絡まる赤い糸 9

絡まる赤い糸

「逆にあたしが聞きたい。先に手を離したのはそっちでしょ。信じてたのに、裏切られたのはあたしの方。」

静かにそう言ったつくしに、俺はあの頃と同じように言い返す。

「自分の浮気を正当化しようとすんじゃねーよ。何度も言うけど、俺は後ろめたい事は一切してねぇ。」

「ホテルで密会してたでしょ。出張だと嘘ついて何度も会ってた。」

「だからそんな事実はないって言ったろ?あるなら証拠を見せてみろよ。」

「だからそれは……、」

この会話は5年前も何度もした。

俺の浮気の現場をとらえた写真がつくしの携帯に送られてきて、俺に不信感を抱くようになり、そこに、あの運転手がつけ込んできて親密な仲に……。

「はぁー、これじゃあ、あの頃と一緒だな。」

「今更、こんな話蒸し返す方が悪い。」

「……かもな。」

散々これで言い争いをし、結局は別れてしまったのだから、今更だ。

再び険悪な雰囲気が流れる中、

「でも、一つだけお願いがある。」

と、牧野が言った。

「お願い?」

「あの頃あたしが使ってた携帯、返してくれない?あの中に、大切な写真とかいっぱい残ってて、それだけが気になってたの。」

「携帯?おまえのを俺が持ってる?」

「持っていったでしょ。あんたの浮気現場の証拠写真がそこに入ってたから、あんたが奪ったのよね?」

「あ?」

思わず大きな声が出てしまい、隣の席のカップルが俺たちの方を見る。

「持ってねーよ。そんな記憶はない。」

「嘘でしょ。」

「そういえば……」

「思い出した?」

「いや、違う。あの時、俺の携帯も無くなったよな。」

「は?」

「俺はおまえが取っていったと思ってた。」

「なんであたしがっ。」

「だって、俺の携帯の中には、あの男とおまえが浮気してる証拠写真が入ってただろ。おまえらの写真は封書でも送られてきたし、俺の携帯に直接メールもきていたからそれを保存していた。」

「メール?どこから?」

「それを調べる矢先に、携帯がなくなった。てっきりおまえが……」

2人とも窓の外を見ながら数秒間の沈黙が流れる。

「結局、なーんにも残ってないのよね。」

「ああ、俺も同じこと思ってた。おまえに送られてきたメールも、俺に送られてきたメールや写真も、結局何も残っていない。」

「封書で送られてきた写真も?」

「ああ。あの頃いた邸の執事頭に預けて、合成かどうか調べさせてた過程で紛失した。破棄する書類と混ざってシュレッダーにかけられたらしい。」

「執事頭って、坂東さん?」

「ああ。」

「……あたしも、携帯に送られてきたメールを調べて欲しいって坂東さんに話した数日後に携帯が無くなった。」

5年も前のことだ。曖昧な記憶を辿り寄せる。つくしは俺が出張に行くたびに女と会っていたと思っていたし、俺はつくしがドライバーと俺の目を盗んで密会していたと疑っていた。

その発端は、どちらも携帯や書斎に送られてきた写真。

つくしは俺に突きつけるのが怖くて裏で真実を確かめようと動き、俺はその反対で頭に血が上り、つくしの話も聞かずそれが真実だと信じ込んだ。

その辺から、俺たちの会話は噛み合わず、証拠を照らし合わせたくてもデータがない。

そんな時に追い打ちをかけるように、ドライバーの携帯からつくしとの密会写真が見つかった。

「……、たしか、あのドライバーって、坂東の紹介で邸に入って来たよな?」

「そこまでは知らないけど、坂東さんとはよく話してるのは見かけた。」

「はぁーーん、」

「……なによ、」

「坂東はババァの一番の家臣だった。」

「…………。」

つくしはまだピンときていないらしく、俺の顔をじっと見つめる。

「フッ、どうやら、裏で大きなものが動いてた可能性があるな。おまえに絡んできたドライバーなんて、ただのトカゲのしっぽだったって訳だ。」

「どういう意味?」

「嵌められたのかもしれねーな、俺たち。」

「まさか、お義母さんが関わってると?」

「だとしたら、全てが辻褄が合う。」

俺はそう呟いて、日本にいる魔女の顔を思い浮かべた。私欲のためなら息子だろうと喜んで差し出す女だ。

と、その時、つくしの携帯がなり出した。

「もしもし。ん、もうすぐ帰る。花江さんともう少しだけ遊んで待ってて。」

そう話すつくしは、すっかり母親の顔だ。電話を切り、俺に、

「そろそろ帰らなきゃ。」

と、気まずそうに言う。

「……おう。」

「じゃあ。」

そう言って立ち上がりかけて、もう一度座り直したつくしは俺を見て言った。

「今話したことはただの憶測でしかないし、今更蒸し返してもなんの意味もないの。だから、お互い前を向いて歩こう。」

「…………。」

「元気でね。幸せになって。」

唇をキュッと結び、大きく2回頷いたあと、つくしは俺に背を向けて店を出ていった。

その姿を見つめながら、俺は呟いた。

「分かってる。俺もそうするつもりだ。」

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コメント

  1. ゆりりん より:

    あー知らない間に更新してるじゃないですか~
    ずっと待っていましたよ〜
    ちょっと目を離したらコソッと更新(笑)
    早く誤解をといてLoveいっぱいのつかつく待ってます☺️

  2. ヒメママ より:

    ヤッホーうれしいです
    毎日、確認してました。もしかしたら、日本に居ないのかなって思ってました。
    今日朝イチからえ!、赤印が目にはいってニッコリ、楽しみににしてます

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