ライバルとなんて、恋しない 28

ライバルとなんて、恋しない
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胸ポケットから電話を取り出すと牧野からだった。

この時間に俺がパーティーに出ているのは知っている。パーティーが終わったら2人で過ごそうと約束し、このホテルの近くにあるカフェで待たせていた。

そんな牧野からメールでもなく電話がかかってくるなんて、余程急ぎで何かを伝えたいのだろうか。

「もしもし。」

小声で電話に出る俺に、

「道明寺、忙しい時にごめんっ。」

と、牧野は申し訳なさそうに言う。

「おう、どーした?」

パーティー会場は張社長の母親の件で騒然としたまま。

そこから抜け出すように俺はゆっくりと輪から離れようとした時、牧野が言った。

「あのね、ちょっと聞きたいんだけど……、張社長のお母様って日本に来てるって情報入ってない?」

「あ?」

このタイミングで牧野からその話題が出るとは思わなかった。

「おまえ、なんで知ってる?」

「いやぁ、間違えてるかもしれないんだけど…、」

なかなかその先を言わない牧野。

「誰から聞いた?」

「それがね、今あたしの目の前にいる人がお母様じゃないかなーと思って。」

その言葉に、思わずでかい声が出る。

「おまえ、張社長の母親と一緒にいるのか?!」

パーティーの参加者が一斉に俺の方へ視線を向ける。

「いやっ、分からないのっ!

でも、写真で見た顔と同じだし、話す言葉は中国語だから、そうじゃないかと思って。」

「牧野、このまま電話を切らずに、写真送ってくれ、」

「うん。」

数秒後、スピーカーフォンにした俺の携帯に1枚の写真が送られてきた。

そこには、ココアのようなものを両手で大事そうに飲む白髪の老人がいる。

それを張社長に見せると、

「間違いないっ、私の母です。」

と、胸に手を置きながら安堵したように座り込む。

「牧野、張社長の母親で間違いないようだ。どうしてそこに?」

「あたしがカフェで休んでたら、カフェの前を何度も行ったり来たりしてる人がいたの。

真冬なのにコートも着てないし、様子がおかしかったから声をかけにお店を出たら、その顔に見覚えがあって。」

「おまえ、会ったことあるのか?」

「ううん、以前、張社長に写真を見せてもらったじゃない。それを覚えてたから。」

飲み会の時に酔った社長が俺たちに携帯の画像を見せていた。そんな一瞬の出来事を覚えていたということか。

「サンキュー、牧野。このまま母親を連れてホテルまで来れるか?」

「分かった。あっ、でも、」

牧野の声が少し曇る。

それに反応して、張社長も不安げに電話を見つめる。

すると、牧野が困ったように言った。

「お母様、ココアが気に入ったみたいなの。もう一杯注文したから、それを飲んでからでもいい?」

その言葉に、会場中がほっとした笑いに包まれた。

……………………

30分後、牧野と母親が会場に現れた。

「ママっ、心配したんだよ、勝手にホテルを抜け出しちゃダメじゃないかっ!」

母親に駆け寄る張社長。

その様子から、母親の認知症はだいぶ深刻なようで、張社長のこともきっと息子だと認識していないだろう。

「牧野さんっ、本当にありがとう!」

「いえっ、私はたまたまお見かけしただけなので、」

そう言って、俺に口だけ動かして、

『何かあったの?』と聞く牧野。

「ホテルから一人で抜け出して、今探してたところなんだ。」

「えっ!」

「警察よりもおまえの方が早く見つけてたって訳。」

「牧野さん、よく私の母だって分かりましたね?」

「えー、まぁ、顔と名前覚えるの得意なんです。それしか、あたし取り柄がなくて……」

困ったように笑ってみせる姿に、張社長にもようやく笑みが漏れる。

「牧野、おまえ上着は?」

「あ、お母様に貸したの。」

確かに、母親が着ているのは牧野のコートだ。何も着ずにホテルから抜け出してきた母親に、自分のコートを貸してここまで歩いてきたのか。

牧野の手を取って握ると真っ赤で冷たい。

「バカっ、すげぇ、つめてぇ。」

「大丈夫。」

「牧野さんっ、コートお返ししますっ!」

そう言って母親からコートを脱がせようと張社長がすると、

「あっ、ダメです!」

と、牧野が言う。

「え?」

「お母様、かなり薄着なので……」

そう言って牧野がコートの下から出ている母親の足元に視線を移す。

確かに、母親が着ているのはパジャマのようでかなり薄い。

ここでコートを脱がすのはやめておいた方がいい。

「あたしはこれで失礼しますっ。」

牧野がそう言ってくるりと後ろをむく。

その手を掴んで俺は言った。

「これ着て、下で待ってろ、すぐに行く。」

俺のスーツの上着を牧野に着せてやる。

その行動に周囲が一瞬ハッとしたのが分かる。

「道明寺、大丈夫だからっ」

「おまえが良くても俺が困る。風邪ひかせる訳にいかねーだろ。」

そこまで言うと、みんな分かったようだ。俺と牧野の関係を。

さっきまで俺に取り入ろうとしていた女たちが、訝しげに牧野をちらりと見る。

すると、

今日の主催者である会長がババァに聞いた。

「もしかして彼女は、司くんの?」

ババァが何かおかしなことを言う前に俺が……と思ったが、ババァの一言がその場のみんなを黙らせた。

「手間が省けてよかったわ。

近いうちに皆さんにご紹介しようと思っていたんです。

こちらが司のフィアンセの牧野つくしさん。道明寺家の未来の可愛いお嫁さんよ。」

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