眠れない夜 14

眠れない夜
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毎年恒例の会長のバースデーパーティーが始まった。

招待客は300人ほど、邸の中庭をメインにオーケストラの演奏と三ツ星シェフの料理が並んでいる。

パーティーには花沢家、西門家、美作家ももちろん招待されていて久しぶりにF4の両親が顔を合わせた。

そして、その少し離れた場所には東城家の両親もいる。東城家の一人娘の美音も一緒だ。

美音の両親に会うのは約3年ぶりだろうか。

両親は海外で活躍する作曲家とピアニストだ。

だから、美音が幼い頃から家を留守にしがちだった。

いつも祖母に預けられていた美音。

そんな境遇が俺と似ていた。

だからか、俺たちはお互いを慰め合い、寂しさを埋め合うように。そしていつからか恋愛感情を抱く仲になっていた。

美音といると居心地が良かった。

この世の孤独は俺だけじゃない。

そう感じさせてくれるからだ。

それがある時突然、別れをつづった手紙を置いて美音は俺の前から姿を消したのだ。

数ヶ月後、連絡が取れた時はアメリカで音楽学校に通い充実した生活を送っていると笑ってやがった。

彼女を失ったと言うよりは、同士を失ったという気持ちが強かったかもしれない。

また俺だけが孤独なんだと…………。

…………

あの頃の苦い思い出が蘇り、それを振り切るため俺は中庭を出て邸の中へと入っていった。

腕時計を見ると22時を回っている。

そろそろパーティーもお開きの時間だろう。

自室に戻ろうか…と階段まで歩いて行くと、正面からパーティーには似つかわしくない装いの女が歩いてきた。

「おまえ、その格好でパーティーに?」

「えっ、いや、違うよ。バイトだったの。」

「バイト?こんな日に?」

「そう、どうしても抜けれなくて。

あれ?パーティーは終わったの?」

邸の中に引き上げてきた俺を見てそう話すのは、ジーンズとTシャツ姿の牧野。

「そろそろ終わる。」

「ふうーん。」

そんな会話をした時だった。

中庭のステージからピアノの音色が響いてきたのだ。

ザワザワとしていた招待客達も、その音色で静まり返る。

「ピアノ?…」

牧野はエントランスの大きな窓に近付き、そこから中庭を見て、

「あれって美音さん?」

と、俺に聞く。

「ああ。」

「すごい…素敵。」

美音が弾きはじめた曲はあいつが一番好きなショパンの幻想ポロネーズ。

何度も何度も聞いたことがあるから、美音の指使いやリズムが俺の耳にも染み付いている。

そのせいで、俺はこの曲がいつからか苦手になった。

この曲を聞けば、嫌でも美音を思い出すから。

でも、その曲をうっとりとした表情で聞き入る牧野。

そして、小さく呟く。

「ピアノってこんなに綺麗な音が出るんだ。」

「おまえの家にピアノは?」

「あるわけないでしょ。」

即答する牧野に思わず笑っちまう。

すると、横に立つ俺を見上げて、

「あのね、そうやって笑うけど、ピアノが家にある方が珍しいんだからねっ!」

と、睨むこいつ。

「そうか?俺の周りの奴らはみんなあるけどな。」

「あんたの周りは特殊だっつーの。

それを日本のスタンダードだと思わないでくれる?」

「日本のスタンダードがおまえだとしたら、日本も終わってんな。」

「ちょっと!!」

ムキになって俺の肩をバシッと殴ってくるこいつ。

そんなこいつの顔を見て、俺はクスッと笑いながら思わず口走る。

「おまえって、表情がコロコロ変わって面白ぇよな。」

「…え?」

「泣いたり、笑ったり、怒ったり…。

忙しくねーの?」

「………」

見つめ合う俺たち。

「俺にはねーから羨ましい。」

「……あんただってそうすればいいじゃない。」

「感情は表に出すなって育てられたから、今更できねーよ。」

「なんで?それがお金持ちのスタンダード?」

「そうかもな、俺たちのスタンダード。」

その時、美音の弾く曲が終盤の快活なメロディーに変わり、最後に高い主和音が曲の終わりを告げた。

会場から大きな拍手が上がる。

そして、椅子から立ち上がった美音が深々と頭を下げた。

その時、牧野が俺に言った。

「楽しい時は笑って、悲しい時は泣いて、腹が立てば怒ればいーじゃない。

お金持ちも貧乏も関係ない。

それが、人としてのスタンダードなの。」

そう話す牧野の横顔を見つめる。

そして、俺は不意に思う。

『なぁ。強くて綺麗な者を見た時は、どう表現したらいいんだ……?教えてくれよ。』

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