あきらが日本に帰国した。半年後の結婚式を控えて色々と準備が忙しそうだ。
あきらの婚約者はアジア系アメリカ人で、仕事の付き合いで3年前に知り合い、その後ゆっくりと関係を深めていった。
昔はマダムキラーと呼ばれていたあきらだが、結婚相手として選んだのは3つも年下の彼女。以前、写真を見せてもらったが、なかなかの美人だ。昔の女遊びの癖は封印して、今は彼女一筋、幸せそうだから何も言うことはない。
そんなあきらが帰国して、久々に俺たちF4で集まることになった。
場所は総二郎がよく使う個室のバー。
「4人で集まるのは久しぶりだな。」
「あきらの彼女も連れてくれば良かったじゃん。」
「まぁ、いずれ紹介するよ。今日は久々に男だけで飲み明かそうぜ。」
そう言って乾杯する俺たち。
お互い家業を継ぎ、忙しく日本と海外を飛び回っている。仕事のジャンルは違えど、4人が集まれば自然と話題はビジネスに。
「山崎産業の会長、いよいよ引退するってよ。」
「俺も聞いた。後継者は娘婿らしい。」
「あの婿はかなりやり手だぞ。」
「ドバイにも手を広げ始めたんだろ?山崎産業だけの資金繰りじゃそこまではならないはずだから、どこかと裏で手を組んでるはずだ。」
「あきら、こんど情報集めておいてくれ。」
「分かった。少し嗅ぎ回ってみる。」
そんなビジネスの話をいくつかしたあと、いつしか話題はお互いの恋愛話へ。
「類は?前の彼女とはどうなった?」
「別れたよ。」
「おまえさぁ、前回も前々回も半年経たずに別れてるだろ。そろそろ本気で恋愛しろよ。」
「結婚するからって偉そうに言うなあきら。」
「あ?おまえこそどーなんだよ、総二郎。」
「俺?俺は心配ご無用。同時進行で3人と付き合ってるから。」
「いい加減にしろバカ。」
「ぎゃははははーー。」
相変わらずの類と総二郎。
ひとしきり笑ったあと、あきらが言った。
「1番恋愛から遠いと思ってた司が、なんだかんだ言って、1番愛妻家だもんな。」
「こはるちゃんは元気?」
「類、気安く呼ぶな。」
「いーだろ別に、減るもんじゃないし。」
「俺でも『ちゃん』付けで呼んだことねーんだから、ヤメロ。」
ボソッと俺がそう言うと、
「プッ……相変わらず独占欲が強いねぇ。」
と、類がからかう。
すると、あきらも俺をからかうように続ける。
「独占欲と言えば、あれを思い出すなぁ。司が結婚してすぐに、総二郎が酔っ払って司に絡んだだろ。『奥さんとの夜はお熱いか?』って。そしたら司、なんて言ったか覚えてるか?」
「あ?……まぁ、大体は。」
「そういうことは聞くな、想像もしてくれるなって。理由を聞いたら、俺たちに奥さんの身体を妄想されただけで無茶苦茶腹立つからって、こいつ言ったんだぞ。」
「ひぇーー、怖っ!司くんは独占欲という塊ですか?」
「うるせぇ。」
確かに今聞いたら赤面ものだ。けど、他の誰かに俺たちの夜を……いや、こはるの身体を想像されただけで、腹が立つ。
たぶん今同じことを聞かれても、同じように答えるだろう。さすがに自分でも度が過ぎている自覚はある。こいつらにそれは言えねぇから、俺は目の前にある酒のグラスをグイッと空けて赤くなった顔を隠す。
今日はかなり呑んだ。
ワインのボトルが6本。それにビールやウイスキーのグラスも空けたから、かなり頭がグラグラときてる。さっきトイレに立ち上がった時でさえふらついたから、あれからさらに2杯は呑まされている。
もう、思考能力も正常とは言えない。
そこで追い打ちをかけるように総二郎が言う。
「結婚して4年たっても奥さんにベタ惚れかよ。」
こいつらは知らない。俺たち夫婦が冷めきっていて離婚まで考えていたことを。けど、今は違う。幼なじみ相手に、酔っているのを理由に、惚気けるほどこはるに惚れている。
「ああ、ベタ惚れだ。」
「おおー、司が認めたぞ。」
「こはるちゃんのどこが好き?」
「ちゃん付けすんなって。こはるの好きなとこ……んー、とにかく、こはる以外なんにも要らねぇ。道明寺の名前も、笹倉家の婿としての地位も、これから得るだろう財産全ても。全部手放しても、こはるさえいればそれでいい。」
ろれつが回っていない酔っぱらいの戯言だ。けれど、口にしながら、以前どこかで同じようなことを言ったような気もする。
すると、類がふふっと笑いながら言った。
「前にも同じことを聞いたよ。司がこんなに惚気けるのは珍しいから、証拠の動画を撮っておいたんだ。」
そう言って携帯を取り出す類。
「動画?」
「うん。あれは総二郎の襲名披露のパーティーがあった日だよね。4人で呑んでる時に、新婚の司がベロンベロンになりながら奥さんの惚気話をしただろ。あっ、ほらあった!これだよこれ。」
類が俺たちに携帯の画面を見せる。そこには酔った俺がネクタイを緩めながら、髪をわしゃわしゃとかき混ぜ何かを言っている。
まるで今と同じ状況。
そして、俺は思い出した。
「類っ!音大きくしろっ。」
思わず怒鳴っていた。
すると、携帯から音声が流れてきた。
『去年までは、どこに行っても結婚はまだかって聞かれてウンザリしてた。どうせ俺の人生なんて親に決められた政略結婚で、好きでもない女と一緒にさせられた挙句、両家のために後継も産まなきゃいけない。そういう相手と暮らしながら、いつしかなんの感情も忘れて、ひたすら仕事を全うするだけのつまらない人生を送るって思ってた。
けど、こはるに会って俺の人生は180度変わった。この女を手に入れるためなら政略結婚だろうが構わないと思ったし、こはるに似た女の子が欲しいとも思った。とにかく、今の俺にとっては、こはる以外、なんにも要らねぇ。道明寺の名前も、笹倉家の婿としての地位も、これから得るだろう財産全ても。全部手放しても、こはるさえいればそれでいい。』
これは、こはるが言っていた『あの日』の動画に違いない。きっとこはるは、この俺の言葉の前半部分しか聞かなかったのだろう。そして、自分が愛されていないと勘違いしたのだ。
動画を見た俺は、
「類、その動画、俺の携帯に送ってくれ!」
そう叫んだあと、急いで店を飛び出していた。
さっきまでの酔いはどこへやら。こはるが待つ笹倉邸に向かって全力で走った。

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