眠れない夜 12

眠れない夜

「最近、司とはどう?」

大学内にあるいつものベンチ。

邸で作ってきたお弁当を食べているあたしに花沢類が聞く。

「どうって相変わらず態度だけは大きいけど…、まぁ、以前よりは近付きやすくなったかな。」

「へぇ、話したりするんだ。」

「するよ。でも、あの人日本語苦手でしょ。だから、まともな話をしようとすると噛み合わない。」

「ぶっ…日本語苦手って…」

花沢類がケラケラ笑う。

この人は不思議な人だ。

眠たそうにベンチで横になっているかと思ったら、英語の難しそうな分厚い本を何時間も眺めている。

そして、物思いにふけったり、今みたいにケラケラと楽しそうに笑ったり。

会う度に違った一面を見せてくるこの人といる時間は、あたしにとっていつしか癒しとなっていた。

「花沢類ってさ、なんでいつもここに居るの?」

「ん?なんでかなー。

あんたと居ると楽しいから?」

栗色の目を輝かせながらそう言う花沢類。

分かってる。その言葉になんの意味もないことを。

でも、あたしの胸は正直で、鼓動がうるさいくらいになっている。

……………………

その夜、第2ダイニングで明日のお弁当の下準備をしていると、

「よお。」

と、道明寺が顔を出した。

料理をするあたしと、飲み物を取りに来る道明寺。

最近はこうしてここで顔を合わせることが多い。

「そのネチョネチョした物体は?」

「ハンバーグ。」

相変わらずこの人との会話はこんな感じ。

「そんなに食うのかよ。」

「明日は……2人分作るから。」

「2人分?」

不思議そうに言う道明寺に、あたしはさりげなく聞いてみる。

「ねぇ、あのさ……、花沢類って甘いもの好き?」

「あ?類?」

「ん。ケーキとか食べるのかなーと思って。」

「まぁ、食わなくはねーけど好きって程では……、

っつーか、なんでそんな事聞くんだよ。」

「…………。」

道明寺の視線が痛い。

それを無視して、ハンバーグを小さく成型していくあたし。

「もしかして、その2人分の弁当って類のか?」

と、聞いてくる。

どうやらこういう所は勘が鋭いらしい。

「いつから類とそんなに親しくなった?」

「親しくって、別に」

「最近あいつ、昼になったらどこかに消えると思ってたけどよ、まさかおまえと一緒か?」

「…………。」

「熱心に弁当作ったり、甘いものが好きか聞いたり、もしかして、おまえさぁ、……」

あたしをじっと見つめてその先を何も言わない道明寺。

その沈黙が怖くて、

「な、何よっ。」

と、聞き返すと、

鼻でフンっと笑ったあと言った。

「類が好きなのか?」

「……。」

「冗談は顔だけにしろよ。」

「はぁーーー?」

あたしは心底この男が嫌いだ。

日本語もまともに使えないくせに、こういう時だけ妙に的を得た言葉であたしを馬鹿にする。

「いーでしょ!

あんたになんの関係があんのよ!」

「関係あるだろ、類は俺のダチだ。類はな、おまえみたいなちんちくりん、眼中にねーよ。

おまえ知ってるか?あいつには何年も心に想ってる相手がいんだよ。今はフランスに留学してるけど、静っていう女だ。」

あたしなんて眼中に無いことは分かってる。

けど、そんな相手がいるなんて知らなかった。

「静さん……」

手に力が入って綺麗に成型されたハンバーグがぎゅっと崩れていく。

それと同時にあたしの胸もぎゅっと押しつぶされていく。

あー、あたし、自分が思っていた以上に、

花沢類のことが好きなのかもしれない。

今、ようやくその事に気づいた。

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