眠れない夜 10

眠れない夜

最近、道明寺の様子が変だ。

どう変なのか、そう聞かれれば上手く言えないけれど、何となく態度が柔らかくなったような気がする。

つい先日は朝の車の中で、

「おまえの両親はどこに住んでる?」

と急に聞いてくるから、

「新潟に引っ越したけど」

と答えると、

「意外とちけーじゃん。」

と、笑う。

その言い方は冷やかしや嫌味のようなものではなく、なぜか安心した…というように聞こえて、あたしは心の中で、

『何よ、なんなのよ。』と1人呟く。

その後も、邸で顔を合わせると今まではフルシカトだったくせに、チラッと視線を向けてきたり椿さんとの会話に入ってきたりもする。

あんなに喧嘩腰だった男が何をきっかけにそうなったのかは分からないけれど、無駄な衝突が減ってあたしも気が楽だし、道明寺に対するマイナスな印象も薄れてきていた。

でも、それは道明寺にとって計画的な行動だったと後で知ることになる。

ある日、大学内を歩いていると、

「牧野さん。」

と、後ろから声をかけられた。

振り向くと美音さんだ。

「少しお話ししない?」

「……はい。」

美音さんと直接話すのは初めてのこと。

間近で見ると、花沢類の女バージョンという感じで、栗色の瞳と肌の白さがまるでお人形さんのようだ。

近くのベンチに2人で腰をかける。

「道明寺邸で暮らしてるそうね。いつから?」

「2ヶ月くらい前です。」

「どう?慣れた?」

「いいえ、全然。おとぎ話の世界みたいで。」

そう即答するあたしに、美音さんはニコッと可愛い顔で笑う。

「牧野さんって面白い。司は相当あなたのことが気に入っているのね。」

「えっ?」

驚いて大きな声が出てしまう。

「あたしが道明寺邸で暮らすことになったのは道明寺とは全然関係なくて、道明寺のお祖父さんと…」

「それも聞いたわ。学長のことを助けたそうね」

「そうそうっ、それで!」

変な誤解をして欲しくなくて必死で弁解しようとするあたしに美音さんはさらにおかしなことを言う。

「学長が用意した家は使わせないで、邸に引っ越してくるように勧めたって司から聞いたわ。司は他人に対して心を開くような人じゃないから、牧野さんの何が司をそうさせたのかなーと思って。」

用意された家?

道明寺が勧めた?

事実とは違うことばかりであまりの驚きに口があんぐりと開いてしまう。

すると、その時、あたしを呼ぶ声がした。

「牧野。」

声の方を見ると、長身で手足の長い4人組がこちらへ歩いてくるのが見えた。

それは道明寺率いるF4軍団だ。

「道明寺っ!あんたちょうどいいところに来たっ!」

あたしは道明寺に手招きして早くこっちに来るように言う。

「おまえら何してんだよ。」

「道明寺、あんたからも言って。美音さん何か勘違いしてる。あたしが邸に行った経緯だけど、」

最後の方の言葉をかき消すように道明寺が言ってくる。

「美音、牧野と話す時は俺を通してくれ。」

「いいじゃない少しくらい。

私と付き合ってた時みたいに、牧野さんにも優しくしてるのかなーって聞いてみたかっただけ。」

「おまえに心配されなくても俺たちは上手くいってるから。なぁ?牧野。行くぞ。」

道明寺はそう言ってあたしの手を握り強引に立ち上がらせると、美音さんが見ている前で頭をポンポンと撫で、肩に手を回し歩き出す。

あたしの頭の中はもうパニックだ。

今の会話はなに?

そして、この人の馴れ馴れしい態度はなに?

もうグチャグチャの頭のまま、道明寺に引きづられるようにその場を離れた。

………………

「クスクスクス……それにしても面白かったなーさっきのあんた。」

「花沢類っ!面白がってないで、状況説明してよっ!」

あの後、美音さんの姿が見えなくなった瞬間、あたしは道明寺から解放された。

まるで犬にでも言うように、

「行っていいぞ。」と言い捨て、去っていくバカ男。

あまりに腹が立って、いつもの憩い場所であるベンチまでやってくると、その後を追って花沢類も来た。

「あのクルクル頭の男は二重人格なの?」

「クルクル頭って……ブホッ……司も幼稚だよね、あんな態度で美音を牽制しようとするなんて。それにしても、間に入ったあんたの顔、面白すぎた。」

「だって、急に話がおかしな展開になって思考が追いつかなかったわ!まるであたしと道明寺が付き合ってる前提じゃない。

美音さんに嘘までついて道明寺は何がしたいのよっ。」

「んーーー。司は美音のことを本気で突き放したいんだと思ってたけど、今日のアレを見たら、そうでも無いかもね。」

「どういうこと?」

「嘘をついてまであんたとの仲を強調して、美音にそれを見せ付ける。案の定、美音は二人の仲が気になって近付いてくる。司はやっぱり美音にまだ未練があるのかもなー。そうでもなきゃ、あの女嫌いの司が肩に腕まで回してくるなんて説明がつかない。それにしても……面白かったよ。」

そう言ってまた爆笑する花沢類。

道明寺はやっぱりまだ美音さんを忘れられないのか。

そして、美音さんがどのくらい本気なのかを知りたくてあたしを利用したのか。

そう考えると、最近のあの男の行動が理解出来る。

妙に距離が近くなったり、話しかけてきたり。

それは全部、美音さんへの当て付けであたしと仲の良い振りをするための下準備だったのだろう。

「腹立つっ腹立つっ腹立つ!

人のことをなんだと思ってんのよっ!

男なんだから過去のことなんてさっさと許してあげて、好きなら好きって言いなさいよボケーーーーっ!」

天に向かってそう叫ぶあたし。

それを見て、また爆笑する花沢類。

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