次の日、目を覚ますとあたしの両隣の布団は空だった。
慌てて下におりると、リビングでパパとママ、進、そして道明寺が仲良く朝ごはん中。
「つくし、遅いわよ〜。」
ママにそう言われ時計を見ると、まだ8時前。
「えっ、みんなが早くない?」
困惑しながら急いで洗顔と歯磨きをして道明寺の隣に座る。
「眠れた?」
小声で道明寺に聞くと、
「全く。」
と言う返事。
それにしては朝から肌ツヤもよく相変わらず憎たらしいくらいイケメンだ。
「姉ちゃん、9時には出発するからね。」
「えっ?どこに?」
「新潟をたっぷり満喫してもらおうと思って、昨日観光ルートを考えたんだ。
俺が案内するから任してよ。」
得意げにそう言う進も朝からテンションが高い。
果たして道明寺がこのテンションにいつまで耐えられるのか。
あたしはそれが1番気がかりで仕方がない。
そして、1時間後。
パパとママが見送る中、あたしと道明寺は進が運転する車に乗り込んで家を出発した。
「道明寺さん、目的地まで30分くらいあるので、寛いでいて下さい。」
後部座席に座る道明寺にそう声をかけ、進が車通りの多い道路に入っていく。
今日は土曜日だからいつもより混んでいて、車線変更をしたい進がウインカーを出しているのに中々タイミングが掴めない。
すると、後ろの席から道明寺が言った。
「弟、もしかして初心者か?」
「あー、はい。」
そうなのだ。
専門学校に通う進は3ヶ月前に免許を取ったばかり。
「まじかよ。」
「でも、大丈夫です、この道は慣れてるので。」
自信満々に言う進だけど、その運転はかなり危なかっしい。
「そこのコンビニで止めろ。」
「えっ?」
「俺が運転交代する。」
「はぁ?」
驚いてあたしも後ろを振り向き道明寺を見つめる。
すると、この人は冷静な顔で言った。
「道明寺財閥の後継者がこんなところで死ねるかよ。」
………………………
朝9時に出発して家に戻ったのは夕方5時を回っていた。
午前中はお寺や神社を周り、午後からは高原でロープウェイに乗ったり土産屋を散策したり。
その間、ずっと道明寺が運転して、助手席のあたしと後部座席の進の2人で地図を手にナビ。
家に到着し、
「疲れたでしょ。夕飯まで少し休んでて。」
そう言ってあたしはママとキッチンで夕飯の準備を始めた。
その間、道明寺と進はリビングでテレビを見ていると思っていたのに、やけに静かだ。
しばらくしてリビングを覗いてみると………
案の定、2人とも床に寝転がり眠っている。
「あらあら、疲れたようね。」
ママもそう呟き、
「夕飯は、もう少し後にしましょう。」
と、苦笑する。
狭いリビングに大きな図体の男が2人。
今日1日一緒に過ごして、進は道明寺に懐いていたし、道明寺も進を弟のように扱っていた。
いつも王様気取りの男のくせに、案外面倒見のいいところもあるんだと少し感心してしまった。
道明寺と一緒にいると、知らなかった一面が次々と見えてくる。
笑うと意外に目が垂れるところや、右目の下に小さなホクロがあること。食事の作法がすごく綺麗で、好き嫌いがほとんどないこと。
水に濡れると髪がストレートになるところや、ライム系の香水をつけていること。
その一つ一つを知る度に、なぜかすごく特別な秘密を手に入れたような気分になりどこかにメモをしておきたくなる衝動にかられる。
今もほら、寝ている道明寺にブランケットをかけようと近づいた時、また1つ秘密を見つけてしまった。
それは、
くっきりとした二重の線と緩やかにカールされた長いまつ毛。
思わず見とれてしまったあたしは、じっとその綺麗な寝顔を眺めていた。
すると、次の瞬間、ゆっくりとその瞼が開く。
そして、道明寺と目が合った。
たっぷり5秒ほど見つめあったあと、
「………………まきの?」
と、道明寺が呟く。
我に返ったあたしは、
「あっ、………ごめん!」
慌てて道明寺から身体を離そうとした瞬間バランスを崩してしまった。
道明寺の身体の上に倒れかけたあたしを、
「あぶねっ」
と、小さく呟きながら抱きとめてくれる。
そこまでは良かったのに、
その後、離れようとしたあたしを強い力で道明寺が引き寄せた。
まるで、抱きしめるかのように。
すぐ側には進も眠っている。キッチンにはママだっている。
そしてなんで道明寺が………と、頭がパニックになりかけた時、
道明寺のポケットで携帯がなる音が聞こえてきた。
その音に進がモゾモゾと動き出す。
それを見て、慌ててあたし達は身体を離した。
「ど、道明寺、電話だよ。」
「お、おう。」
もしもし…と電話に出た道明寺は
「あ?どういう事だよ。」
と、急に顔を曇らせた。
そして、
「美音が?…どこの病院だ?
わかった。今すぐ、東京に向かう。」
そう言って電話を切った。
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