それから3週間がたった頃、邸の中がいつもより慌ただしい事に気付き椿さんに聞いてみる。
「何かあるんですか?」
「来週の日曜日、おじい様のお誕生日なの。
毎年、邸にお客様をお呼びしてパーティーを開くのよ。今年はもちろんつくしちゃんも参加してね。そうだ!このあと一緒にドレス選びに行きましょうよ。」
「えっ、あたしはそんなっ。」
「つくしちゃんは何色が似合うかしらね〜、お母様にも相談してみるわ。」
パーティーなんて出席したこともないし、ドレスなんて夢のまた夢。
それに、日曜日はバイトが入っている。
「椿さん、あたしその日バイトなんです。」
「えっ、ほんと?休めないかしら。」
「人手が少なくてどうしてもって言われてて。」
「そう、仕方ないわね。でも、パーティーは遅くまでやってるし、美味しいお料理も沢山あるからバイトが終わったら絶対に顔を出してね。」
そう言って綺麗にウインクする椿さん。
結局、あたしはこの日の夕方、楓さんと椿さんに車に乗せられて青山にあるお洒落なお店に連れていかれた。
そして、着せ替え人形のように赤や青、ピンクや黄色のドレスを試着し、最終的にピンクのドレスを持ち帰ってきてしまった。
帰りの車の中、
「あのぉー、あたし本当にパーティーには間に合わないと思うんです…」
と、申し訳なさそうに言うと、
「いいのよ、そのドレスつくしさんによく似合ってたわ。いずれ使う時がくるかもしれないから、大事に取っておいて。」
と、楓さんが言ってくれる。
いずれ使う時なんてあたしにくるだろうか。
そう思いながらも、あたしはお二人の気持ちがとても有難くてドレスが入った箱を大事に膝に抱えた。
………………
誕生日パーティー当日。
朝から邸の中はバタバタと準備に追われている。
中庭にはオーケストラが入るステージが作られ、その周りにはお料理が並ぶテーブルがいくつもセッティング。
木々にはイルミネーションが施してあり、道明寺邸の門をくぐってから中庭までの全てがまるでおとぎ話の世界みたいだ。
バイトのため夕方には邸を出るあたし。
先に会長のお部屋に寄って、誕生日プレゼントを手渡すことにした。
「高価なものではないですけど…」
「ありがとう。開けてもいいかな?」
会長が小さな箱を開ける。
「これは?」
「万歩計です。」
「万歩計?」
道明寺財閥の会長に万歩計なんて…と笑われるかもしれない。でも、これがあたしが出来る最大限のプレゼントだと思って選んだ。
「この万歩計は、杖の握るところにぐるりと巻いて使うんです。
会長がいつも日課にしているお散歩の時に、杖を使いますよね?その杖に巻いてください。
そうすると、歩数だけじゃなく、手のひらから血圧や脈なども予測できる物なんです。」
「……へぇ、すごいねぇ。」
会長にはまだピンと来ていないようで、その万歩計を不思議そうに見ている。
「そして、もうひとつ機能があって…」
「ん?」
「その万歩計はあたしの携帯と連動しています。
もし万が一、会長がいつもと違うルートを通っていたり、脈拍や血圧に異常が表れた場合は、あたしの携帯に通知が来るようになっています。」
「つくしさんの携帯に?
それは、私がもしも具合が悪くなったら知らせがいくってことかな?」
「そうです。前のように倒れてしまっても、近くに誰も居なくても、あたしは会長の異変に気付いて助けを呼ぶことができるかと…」
元々はペットの首輪などにつけるように開発されたそれは、今は医療目的で使われるようになったと新聞で目にしたことがあった。
その時に、これは会長にいいかもしれないとふと思っていたのだ。
値段もバイト代1ヶ月分くらいであたしにも手が届く。
使う使わないは会長の自由だけど、誰かのプレゼントと被ることはないだろう。
そう思い、迷わずこれにした。
「面白い、気に入ったよ。
早速明日から使わせてもらう。」
会長が笑ってそう言ってくれた。
その時だった。
ババーンっと花火が鳴る音がした。
パーティーが始まる合図だ。
中庭に続々と人が流れてくる。
それは、本当におとぎ話の世界。華やかなドレスを着飾ったご婦人や、タキシードの男性。
オーケストラの音楽に合わせて踊る人達。
その中に、あたしは知った顔を見つけた。
道明寺を囲むように話すF3のメンバー、そして、その近くで友達と話しているのは美音さんだった。

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