絡まる赤い糸 14

絡まる赤い糸

翌日の昼休み。俺はオフィスのソファに横たわりながら昨夜のタマの話を思い返していた。

坂東が道明寺邸を去った理由は親父との何らかのトラブルなのだろうか。それと遺伝子情報解析センターからの郵便物とは何なのか。

かなり気になる情報だが、タマの話から推測すると、どちらも俺とつくしが離婚してから2年ほど経ったあとの出来事だ。

坂東が希美と結託して俺たちの仲を引き裂くよう動いたかと思ったが、時期的に考えても辻褄が合わない。やはり俺の勘違いか。

時計の針が13時を回った。ソファから起き上がり携帯のボタンを押す。そろそろロスは21時だ。

「20時以降なら冬季も寝ているから大丈夫。」

と言っていたのに、つくしはなかなか電話に出ない。

一度切り、もう一度かけ直すと、ようやく

「……もしもし。」

と眠たそうな声が返ってきた。

「もしもし、俺だ。寝てたか?」

「うーん、寝落ちしたみたい。」

まだ寝ぼけているのか甘い声のつくし。

「少し話せるか?」

「ちょっと待って、今スピーカーにするから。」

そう言うガサガサと音がしたあとスピーカーに切り替わったようで、今度はガチャガチャと食器のような音がする。

「コーヒー飲も。」

「こんな時間に飲んだら眠れなくなるぞ。」

「むしろ有難い。明日までにやらなきゃいけない事があるから寝てられないの。」

「…仕事か?」

「うん。」

仕事して、子育てして、疲れて子供と一緒に寝落ちして、それでもまだ明日の準備のために仕事して……。

一緒に暮らしていた時のつくしとはまるっきり違う生活だ。一生、俺が楽させてやると言って結婚したのに、5年もしないうちにこのザマだ。

「で?話って何?」

「おう。坂東について調べてみたらかなり面白いことが出てきた。」

「面白い事…」

「そもそも坂東家はババァの実家の家臣だったんだ。ババァが道明寺家に嫁いだ時に坂東もお供として連れてきたらしい。」

「フッ、なんだか歴史の教科書の一部を聞かされてるみたい。」

「ババァの父親は日本銀行総裁も務めたから、そのうちマジで歴史の教科書に載るかもな。」

「…冗談も通じない。」

面白くなさそうにそう愚痴るつくしに、俺も鼻で笑う。

気を取り直して、

「だから坂東はババァとがっちり手を組んでいると思ったんだが、そうでもなくて、どちらかと言うと親父がかなり可愛がっていたみたいだ。」

「へぇー」

「あの写真が苦手な親父が、坂東とのツーショットは笑顔で何枚も撮ってる。そんな2人の関係が拗れたことが坂東が道明寺邸を辞めた原因だ。」

「お父様と坂東さんの関係が悪くなってたってこと?」

「タマが言うには、親父は何かを掴んでいて独自に調べてたみたいなんだ。そして坂東が辞める少し前に書斎で親父が激しく叱責した。」

「仕事でのミスかな…」

「それは分からないけど、辞める程の何かがあったって事だ。そして、今現在は石橋家の執事として働いている。」

「石橋家?」

「ああ。俺の婚約者の家だ。」

「………。」

別に隠すことでは無い。

「道明寺邸を追い出されて石橋家の執事になったという単純な話なら別に気にもしねーけど、どこか気になる。」

「何がよ。」

「数日前、石橋家のパーティーに出席した時、久しぶりに暴れて奥の部屋に連れていかれた。その時に坂東に会ったんだ。明らかに俺を避けてる様子だし、希美と何か企んでる雰囲気はあった。」

「ちょちょちょっと待って。色々と淡々と話してるようだけど、久しぶりに暴れたって何よ!また暴力とか振るった訳じゃないわよねっ?」

「ちげーよ。するかボケ。」

「前科があるから聞いてんのよ!忘れたのかボケっ。」

確かにつくしと付き合ってる時から色々やらかして、つくしから大激怒を食らっている前科がある俺。

「それにあんた、いったい何がしたいの?」

「あ?」

「坂東さんだけじゃなく婚約者の女性まで疑ってどういうつもりよ。これから結婚しようとしてる相手の粗探しをしても仕方ないじゃない。」

「でも、あいつらが裏で俺たちを引き裂いたかもしんねーんだぞ。」

「そんな今更…、引き裂かれた私たちにも責任はあるでしょ。」

「あ?」

「簡単に引き裂かせられると見くびられてたって事。現にあっさりと離婚に至ったじゃない。司が言うようにほんの少し彼らの悪巧みが働いたかもしれないけど、結局それに耐えられなかった私たちが悪いの。」

つくしがそう話してる最中にオフィスに西田が入ってきた。

そして、電話をしている俺の前に数枚の紙を置き、また静かに部屋を出ていく。

その間も

「婚約者の方もそんな裏で探られてるって知ったらいい気しないわよ。」

と、つくしの説教が続いているが、

俺は西田が置いていった紙に手を伸ばしさっと目を通す。

そして、数秒後、電話の向こうのつくしに言っていた。

「わりぃ、切るぞ。」

「えっ?ちょっと…」

まだつくしが何か言っているのは分かったが、今はそれを聞いている余裕はなかった。

その紙は俺が西田に頼んでいた調査の報告書だった。

タマが言っていた、「4年前に旦那様がロスに2ヶ月ほど滞在していた事を誰にも言わないよう口止めされた」というのが気になり、その前後の親父が手がけた仕事や滞在時に会った人物をできるだけ詳しくリサーチして欲しいと頼んでいたのだ。

お忍びで行ったのだからやましい内容の報告書が出てきても驚かない覚悟は出来ていたのだが、そこに書かれていた内容は想像していたものとは違った。

親父が滞在していた期間に専属のドライバーを使っていたことから、その筋で調べたようだが、親父はその期間ある会社をかなり詳しく調べていたようだ。

そして、もうひとつ、ある集合住宅とそこから車で通うことが出来る保育所にも何度か足を運んでいた。

それはどれも聞いたことのある場所で、そこ事が俺を驚愕させた。

つくしの職場である会社とマンション、そしてつくしの息子が通う保育所の名前だった。

親父は俺たちが離婚したあともつくしと連絡を取りあっていたのか?いや、それならつくしと接触していてもおかしくないが、この調査書にある接触した人物の中にはつくしの名前はない。

ならば、親父が勝手につくしの動向を追っていたということなのか。なぜ?別れた嫁の事をそこまで気にする必要がある?

そこまで考えたあと、俺は胸が苦しくなるほどの動悸に襲われた。

まさか、まさかだよな。

タマが言っていたもうひとつのキーワード。

「遺伝子情報解析センター」

親父が秘密で取り寄せたその郵便物と、このロスの2ヶ月の滞在に関連性があるとすれば、答えはひとつしかない。

つくしの息子である冬季のDNAを調べるためだったのではないのだろうか。

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