新潟の実家から道明寺邸に戻り3日が過ぎた。
その間、一度も道明寺の姿を見ていない。
あの日、新潟から急遽東京に戻った道明寺に「無事に着いた?」とメールを送ったけれど、未だに返事は無い。
美音さんに何があったのだろうか。
道明寺に会ったら聞いてみよう。
そう思っているのに、なかなか本人に出会えない。
そして、今日の夕食の時にも道明寺はダイニングに現れなかった。
「椿さん、………あのぉ、」
「つくしちゃん、なに?どうかした?」
「ちょっと気になってたんですけど………」
「ん?」
「道明寺ってご飯どうしてます?いやっ、別に深い意味はなくてっ、最近みかけないなぁーって思ったからちょっと聞いただけなんですけどっ。」
あたふたと取り繕うあたしに、椿さんは困ったような顔をして言った。
「司から美音のこと聞いてない?」
「え?………聞いてないです。」
「全く、司ったら困った子ね。新潟から直接病院に駆けつけたって聞いてたから、てっきりつくしちゃんにはきちんと説明してるんだと思ってたのよ。」
渋い顔でそう言ったあと、あたしは椿さんから美緒さんの病気のことを聞かされた。
「知らなかったとはいえ、司もだいぶ美音に冷たくしたみたいだから、反省というか罪悪感があるのかしらね。だから、ずっと美音に付き添って病院にいるわ。」
「………そうだったんですね。」
「結局、あの二人は離れられないってことなのかも。」
椿さんはそう言ったあと、
「それが愛なのか友情なのかは別としてね。」
と、あたしの事をじっと見つめながら綺麗に笑った。
………………………
夏休み中の大学校内は人もまばらで静かだ。
あたしは図書館で目当ての本をいくつか選び午前中は勉強に費やした。
そして、購買でパンを買いいつものベンチへ行くと、そこにゴロンと横になる先客がいた。
「花沢類。」
「お、まーきの。久しぶり。」
「風邪は治ったの?」
「うん。新潟、一緒に行けなくてごめん。」
「いーの。全然気にしてない。」
起き上がった花沢類の横に座り、買ってきたパンを開けながら
「半分食べる?」
と聞くと、無邪気に頷く。
「大学休みなのに、なんでここにいるの?」
「牧野に会えるかなーと思って。」
「プッ…暇なのかいあんたは。」
お互いクスクスと笑い合う。
「牧野は何してたの?」
「あたし?んー、就活かな。」
「就活?へぇー、まだまだ先なのに?」
「あのね、大学4年の夏って言ったら就活最盛期なの。むしろ遅いくらい。はぁー、英徳大生のほとんどは家業を継ぐから就活なんて関係ないのかぁーー。」
思わず深いため息が漏れてしまう。
「牧野はどこに就職するの?」
「あたし?地方公務員になろうと思って。」
「公務員………恐ろしく牧野らしい。」
馬鹿にしてるでしょっと怒ってやりたいけれど、自分でもあたしらしい選択だと思うから反論は出来ない。
昔から安定した職業に就きたかった。だから公務員が1番いいと思っていた。
そんな打算的な気持ちしかなかったけれど、
色々なことに目を向けるうちに、過疎化の地域の子育て事業や老人福祉を支える力になりたいと本気で思うようになり、
心から公務員になりたいと希望するようになった。
だから、花沢類の
「牧野らしい」という言葉は褒め言葉として有難く頂くことにする。
パンを食べ終え袋紙を折りたたんでいると、花沢類が言った。
「新潟に司も行ったんだって?」
「あー、うん。」
「大丈夫だった?」
「ん?何が?」
「司って人に合わせるってこと出来ない人種でしょ。わがままで俺様だし、」
1番の親友にまでこんな事言われるなんてどんだけなのよ、と笑ってしまう反面、
進の代わりに運転してドライブしたり、パパに付き合って遅くまでお酒を交わしたりしていた道明寺の姿を思い出し、
「あたしもそう思ってたけど、………意外とそうでもない一面もあるみたい。」
と、呟く。
すると、そんなあたしの顔をじっと見たあと、花沢類が
「牧野、この後の予定は?」
と、聞く。
「え?別にないけど…」
「じゃあ、一緒に行ってみる?美音の病院に。
今日、退院するっていうから。」
突然の誘いに驚くあたし。
そして、
「ううん、あたしはいい。
行く理由がないから。」
そう言うと、
花沢類が真剣な顔で言った。
「俺と一緒に行く理由はあるよ。
美音にきちんと紹介したいし、牧野は俺の彼女だってね。」
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コメント
お話し、面白い展開になって来ましたね。いつも、楽しい小説をありがとうございます。楽しみに見ています。