新潟から東京に戻り、邸に着いたのは夜になっていた。
エントランスに近付くと、そこには見慣れた車がとまっている。
類のポルシェだ。
「あっ、花沢類の車?」
と、牧野もその車に気付き嬉しそうに呟く。
気に食わねぇ。
類の車を見ただけで、こんなに素直に喜ぶのかよ……と嫉妬心でどうにかなりそうだ。
新幹線の中で「好きだ。」と告白したのに、こいつはシカト。まるで無かったかのように、いつも通りに接してきやがる。
それが何を意味してるのかは分かってる。牧野にとって類が本命で俺は眼中にないのだろう。
けど、こいつがその気でも俺は正々堂々と行くと決めた。
類にもきちんと話したいと思っていたから、類が邸に来てるなら絶好の機会だ。
玄関を開けるといつものようにタマが出迎え、その横に不機嫌そうな類が立っている。
「おかえり牧野。」
「花沢類、どうしてここに?」
「心配だから待ってた。」
そう言って俺の事をチラッと見る類。
「類、少し話したい。俺の部屋に来てくれ。」
「やだね。」
「おいっ、」
「俺は牧野に会いに来たの。牧野との時間が先。」
キッパリそう言い切る類に、牧野が戸惑った表情で俺たちを交互に見る。
仕方ねぇな、ここは俺が折れるしかない。
「わかった、部屋で待ってる。後で来いよ。」
そう言って自室へ先に戻ろうと階段を上がり始めた時、後ろから「花沢類っ!!」と、牧野の焦った声が聞こえた。
振り向いた俺は頭にカァーっと血が上る。
なぜなら、類が牧野に覆い被さるようにしてギューッと抱きしめ、耳元で何かを囁いているからだ。
牧野は顔を真っ赤にして「コクコク」と頷く。
その光景を見ていられず、俺は咄嗟に階段をかけおり、2人の身体を引き離す。
「類っ、いい加減にしろよっ。」
「司、俺たち付き合ってるんだよ。これくらい普通でしょ。」
「ここは俺の家だ。礼儀をわきまえろっ。」
本当なら牧野に触れるなと言ってやりたい。けど、その権限は俺には無いことが猛烈に腹立たしくて、むしゃくしゃした気持ちのまま部屋へと戻った。
その10分後、「入るよ。」と言う声と共に類が部屋に入ってきた。
バルコニーを開け放ち、夜風に当たっている俺の横まで来た類は、
「話って何?」と聞く。
「類……」
その先の言葉を頭の中で今まで何度も練習してきた。
『俺も牧野が好きだ。だから、宣戦布告させてもらう。』
そう言うつもりだったのに、実際類を目の前にするとその言葉が出てこない。
幼なじみの彼女を好きになって、それを横取りしようとしてるなんて、いくら俺でもご法度だとは分かってる。
だから、ただじっと類の顔を見つめたあと、
俺はその場に跪いた。
「っ!……司?」
「類、後生だから頼む。牧野を好きになった俺を許して欲しい。」
「……まさか司、牧野に何かしてないよね?」
「気持ちは伝えた。」
「俺の彼女だって分かってるのに?」
「ああ。もう、隠しきれないほど大きくなっちまったから。」
そう言うと、類が俺の胸ぐらを掴み思いっきり引き上げた。
「そういうのってなんて言うか知ってる司?人のものをコソコソ横取りする泥棒っつーの。」
と、怒鳴ったあと、俺の頬に強烈な一撃を食らわせてきた。
……初めてだ。他人に殴られたのは。
痛みはさほど感じなかった。
いや、むしろ、これでおまえと同じ土俵に立つことを許して貰えるなら本望だ。
唇の端から血の味がする。
殴った類がそれを見てなぜか小さく「ごめん。」と呟いたあと、部屋から出て行った。
…………
ぼぉーっと部屋のソファーに座り込んでいると、
「道明寺っ!」と、ノックもせずに部屋に入り込んでくる女。
俺の切れた唇を見るなり、
「ほんと、何してるのよ2人とも。」
と、最大級の溜息をつきやがる。
「……痛い?」
「ああ。類は?」
「帰った。後始末は頼むって言って。」
そう訳の分からないことを言った牧野は、口の端の切れた部分にそっと触れてくる。
「心配してくれるのかよ。」
「バカすぎて、やってられない。」
「なんだよそれ。俺は本気で類に頭をさげて、」
「花沢類から聞いた。なんであんたが頭を下げたり殴られたりするのよ。」
「そうしねーと、おまえと類の間に入っていけねーだろ。」
「あたしと花沢類の間?友達なのにそんなこと必要?」
「…………?」
友達?今、こいつはそう言ったか?
頭の中がこんがらがる。
「友達って……付き合ってねーのかよっ!?でもよ、さっき類はおまえのこと、そのぉー、抱きしめてたよな?」
「あー、あれ?なんか急に花沢類に捕えられて、『司は別れたってこと知らないのか?』って聞かれたんだけど」
類のヤロー。
わざと俺の目の前で牧野を抱きしめて、煽ってきやがったんだな。
「いつ別れた?」
「んー、ついこの間。」
「どっちから?」
「どっちって、まぁ、ずっと友達みたいなもんだったから、この関係っておかしいよねって話になって」
「早く言えよっ!殴られ損だろ。」
そう言って切れた唇を牧野の顔に近付けると、
「……薬でも塗る?」
と、小さく聞くこいつ。
「……んなの、どーでもいい。痛みなんて吹っ飛んだ。」
俺はそう言って、隣に座る牧野の後頭部に手を回すと、驚いて大きく目を見開くこいつに構わず、もう歯止めが効かない想いのまま唇を重ねた。
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コメント
こんにちは、嬉しい次回まで2日待つのが、30話はゃって思って直ぐ読みました。やっぱり類君は策士ですね
次回、楽しみです
つくしに、一発かな⁉️