この作品は道明寺司のラブストーリーです。相手役はつくしではありません。キュンキュンするような作品になれば…と思っています。どうぞお付き合いください。
………………
ここは都内の高級住宅が並ぶ一等地。
そこに道明寺邸よりもさらに広い敷地を誇る笹倉邸。
俺はその笹倉家の一人娘である笹倉こはると結婚して4年が経とうとしている。
笹倉家は古くから賃家業を営み、戦後の混乱の中も着々と所有地を増やし財力をつけていった。その後、こはるの父である吉郎が、所有する不動産を担保に融資を受け不動産開発をし、開発した不動産をまた担保にさらに融資を受けて近隣の地域に事業を拡大していくという手法で、ぐんぐんと業績をのばし、今では日本だけではなく各国の首都にあるメイン通りには必ず『笹倉ロード』があると言われるほどにまでなった。
そんな笹倉家と縁談が持ち上がったのは4年前。
俺が25歳の時だった。
その頃は姉の椿が出産して仕事から離れていた為、代役としてパーティーに連れ出されることが増えていた。
道明寺家の一人息子はどこに行ってもチヤホヤされ注目の的。口を開けば、『結婚のご予定は?』と聞いてくる奴らにうんざりしていた。
そんな中、あるパーティーで1人の女に会った。立食の食事を豪快に食べ、ワインやシャンパンを美味そうにごくごく飲み干す。その姿に思わずクスッと笑っちまうほど。
その場違いな女と再会したのは、それから3ヶ月後だった。
親父にホテルのレストランに呼び出され行ってみると、ババァもいて嫌な予感がする。案の定、席に案内されると、テーブルには6人分のカトラリー。
「なんのつもりだよ。」
親父に抗議すると、
「ただの食事会だと思って気楽にしてろ。」
と、笑う。
「ふざけんなっ。」
そう吐きつけた時、
「お待たせしました。」
と、声がして、相手方の一家が現れた。
その娘らしき女を見て、俺は心の中で呟く。
「おっ、あの場違い女か?」
パーティーで俺が思わずクスッと笑ってしまった『場違い女』はなんと世界の笹倉家の一人娘だったのだ。
でも、今日はあの時とは違う。食事も上品に口に入れ、ワインも程々にしか飲んでいない。さすが生粋のお嬢様なだけあり、マナーも完璧でスマートだ。
見た目も黒髪のストレートボブにパッツリと切り揃えられた前髪。短くカットした爪、薄い化粧、少しハスキーで低い声。
どれも品があり、あのパーティーでの印象をかき消した。
それから2週間後、笹倉家から正式に縁談の話が持ち上がった。
それに、『してもいい。』と答えた俺に、親父もババァも信じられないものを見るような目で俺を見つめた。
……………………
「司くん、食事の後、書斎に来てくれるかい?」
「はい。来週の出張の件ですよね?」
「ああ。美味しいワインも用意しておくよ。」
その会話に、
「また2人で飲む気ですか?程々にしてくださいよ!」
義母が呆れたように笑い俺と義父を見る。
結婚して俺は笹倉邸で暮らすようになった。道明寺邸でも良かったのだが、ババァも親父も拠点はNYに移しているし、妻のこはるも住み慣れた場所の方がいいだろう。それに、笹倉家は道明寺家よりも広い。部屋も数え切れないほどある。そこに俺一人が増えたからと言って何も問題はない。
義理の両親との関係は良好だ。30歳になる現在は、笹倉不動産と道明寺ホールディングスの両社の役員として働いている俺。義父の海外の出張に同行したり、家でお酒を飲みながら仕事の話をして夜を明かすこともある。
今の俺は仕事もプライベートも順調でしあわせだ……と言えるはずなのに、
一つだけ厄介な問題がある。それは、妻こはるとの関係だ。
結婚して半年ほどは平穏な日々を過ごしていた。それがある頃を境にすれ違う生活になり、数週間ぶりに会っても素っ気なく会話もほとんどしなくなった。
最初は男でも出来たか?と疑い秘書の西田にそれとなく探りを入れさせたが、こはるの職業柄そんな時間はない。
あいつは都内の大学病院で外科医をしている。1日平均3件の手術をこなし、休みの日は論文の執筆、他科との勉強会などと忙しく、病院に寝泊まりすることの方が多い。
今週も一度帰ってきたが、シャワーを浴びて数時間爆睡したあと食事をして直ぐに仕事に戻って行った。その間、俺たちの会話はなし。
疲れているように見えた。食事中も医学系の本を開き、よく噛まずに流し込んでいく。
こはると暮らすようになって知った。初めてパーティーで会った時のようにこはるが暴飲暴食をする時は決まって、ストレスを抱えている時だ。
患者が亡くなった時、手術がたて混んでいる時、学会でスピーチをすることになった時、そんな時こはるはいつも荒れたように暴飲暴食をする。
普段は酒も飲まず少食なこはるは痩せていてスタイルもいい。そんな彼女が急に荒れたように食べ始めると、使用人たちもそっと目配せをしながら消化に好いものを慌てて用意している。
今日はいつもより一段とイライラしているようだった。そういう時はお互い視界に入らない方がいい。喧嘩にならないように……と言うよりも、極力彼女と関わること自体避けたい。
そもそも政略結婚だ。一時の迷いで結婚したけれど、相手は所詮なんの不自由なく育てられた令嬢。わがままで人に無関心、不機嫌で横柄な態度は今更治せるものでは無い。
時々頭をよぎる離婚の文字。でも、笹倉家に比べたら道明寺家は微妙に格下。離婚で痛手を被るのは道明寺の方だ。
他に好きな女もいない。仕事は充実していて、まだまだ義父に教えてもらいたいことはいっぱいある。だから、こはるとの関係は冷えきっているけれど、今すぐに離婚をするつもりもない。
………………
こはるがダイニングに置いていった医学誌を何気なくパラパラとめくる。すると、もう何年も見ていない笑顔のこはるが載っていた。
『国内初の手術に成功。助手を務めたのは若手外科医のホープ、道明寺こはるさん』
それを見ながら俺は鼻でフンッと笑い、
「愛想良くしてんじゃねーよ。」
と、笑顔のこはるの写真を指で弾いた。
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