眠れない夜 15

眠れない夜

パーティーが終わり邸は静けさを取り戻したというのに、俺の部屋ではまだこいつらがうだうだと長居をして騒いでいる。

「早く帰れよお前らも。」

「司ー、いーだろ久しぶりにおまえの部屋に来たんだから。」

「どうせ、俺のコレクションを呑みてぇだけだろ。」

長年コツコツと集めている海外の有名なワイン。それを目当てにあきらと総二郎、類が居座っている。

もう既に2本を空けた。

放っておくと5本は軽く呑み干す勢いのこいつらに、そろそろ帰れと催促して1時間。

ようやく重い腰を上げて

「そろそろ帰るか。」

と、立ち上がったのは日付が変わる直前だった。

「司、またなー。」

「おう。フラフラしねーでそのまま帰れよ。」

「見送りはいらねぇ。」

「しねーよ、バカ。」

ぎゃはははーー、とバカ笑いをしながら俺の部屋を出ていく3人。

久しぶりにゆっくりこいつらと呑むのも悪くねぇ。

最近、美音の事でイライラと気がたっていた。それが少しは晴れたようでスッキリした。

シャワーにでも入るか……と、ベッドルームへ行こうとしたその時、ソファーの上に上着が置いてあるのに気付く。

白い皮のジャケット。

これは類の物だ。

ったく、相変わらずあいつはどこにでも忘れ物をしやがる。

きっとまだエントランスを出てすぐ位だろう。

追いかければ間に合うか。

そう思い、俺はそのジャケットを手に持ち急いで部屋を出た。

エントランスを出て辺りを見回しても3人の姿はない。

もう正門の方まで行ってしまったか…。

小走りで門の方へ走ると、前方に人影が見えてきた。

「類っ!」

大声で呼ぶと、その人影が振り向く。

「司?どーした?」

その人影の方に近づくと、そこにはあきらと総二郎の2人だけ。

「類は?」

「ジャケット忘れたって、おまえの部屋に戻ったぞ。」

「まじかよ、行き違いになったな。」

「どーする?俺らが預かっておくか?」

「いや、いい。今戻れば、類に会えるだろうから。」

俺はそう言って今来た道を引き返す。

俺の部屋から真っ直ぐ門に向かったとすればこの道が一番近い。

でも、類とは会わなかった。

という事は、類は中庭を抜けてエントランスに行ったのか?

また行き違いにならない様に、今度は俺も中庭を通ってエントランスまで帰ることにした。

中庭はさっきまでのパーティーの華やかさが嘘のように今は暗く静まり返っている。

月のあかりだけがその場を照らし、プールの水面がキラキラと輝いている。

やはり、類はここを通ってはいないだろう。

わざわざ遠回りをして中庭にくる必要も無い。

そう思い、俺も中庭から出ようとした時だった。

「牧野。」

と、類の声が中庭のどこかから聞こえてきた。

「花沢類、どうしたの?」

と、牧野の声も。

俺は暗闇の中、目を懲らす。

すると、中庭のプールのそばに立つふたつの影。

月上がりで浮かび上がったのは、牧野と類だった。

「司の部屋で呑み直してたんだ。」

「こんな時間に電話が来たからびっくりしちゃった。何か用だった?」

「いや。ただ、牧野に会いたくなったから。」

類のその言葉に、耳を疑う。

なぜなら、類の声が聞いたこともないような甘い声だったから。

「花沢類、酔ってるの?」

「んー、少しね。」

「家まで帰れる?」

「帰れないって言ったら、牧野の部屋に泊めてくれる?」

冗談だろ?類の口からそんな言葉が出るなんて。

牧野も同じように思ったのか、クスッと笑いながら、

「相当、酔ってるみたいね。ほら、早く帰って。」

と、類の体を反転させ、門の方角へと向かせる。

すると、次の瞬間、類が思いもかけない行動に出た。

もう一度牧野の方に向き直り、牧野の身体を抱きしめたのだ。

思わず、見ちゃいけねぇもんを見たような気になり、咄嗟に俺は木の影に隠れる。

「花沢類っ!」

「牧野、」

「ん?」

「俺、牧野の事が好きかもしれない。」

「…えっ?」

戸惑うような牧野の声。

そして、2人の会話がなくなった。

沈黙が流れる。

どうした?気になり、俺は再び木の影から顔を出し、2人の様子を伺おうとした時、驚きで固まった。

なぜなら、

類が牧野に…キスをしていたからだ。

身長差のある2人。

類が牧野を引き寄せるようにして重なる唇。

そして、離されたあと、類が一言言った。

「牧野、好きだよ。」

それを聞いた牧野の表情が月明かりに照らされる。

それは俺が今まで見たこいつの表情の中で、一番綺麗なものだった。

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