新潟行きの新幹線の中。
あたしの隣には長い足を窮屈そうに組み、座る道明寺がいる。
新幹線に乗るまでは何かの冗談だと思っていたのに、まさか本当に新潟までくるとは思いもしなかった。
だから、もう何度も聞いたセリフをもう一度この人に言う。
「本当に付いてくるの?」
「ああ。っつーか、しつこいぞ。」
「だって!おかしいでしょ!
なんであんたが……」
「ババァに頼まれたから仕方ねぇだろ。」
確かに、楓さんからパパとママに両手いっぱいの土産の品を持たされた。
それをあたし一人で持ち帰るのは大変で、道明寺が荷物持ちをしてくれるのは助かる。
でも、それとこれとは別で。
口を開けば喧嘩ばかりのあたし達が新幹線で2時間も一緒に過ごすなんてありえない。
「断ってくれて良かったのに。」
そう小さく呟くと、
「あんなに喜ばれたら断れねーだろ。」
と、窓の外を見ながら道明寺も呟く。
「え?喜ぶ?」
「ああ。おまえの両親に、昨日電話で俺も行くって伝えたらすげぇ喜んで、3人で駅まで迎えに行くってはしゃいでたぞ。」
「はぁ?3人って。」
「両親と弟。」
「嘘でしょ、ついこの間あたしが帰るって言った時はママは仕事で進も学校があるから駅に迎えに来てくれるのはパパ1人だって言ってたのに。」
「仕事も学校も休んで来るってよ。」
「はぁーーー?」
信じられない……という顔で道明寺を見ると、
この人は勝ち誇ったように、
「おまえより俺の方が歓迎されてるってことだな。」
と、言い放った。
…………
新幹線の2時間は意外にあっという間に過ぎた。
亡くなった父方の祖父が新潟に住んでいて小さな頃から遊びに行っていたこと。
小さな川で魚を釣ったり、庭にテントを張って星を見たり、夏休みになるとそうやってアウトドアを楽しんだこと。
そんなあたしが話す昔話を、道明寺は小さく頷きながら聞く。そして、時々馬鹿なことやトンチンカンな事を言ってあたしを笑わせたり呆れさせたり。
これが花沢類だったら、あたしはきっと緊張とドキドキでまともに話せなかったし気疲れしていたかもしれない。
でも、道明寺とならおやつもバクバク食べれるし爆睡だってできる。それくらい、気楽でノンストレスだった。
駅に着くと、宣言通りパパとママと進が大きく手を振って出迎えていた。
「遠いところまでようこそ。」
道明寺に深々と頭を下げる両親に、
「出迎え、ありがとうございます。」
と、丁寧に挨拶する道明寺。
いつも威張り散らしている男とは思えない態度に苦笑してしまう。
そして、約40分かけて我が家に到着。
その頃にはもう既に日が暮れていた。
「道明寺さん、ゆっくり休んでください。」
茶の間に通された道明寺はしきりに物珍しそうに部屋をキョロキョロと見回している。
そんな道明寺にあたしは、小声で気になっていたことを聞く。
「ねぇ、今日のホテルってどこ?」
「あ?」
「だから、あんたの泊まるホテルってなんてとこ?
ここからどれくらいかかるんだろう。」
携帯で地図を出そうとしたあたしに、道明寺は驚くことを言った。
「ここに泊まるに決まってんだろ。」
「はぁ?」
「布団は用意してあるって母親が言ってたぞ。」
「母親って……えっ?!まさかあんたもうちに泊まるの?」
「ああ。俺は遠慮したけど、おまえの両親がどうしてもって。」
「パパーっ、ママーっ!」
聞いてない聞いてない聞いてない。
まさか、道明寺もこの家に泊まるなんてっ。
「ねぇ、あんたこんな所に泊まれるの?
お城のような所でしか寝たことないでしょ?」
「ああ、こんな天井が低い家あんだなー。」
「……信じらんないっ。」
そうあたしが呟いていると、奥の部屋からパパがビールの缶を両手に抱え、
「さぁ、道明寺さんお疲れでしょうから、1杯やりましょう。」
と、嬉しそうに現れる。
そして、それと同時にママが
「今日は奮発してすき焼きにしたのよ〜。道明寺さん遠慮なくお腹いっぱい食べてくださいね〜。」
と、鍋をテーブルにセッティングし始める。
「ねぇ、ねえってば!
本当に道明寺もここに泊まるの?」
あたしはここにいる全員に聞くように、声を張り上げた。
すると、道明寺がクスッと笑いながら、
「いい加減、この状況を受け入れろよ。」
と、憎たらしく言った。
………………
22時。
実家の2階の8畳間に布団が3つ敷かれている。
一番端には既に疲れて眠る進の姿。
中央にはあたし。
そして、反対側の布団には道明寺がゴロンと横になっている。
「寝れる気がしねぇ。」
そう呟く道明寺に、
「だから言ったでしょ!
こんな所で寝れないからホテル取った方がいいって。」
と、あたしも進を起こさないように小さく呟く。
「はぁーー。」
「呑みすぎた?」
「おまえの親父、結構酒つぇー。」
「ふふ……いつもはあんなに呑まないのに、道明寺が来たのが相当嬉しかったみたいね。」
今日のパパは終始浮かれていた。
何度も何度も道明寺に「恩は忘れない。感謝してもしきれない。」と話していた。
「明日は新潟観光だろ?」
「ほんとに行くつもり?」
「弟が運転するって張り切ってたぞ。」
「無理しなくていーよ。うちの家族といたら、あんた疲れて死んじゃう。」
あたしがそう言うと、道明寺からの返事は無い。
豆電球だけの暗い部屋。
道明寺の方をチラッと見ると、目をつぶっている。
「道明寺、寝た?」
「…………。」
やっぱり返事はなく、どうやら寝落ちしたようだ。
あたしも寝ようと、目を閉じた時、道明寺の声が再びした。
「疲れねーよ。」
「え?」
「今日1日、異次元なことばっかだったけどよ、全然疲れたとは思ってねぇ。いや、むしろ久々にワクワクした。」
「……ワクワク?」
「ああ。……やっぱ、来てよかった。」
静かにそう言う道明寺。
その言葉に嘘はない気がして、心が癒される。
「道明寺、」
「あ?」
「明日はもっと……」
観光してワクワクさせてあげる。
そう言いたかったのに、あたしは睡魔に勝てず眠りに引きづり込まれる。
だから、
「……牧野?……おい、……ったく、この状況で寝るか普通。」
という道明寺の呆れた声は聞こえなかった。
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