パーティーの日以来、道明寺の機嫌が悪い。
会えば突っかかってくるし話せば口論になる。
「喧嘩でもした?」
椿さんにも心配されるけど、
思い当たる節は全くない。
今日も朝から登校中の車の中で、
「おまえさ、」
と、喧嘩腰にあたしを睨むこの男。
「何よっ。」
「……別に。」
「ねぇ、最近なにかと絡んでくるけど、あたしあんたに何かした?」
もう限界とばかりに、あたしも少し強めに詰め寄る。
すると、
「おまえ……類と、付き合ってるのか?」
と、道明寺が怖い顔で聞いてきた。
「えっ、花沢類?」
「ああ。」
花沢類……そのワードは今のあたしにとって禁句だ。
なぜなら、彼を思い出しただけでも心臓がドキドキするから。
パーティーの日、花沢類に好きだと告白された。
しかも、キスまで。あたしにとっては貴重なファーストキス。
密かに思いを寄せていた相手だから嬉しくて堪らなかった。その日以来、あたしは花沢類と会ってもまともに目を合わせることさえ出来ない。
そんなあたしを見て、
「牧野は可愛いね。」と笑うから、ますます想いは募るばかり。
先週は、花沢類に
「牧野、夏休みの予定は?」
と、聞かれ、
「両親に会いに新潟に行くつもり。」
と、答えると、
「そっかぁ、俺も一緒に行こうかな。」
と、言い出した。
「えっ?!」
驚くあたしに、
「牧野のご両親にも会ってみたいし。」
と、サラッと爆弾発言をするこの人。
あたしたち、本当に付き合ってるの?
両親に会いたいって、どういう意味?
っていうか、泊まりで行くんですけど、大丈夫?
色々聞きたいことはあるけれど、
「予定決まったら教えてよ。」
と、言ってベンチにゴロンと横になる花沢類を見て、
この人の頭の中が知りたい……とあたしは頭を抱えた。
そんな事を思い出しながら、道明寺の顔を見ると、
「どうなんだよ、付き合ってるのか?」
と、もう一度聞いてくる。
「んー、まぁ、そんなとこかな。」
と、曖昧に応えると、
道明寺はあたしから視線を逸らし、不機嫌そうに、チッと舌打ちをした。
………………
それから2週間後の夏休み初日。
あたしは小型のスーツケースに3泊分の荷造りをしていた。
明日から新潟に帰省する。
正午頃の新幹線を予約した。
向こうの駅にはパパが迎えに来てくれると言っていた。
あたしの心臓は今からドキドキと鳴っている。
なぜなら、5ヶ月ぶりに家族と会える嬉しさと、
もうひとつ。
花沢類も一緒に行くことになったのだ。
冗談で言っていたのかと思ったのに、実際あたしが帰省すると話したら、「俺も行く。」と当たり前のように言い出した。
「えっ、でもあたし3泊してくるよ?」
「いーよ、俺もホテル取るし。新潟って行ったことないから、ゆっくり観光してこようかな。新幹線、何時?俺、朝は弱いから出来れば昼くらいのがいーな。新潟の名物ってなんだろー。」
ドキドキが止まらないあたしとは正反対に、なんとも呑気なこの人。
結局、あれよあれよと花沢類と一緒に新潟行きが決まった。
両親には、「友達も一緒に行く。」とは言ってあるけれど、男友達とは言っていないし、ましてや彼氏だなんて言ったらパパが倒れかねない。
純粋に旅行を楽しみにしている花沢類を見て、意識しすぎない、しすぎない……と自分に言い聞かせた。
…………
荷造りが終わり、一息ついていると、あたしの部屋の扉がノックされた。
「はいっ。」
「俺だ。開けるぞ。」
返事も聞かずに部屋のドアを開けるのは、相変わらずこの邸では王様の道明寺。
「なに?」
「おまえ携帯は?」
「え?今、充電してるけど。」
そう言って部屋の奥の方を指さすと、
「類がおまえに何度電話してもでねーから、かけ直すように伝えてくれって。」
と、言う。
あたしは慌てて携帯を取りに行き画面を開くと、花沢類から何件も着信があった。
「急ぎらしいから、今かけろ。」
「ん。」
道明寺に言われるまま花沢類に電話する。
「もしもし、花沢類?ごめん、着信気づかなくて!
どうかした?……って、何その声!」
電話に出た花沢類の声がいつもと全然違う。
「ごめん、牧野。俺風邪ひいちゃって。」
「風邪?」
「うん、昨日から39度の熱。」
「えーっ!!」
「俺って、楽しみなことがあると熱出すタイプなんだよね。」
楽しみなこと……まさか。
「新潟、行きたかったけど、行けそうにないんだ。」
悲しそうにそう呟く花沢類。
その言葉に、あたしは思わず爆笑してしまう。
「あはっ、あはははー、あんたは遠足の前日に熱出す小学生かって。ほんっと、面白い!さすがだわ花沢類っ。」
「笑いすぎ牧野。ほんとごめん。新潟行き、キャンセルしてもいいかな。」
「いーのいーの!ゆっくり休んで!お土産買ってきてあげるから。」
笑いを堪えながらそう伝えて電話を切ると、道明寺があたしを不思議そうに見つめて言う。
「類と一緒にどこかに行くつもりだったのか?」
「ん、明日から新潟に帰省する予定なんだけど、花沢類も付いてくるって言ってたの。でも、風邪でダウンしちゃったんだって。」
「新潟……かよ。」
そう呟いて黙る道明寺は、腕を組み何か考え事をしているような雰囲気だった。
………………
次の日、予定通り9時半に邸を出て駅へと向かう。
荷物が多いから邸の車を使いなさいと楓さんが言ってくれて、今回は遠慮なくお願いすることにした。
エントランスで待っていると、1台の車が近づいてくる。
そして、いつも学校まで乗せてくれている運転手さんが降りてきて、あたしのスーツケースをトランクへ運んでくれた。
「駅までお願いします。」
あたしは頭を下げてそう言ったあと、いつものように後ろのドアを開けて車に乗り込んだ。
そして次の瞬間、驚きで叫んでいた。
「わぁ!なんで道明寺がいるの?」
「なんでって、俺も行くから。」
「はぁ?」
「類が行けなくなったんだろ。仕方ねぇから、俺が付き添ってやる。」
その言葉に、あたしはあまりの驚きで声が出なかった。
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