絡まる赤い糸 18

絡まる赤い糸

「この件には口出しするな。」

親父からそう冷たく突き放されて、激しい頭痛を抱えながら一夜を明かした。

もうロサンゼルスにいる意味が無くなった。つくしとは5年前に終わったのだ。何を今更蒸し返そうとしているのか。

何度も自問自答するが、答えは出ない。

「これから、どうなさいますか?」

正午過ぎに部屋から出てきた俺に、西田が聞く。

「明日の朝の便で帰る。手配してくれ。」

「承知しました。」

西田の返事を聞きながら、俺はペンションのリビングにあるソファーにどさりと座る。

目の前には大型のスクリーン。そこには年末の賑やかなロサンゼルスの街並みが映し出されている。

あと数日で今年も終わりだ。大型休暇に入った家族連れらがデパートで買い物しているニュースが流れている。それを見てふと思い出す。

そういえば、姪っ子の心愛が欲しいと言っていたおもちゃはなんだっただろう。確か、日本で言うおままごとグッズのようなものだった。小さな女の子の人形と、着せ替えできる帽子や洋服、お腹がすいた時に飲ませるミルクなどが揃ったセットが欲しいと言っていたはず。

クリスマスに買ってやると話していたのに、このバタバタとした忙しさで忘れていた。きっと姉ちゃんが買い与えただろうか。

明日日本に帰れば当分ロスに来ることもない。最後に心愛に会って帰ることにしようか。

久しぶりに姉ちゃんの携帯を鳴らす。

「もしも〜し、司?」

「おう。」

「どうしたの?」

「ちょっと聞きたいんだけどよ、心愛が前に欲しいって言ってたあの人形、なんて名前だった?」

「あー、キャンディーセット?」

「服とか帽子とかミルクとか揃ってる薄気味悪い人形のやつだぞ。」

「赤ちゃんのお世話セットでしょ?薄気味悪いって……まぁ、目が気持ち悪いけどね。」

こういう所はそっくりな姉と弟。いかにその人形が気持ち悪いかを語りだしたらきっと1時間は平気でできるだろう。

でも、今はさすがにやめておく。

「買ったのか?その人形。」

「買ってないわよ。パパがクリスマスに買ってあげるって言ったのに、これは司が買ってくれるって約束したからいいって。」

「プッ…やっぱり覚えてたのか。」

「いつか買ってあげてよ!」

「分かってる。今日の夜、届けるよ。」

「…え?今日?」

「ああ。今、ロスにいる。」

「はぁ?いつ来たのよ。」

「まぁ、それはいいとして、明日の朝に日本に帰るから、今日の夜しか時間ねーんだわ。後でその薄気味悪い人形の名前と画像送ってくれ。」

「わかったわ。じゃ、夜待ってる。」

姉ちゃんとの電話を切ったあと、俺は西田に向かって、

「今からトイショップに行くけど、おまえも来るか?」

と、聞いた。

……………………

西田が下調べをし、ロスで1番大きな4階建てのトイショップへと向かった。

そこはニュースで見るよりも家族連れで大賑わいで、男二人がふらっと立ち寄るには不釣り合いな場所だった。

お目当てのものを見つけて急いで買い物を済ませようと、俺と西田はショップ内を手分けして探すことにした。

10分ほど店内を歩いていると、一際長蛇の列になっている箇所があった。その列は男の子ばかりが並んでいて、どうやら日本製のゲーム機のコーナーらしい。

やった事がない俺にとっては、こういう類のゲームの何が面白いのか分かんねぇけど、今のガキたちはみんな夢中だと聞く。

値段を見ると本体だけで約6万円ほど。それにゲームを合わせれば子供の玩具にしてはかなりいい値段がする。それでも年末のボーナスが出たあとだからなのか、バンバンと売れていく。

その光景を見て、ふと思う。

つくしの息子である冬季の今年のクリスマスプレゼントは何だったのだろうか。あいつもこういうものが欲しいのか、それともつくしが「ゲームなんてまだ早い…」といって口うるさく止めているかもしれない。

そんなことを思うと自然と笑みが盛れる。その時、俺の後ろで父親らしき人に声をかけられた。

「すみません、ここに並んでいますか?」

ゲーム機の列に並んでいるか尋ねられた俺は、「NO」と言いかけて、数秒後、

「YES」と答えていた。

しばらくロスに来ることは無い。そして、もしかしたら冬季と会うことも二度と無いかもしれない。最後に、これくらいいいだろう。

そう思いながら、俺は長蛇の列の最後尾に並んだ。

………………

店内を出た頃にはすっかり日が暮れていた。17時半。ちょうどいい時間か。

「西田、それ、心愛に届けてくれ。」

「え?私がですか?」

「ああ。俺はちょっと行くところがある。」

人形の玩具が入った大きな箱を持ちながら、俺の事をじーっと見つめる西田。

「もしかして、つくしさんのところに?」

「心配すんな。これだけ渡して帰ってくる。」

俺の手には1時間も並んでゲットしたゲーム機の箱。

西田は何か言いたそうだったが、そんなこいつを通りかかったタクシーに押し込め、

「姉ちゃんに上手いこと言っておいてくれ。」

そう頼んで送り出した。

…………………

車でつくしのマンションまでとばし、着いたのは18時を少し過ぎた頃だった。外はすっかり暗くなっているのに、つくしの部屋にはまだ明かりが付いていない。

駐車場にもつくしの車はなく、まだ仕事から帰ってきていないのか。近くの空いている場所に車を停め、そこからつくしが帰ってくるのを待つことにした。

30分経っても帰ってこない。もう19時だ。残業か?それにしても部屋に明かりが付いていないということはベビーシッターも冬季も居ないということだ。

勝手に来たのだから、遅いとイライラするのもおかしな話だが、それにしても遅い。部屋に行ってチャイムを鳴らしてみようかと思い、車から降りた。

そして、マンションの入口まで歩き始めた時、駐車場に一台の車が入ってくるのが見えた。間違いない、つくしの車だ。

駐車場の端にある、腰までの高さの塀に寄りかかり、つくしが車を停めるのを待つ。エンジンが止まるとつくしが降りてきて、そのあと後ろの席の冬季が降りる。

そして2人は車の後ろのトランクを開け、何やら大きな紙袋を3つも取り出し、それを抱え歩きだした。

「おせぇーじゃん。」

「わぁっ!」

俺の声に驚くつくし。

「何してんの、ここで!」

「待ちくたびれて死ぬかと思った。」

そう言ったあと、冬季の方を見ると、右手には身体の半分が隠れるんじゃねーかと思うほど大きな紙袋と、左手には手のひらサイズの小さな紙袋を持ってやがる。

「随分と大荷物だな。」

「ママが買ってくれたんだ。」

「へぇ〜、なんでもダメダメ言うおまえのママが今日は何を買ってくれたんだ?」

「水鉄砲の玩具だよ!今度友達と公園で遊ぶ約束してるんだ。」

そう言って大きな紙袋を嬉しそうに見つめる冬季。

「そっちは?」

今度は左手の方の小さな紙袋を指さして聞くと、冬季が答える前に、つくしが

「な、なんか用?」と俺と冬季の間に入ってくる。

「あ?いや、別に用はねーけど、……明日日本に帰る。だから、これを」

つくしにゲーム機が入った箱を差し出すと、つくしの後ろからピョコンと顔を出した冬季が言った。

「おじさんもママにプレゼント?」

「あ?」

「ママへの誕生日プレゼントでしょ?」

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