、売春、未成年者保護⋯いわゆる「表に出しづらい案件」を扱う部署だ。

あ保安課が扱う事件のうち、被害者や容疑者になるのは若い女性が多い。

だからこの部署での自分の役割は大きいと感じているが、それでも、この夜の街の雰囲気には、何年経っても慣れない。

銀座8丁目。

時刻は23時を回った。

平日だというのに、通りには人影が絶えない。

若い女性が自分の父親くらいの年齢の男の腕に身体を絡ませ飲食店が立ち並ぶビルへと消えていく。

「一夜でいくら使うんでしょうね……」

車の後部座席に座る部下の山本が、小さく呟いた。あたしより3つ下の後輩刑事だ。

「あたしたち公務員には理解できない金額よ」

そう答えると、運転席にいる上司の桂木警部補がクスッと笑いながら、

「金があっても俺は行きたくねーな。」

と、言う。

「警部補は奥さん命ですからね。」

「まぁね〜、どんなに可愛いキャバ嬢が隣に来たとしても、俺は指一本触れない自信があるな。」

桂木警部補は署内きっての愛妻家で知られている。

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「もしも、もしも奥さんが高級クラブで働いていたらどうします?」

「そりゃ、毎日通うだろ。」

「高級シャンパン開けて〜っておねだりされたら?」

「一番高いの持ってこ〜いって即答だな。」

「すぐに破産しますよ。」

「闇金から借りてでも通うぞ俺はっ。」

山本と桂木警部補の刑事とは思えない冗談話を聞きながら、あたしは無線機に手を伸ばした。

「そろそろ、内定調査に入ります。準備お願いします。」

待機している15名の同僚たちに向かってそう言うと、

「了解。」と、次々に返ってきて、二人のもしも話はそこで終止符を打たれた。

今回の内偵対象は、高級クラブ「Lily」

銀座では老舗にあたる高級クラブで、会員制の上客ばかりが集う店だ。

そこに関して半年前に匿名のタレコミがあった。

未成年者が働いていると。

老舗高級クラブで未成年者が…ありえない話ではないが、見つかれば即アウト。そんな危ない橋を渡るだろうか。

最初は疑問だったが、捜査を進めていくと、店の売上がここ数年落ち込んでいることがわかった。周囲のクラブは次々と女の子を入れ替えて客数を維持している中、Lilyは昔からのお得意様を抱える女の子を大事に使ってきた分、年齢層があがり、客数も減ってしまった。

売上が半減し厳しい経営状態が続いていたが、それがここ1年でV字に回復してきている。まさにタレコミがあった時期と一致する。

そして、今日まで捜査を続け、ようやく内定調査までこぎつけた。

車を降り、持ち場につくと、

「配置完了。これより合図で突入。」

と、短く桂木警部補の指示。

あたしは軽く息を吸い、次の瞬間、店のドアを勢いよく開けた。

「警察です。これより立ち入り検査を行います。」

一斉に刑事たちが店に流れ込む。

客やスタッフを静止させている間に、あたしは店の奥へと進む。

すると、今まさにスタッフルームへと逃げ込もうとしている3人を見つけた。

「動かないっ。」

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あたしの声にビクッと肩を震わし振り向いた女の子たちは、写真で見るよりもずっと幼い顔をしていて、こんな子供に夜の接客業をさせていたのかと怒りが湧いてくる。

「大丈夫よ。」

声を、できる限り低くする。

命令にならない高さで。

そして、あたしは静かに言った。

「あなたたちを保護します。」

………

署に戻ったのは深夜1時。正直、疲れ切ってはいるがまだまだやらなければならない事がたくさんある。

内定調査の報告書や押収品の整理で今日も家には帰れないだろう。

せめてシャワーだけでも入りたい。未成年の3人を連行した際に付いた香水の匂いが気になるからだ。

自分のロッカーの中から大きめのハンドタオルを一枚取り出し、暑の中にあるシャワールームへと向かった。刑事になりたての頃は、男性陣がたくさんいる署内でシャワーに入り濡れた髪のまま仕事をすることに抵抗があったが、今はもうそんな事はなくなった。

あたしのストレートの髪は自然乾燥でもなんとかまとまるし、お化粧だってしてもしなくても変わらない。そういう所は本当にこの仕事に向いていると自他ともに認める。

シャワーに入り、仕事を終えると3時を過ぎていた。あと数時間後にはまた1日が始まる。

あたしは仮眠室のベッドに潜り込むと、吸い込まれるように眠りに入った。

そして、内定調査から3日後。

押収した彼女たちの携帯電話の中にあった顧客リストから、ある大物人物の名前が浮上したのだ。

それは、道明寺グループの御曹司、道明寺司。

もしも彼がこの件に関係しているとなれば、厄介なことになるのは間違いない。

警部補も眉間にシワを寄せたまま一言呟いた。

「面倒な山になっちまったな。」

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