花沢類に連れられて、美音さんが入院している病院にまで来てしまった。
美音さんと特別親しい訳でもない。
あたしなんかが………と思ったけれど、
断れずに付いて来てしまった理由はただ1つ。
道明寺に会いたかったから。
別に変な意味では無い。
ただ、道明寺と最後に別れたのは新潟の実家で、突然帰ると言い出しバタバタした状況のまま別れたのが最後だったから。
それっきり、1週間は経つけれど会っていなかったから、ただ様子を知りたかっただけ。
そこに深い意味はない。
美音さんが居るという個室に行くと、扉が開いていた。
そして、中から
「美音、荷物はこれだけか?」
と、久しぶりに聞く道明寺の声。
その返事を待たずに、花沢類がズカズカとあたしの背中を押しながら病室の中へと入っていくと、驚いた顔で道明寺があたしたちを見た。
「お邪魔するよ、お見舞いに来た。」
「類っ。」
「美音、元気そうじゃん。」
「見舞いに来るのが遅いのよ!入院して何日経ってると思ってるの?退院の日に来るってところが類らしいわね。」
呆れたようにそう言ったあと、美音さんは視線をあたしの方へ向けて、
「牧野さん…だったかしら?」
と、戸惑ったように言う。
「あ、はいっ。すみませんあたしまでお邪魔して。」
「いーの。会えて嬉しいわ。」
そう言って笑う美音さんは、以前会った時とはどこか印象が違う。
どこが?と聞かれたら、うまく説明出来ないけれど………。
「司、車は?」
花沢類が聞く。
「邸に置いてきたから、タクシーで美音の屋敷まで行くつもりだ。」
「じゃあ、俺の車に乗ってく?」
その提案に、
「いいの?乗っていく!
1つ、わがまま言ってもいい?途中で何か甘いものが食べたいなぁ。ダメ?」
と、可愛く笑いながら花沢類と道明寺を交互に見る美音さん。
そのキラキラとした笑顔を見て、あたしはさっき考えていた疑問の答えがわかったような気がした。
美音さんが以前となんだか違って見えるのは、
今の美音さんがすごく幸せそうだから。
全身から溢れ出る満ち足りたオーラ。
そして、美音さんをそうさせているのは、
紛れもなく、隣に立つ道明寺なのだろう。
………………………
花沢類が運転する車に乗り込み病院を後にする。
助手席にはあたし。後部座席に道明寺と美音さん。
なんとも居心地が悪い。
「やっぱり、あたしは後ろでいーよ。」
と、小声で運転する花沢類に言うと、
「牧野はそこにいて。」
と、栗色の目を向けて頷く。
そんなあたし達に美音さんが言った。
「類と牧野さんっていつからそんなに親しいの?」
「えっ、」
戸惑うあたしとは反対に、淡々と花沢類が話す。
「司の家に牧野が来た頃からかな。司に虐められてるのを俺が慰めているうちに仲良くなったって感じ。」
「ちょ!花沢類っ!」
「牧野さぁ、クルクル頭のひねくれ男ってディスってたよね司のこと。」
「てめぇ、そんな悪口言ってたのかよ。」
「言ってないしっ!花沢類っ、変なこと言わないでよっ。」
「俺は嘘は言ってないよ。」
「花沢類だって言ってたでしょ、わがままで俺様だって」
「おまえら2人して俺の事いい様に言いやがって、」
「でも、俺たち間違ったことは言ってないよね牧野?」
「まぁ、そうだけど………」
「ふざけんなっ!」
ワチャワチャと3人で言い合うあたしたちを見て、美音さんがたまらずに、
「ぷッ………あははははーー牧野さんって面白いのね。」
と、笑い出す。
そして、
「こんな類と司を見るのは久しぶり。小さな頃はよくこうやって口喧嘩してじゃれあってたのに、最近は見なくなったから寂しかったのよ。牧野さんがいると、昔に戻ったようで楽しいわ。これからは私とも仲良くしてね。」
と、あたしに手を差し出す。
その手を見つめながら、一瞬どうして良いのか戸惑っていると、運転席の花沢類が後ろのふたりに向けて言った。
「仲良くするのはいいけど、邪魔はしないでよ。俺たち付き合ってんだから。」
………………
その夜、あたしはなかなか寝付けなかった。
花沢類の口から「俺たち付き合ってる。」と言われ、そのフレーズが何度もリピートするからだ。
本気なんだ。
あのファーストキスも夢なんかじゃなかったんだ。
恋愛偏差値が底辺にあるあたしは今まで彼氏なんていた事がないし、誰かを好きだと恋焦がれた経験もない。
だから、こんなにトントン拍子に、しかもあの花沢類が彼氏になるなんて夢のまた夢だけれど、このじんわりと胸が暖かくなる感じはまさしく「幸せ」というものなのだろうか。
目を閉じる。
すると、花沢類の姿が映る。
そして、次に道明寺と美音さんの並んで立つ姿が映った。
道明寺を幸せそうな表情で見つめる美音さん。
美音さんもまたあたしと同じように、「幸せ」を感じているのだろうか………。
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