パーティーが終わり邸は静けさを取り戻したというのに、俺の部屋ではまだこいつらがうだうだと長居をして騒いでいる。
「早く帰れよお前らも。」
「司ー、いーだろ久しぶりにおまえの部屋に来たんだから。」
「どうせ、俺のコレクションを呑みてぇだけだろ。」
長年コツコツと集めている海外の有名なワイン。それを目当てにあきらと総二郎、類が居座っている。
もう既に2本を空けた。
放っておくと5本は軽く呑み干す勢いのこいつらに、そろそろ帰れと催促して1時間。
ようやく重い腰を上げて
「そろそろ帰るか。」
と、立ち上がったのは日付が変わる直前だった。
「司、またなー。」
「おう。フラフラしねーでそのまま帰れよ。」
「見送りはいらねぇ。」
「しねーよ、バカ。」
ぎゃはははーー、とバカ笑いをしながら俺の部屋を出ていく3人。
久しぶりにゆっくりこいつらと呑むのも悪くねぇ。
最近、美音の事でイライラと気がたっていた。それが少しは晴れたようでスッキリした。
シャワーにでも入るか……と、ベッドルームへ行こうとしたその時、ソファーの上に上着が置いてあるのに気付く。
白い皮のジャケット。
これは類の物だ。
ったく、相変わらずあいつはどこにでも忘れ物をしやがる。
きっとまだエントランスを出てすぐ位だろう。
追いかければ間に合うか。
そう思い、俺はそのジャケットを手に持ち急いで部屋を出た。
エントランスを出て辺りを見回しても3人の姿はない。
もう正門の方まで行ってしまったか…。
小走りで門の方へ走ると、前方に人影が見えてきた。
「類っ!」
大声で呼ぶと、その人影が振り向く。
「司?どーした?」
その人影の方に近づくと、そこにはあきらと総二郎の2人だけ。
「類は?」
「ジャケット忘れたって、おまえの部屋に戻ったぞ。」
「まじかよ、行き違いになったな。」
「どーする?俺らが預かっておくか?」
「いや、いい。今戻れば、類に会えるだろうから。」
俺はそう言って今来た道を引き返す。
俺の部屋から真っ直ぐ門に向かったとすればこの道が一番近い。
でも、類とは会わなかった。
という事は、類は中庭を抜けてエントランスに行ったのか?
また行き違いにならない様に、今度は俺も中庭を通ってエントランスまで帰ることにした。
中庭はさっきまでのパーティーの華やかさが嘘のように今は暗く静まり返っている。
月のあかりだけがその場を照らし、プールの水面がキラキラと輝いている。
やはり、類はここを通ってはいないだろう。
わざわざ遠回りをして中庭にくる必要も無い。
そう思い、俺も中庭から出ようとした時だった。
「牧野。」
と、類の声が中庭のどこかから聞こえてきた。
「花沢類、どうしたの?」
と、牧野の声も。
俺は暗闇の中、目を懲らす。
すると、中庭のプールのそばに立つふたつの影。
月上がりで浮かび上がったのは、牧野と類だった。
「司の部屋で呑み直してたんだ。」
「こんな時間に電話が来たからびっくりしちゃった。何か用だった?」
「いや。ただ、牧野に会いたくなったから。」
類のその言葉に、耳を疑う。
なぜなら、類の声が聞いたこともないような甘い声だったから。
「花沢類、酔ってるの?」
「んー、少しね。」
「家まで帰れる?」
「帰れないって言ったら、牧野の部屋に泊めてくれる?」
冗談だろ?類の口からそんな言葉が出るなんて。
牧野も同じように思ったのか、クスッと笑いながら、
「相当、酔ってるみたいね。ほら、早く帰って。」
と、類の体を反転させ、門の方角へと向かせる。
すると、次の瞬間、類が思いもかけない行動に出た。
もう一度牧野の方に向き直り、牧野の身体を抱きしめたのだ。
思わず、見ちゃいけねぇもんを見たような気になり、咄嗟に俺は木の影に隠れる。
「花沢類っ!」
「牧野、」
「ん?」
「俺、牧野の事が好きかもしれない。」
「…えっ?」
戸惑うような牧野の声。
そして、2人の会話がなくなった。
沈黙が流れる。
どうした?気になり、俺は再び木の影から顔を出し、2人の様子を伺おうとした時、驚きで固まった。
なぜなら、
類が牧野に…キスをしていたからだ。
身長差のある2人。
類が牧野を引き寄せるようにして重なる唇。
そして、離されたあと、類が一言言った。
「牧野、好きだよ。」
それを聞いた牧野の表情が月明かりに照らされる。
それは俺が今まで見たこいつの表情の中で、一番綺麗なものだった。

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