「最近、司とはどう?」
大学内にあるいつものベンチ。
邸で作ってきたお弁当を食べているあたしに花沢類が聞く。
「どうって相変わらず態度だけは大きいけど…、まぁ、以前よりは近付きやすくなったかな。」
「へぇ、話したりするんだ。」
「するよ。でも、あの人日本語苦手でしょ。だから、まともな話をしようとすると噛み合わない。」
「ぶっ…日本語苦手って…」
花沢類がケラケラ笑う。
この人は不思議な人だ。
眠たそうにベンチで横になっているかと思ったら、英語の難しそうな分厚い本を何時間も眺めている。
そして、物思いにふけったり、今みたいにケラケラと楽しそうに笑ったり。
会う度に違った一面を見せてくるこの人といる時間は、あたしにとっていつしか癒しとなっていた。
「花沢類ってさ、なんでいつもここに居るの?」
「ん?なんでかなー。
あんたと居ると楽しいから?」
栗色の目を輝かせながらそう言う花沢類。
分かってる。その言葉になんの意味もないことを。
でも、あたしの胸は正直で、鼓動がうるさいくらいになっている。
……………………
その夜、第2ダイニングで明日のお弁当の下準備をしていると、
「よお。」
と、道明寺が顔を出した。
料理をするあたしと、飲み物を取りに来る道明寺。
最近はこうしてここで顔を合わせることが多い。
「そのネチョネチョした物体は?」
「ハンバーグ。」
相変わらずこの人との会話はこんな感じ。
「そんなに食うのかよ。」
「明日は……2人分作るから。」
「2人分?」
不思議そうに言う道明寺に、あたしはさりげなく聞いてみる。
「ねぇ、あのさ……、花沢類って甘いもの好き?」
「あ?類?」
「ん。ケーキとか食べるのかなーと思って。」
「まぁ、食わなくはねーけど好きって程では……、
っつーか、なんでそんな事聞くんだよ。」
「…………。」
道明寺の視線が痛い。
それを無視して、ハンバーグを小さく成型していくあたし。
「もしかして、その2人分の弁当って類のか?」
と、聞いてくる。
どうやらこういう所は勘が鋭いらしい。
「いつから類とそんなに親しくなった?」
「親しくって、別に」
「最近あいつ、昼になったらどこかに消えると思ってたけどよ、まさかおまえと一緒か?」
「…………。」
「熱心に弁当作ったり、甘いものが好きか聞いたり、もしかして、おまえさぁ、……」
あたしをじっと見つめてその先を何も言わない道明寺。
その沈黙が怖くて、
「な、何よっ。」
と、聞き返すと、
鼻でフンっと笑ったあと言った。
「類が好きなのか?」
「……。」
「冗談は顔だけにしろよ。」
「はぁーーー?」
あたしは心底この男が嫌いだ。
日本語もまともに使えないくせに、こういう時だけ妙に的を得た言葉であたしを馬鹿にする。
「いーでしょ!
あんたになんの関係があんのよ!」
「関係あるだろ、類は俺のダチだ。類はな、おまえみたいなちんちくりん、眼中にねーよ。
おまえ知ってるか?あいつには何年も心に想ってる相手がいんだよ。今はフランスに留学してるけど、静っていう女だ。」
あたしなんて眼中に無いことは分かってる。
けど、そんな相手がいるなんて知らなかった。
「静さん……」
手に力が入って綺麗に成型されたハンバーグがぎゅっと崩れていく。
それと同時にあたしの胸もぎゅっと押しつぶされていく。
あー、あたし、自分が思っていた以上に、
花沢類のことが好きなのかもしれない。
今、ようやくその事に気づいた。

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