ライバルとなんて、恋しない 23

ライバルとなんて、恋しない

道明寺から返信が無いまま10日がたった。

その間、少なくとも5回以上は電話をかけた。

忙しいのだろうか、タイミングが合わないのだろうか、色々自分に都合よく考えたけれど、結局未だに連絡が無いと言うことは、あたしと話したくないという事なんだろう。

それでも諦めきれずに、あたしは意を決してある場所に向かった。

それは、千石バーのあるあのビル。

でも今日行くのは千石バーではなく、その2つ下の階の、そう、道明寺がよく通っていた『梨花さん』のいるあのお店だ。

店の前で大きく深呼吸したあと、店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」とお店のボーイが出迎える。

「あのー、今日梨花さんは?」

「はい、いますけど、お客様は?」

「あ、ちょっと知り合いで……」

「申し訳ありません。営業時間内ですので、」

女1人でやってきたあたしを見て、個人的に梨花さんに会いに来たとでも思われたのだろう。

あたしだってこんな所に1人で来るのだから、それなりに覚悟はしてきた。

こういうお店のグラス1杯のお酒がいくらするのかなんて全く知らない。

だからこそ、普段使わないカードも持ってきたし、現金もかなり下ろしてきた。

その財布が入った鞄をしっかり握りしめながらあたしは言った。

「お客として来たんで、梨花さんを指名したいんですけどっ!」

………………

それから10分後、あたしはお店の奥にある席に座りながら梨花さんが入れてくれたハイボールに口を付けていた。

「お姉さんが1人でここに来るなんて、どうしたんですか?」

あたしの事を『お姉さん』呼びする梨花さんは、地味なスーツ姿のあたしとは違い、今日もスリットが大きく開いたピンクのドレスを着て色気たっぷりだ。

同じ女として恥ずかしくなるほど。でも、今からもっと恥ずかしいことを聞かなくちゃいけない。

「ごめんなさい、急にお店に来て。」

「別にいーですよ、お客として来てくれたんですから。」

「……梨花さんに聞きたいことがあって。」

「なんですか?」

「道明寺の事なんだけど。」

そう切り出すと、梨花さんはやっぱり……というような顔をして自分のグラスにお酒を足す。

「道明寺、最近ここに来てる?」

「どうしてですか?」

「……連絡が取れなくて。電話しても返信がなくて、」

「お2人、付き合ってるんじゃないんですか?」

「…………。」

付き合ってから別れるまでがあまりにも早くて、自分でも情けない。

「仮に、昨日来てたとしても言いません。」

「……え?」

「だって、大事なお客様のプライベートなことをペラペラ喋りませんから私。」

そりゃそうだ。

お店の女の子にだってルールはある。

こんなストーカーのような女が訪ねてきて、易々と情報を渡すわけが無い。

「フッ……だよねぇ。ごめんねなんか。」

「……ケンカしたんですか?」

「ケンカ?してないしてない。」

「道明寺さんが勝手に怒ってるとか?」

「怒ってるー?いやー、怒ってないでしょ。むしろ呆れてんのかな。今さらしつこく電話してくるあたしに。」

そう言って、自分が嫌になりヤケクソのようにお酒をガブッと飲み干す。

「べつにさー、別れたんだから、あいつがどうなったってあたしに関係ないんだけどね、でもさー、」

もう一度、継ぎ足されたお酒を一気に飲み干すと、

「お姉さんっ、ゆっくり呑んでっ」

と、梨花さんも慌てているけれど、酔いが少し回ってきたあたしは、愚痴が止まらない。

「でもっ、腹立つのよ!居なくなるなら居なくなるで、最後くらいちゃんと話してよ。急にライバルが居なくなったらこっちも戸惑うじゃないっ。」

「…………」

「自分勝手すぎる……ずるい……ズルイ……。

あたしが、悪いのは分かってるけど……、意地悪すぎる……ほんと、……あんたはあたしを困らせて……ばっかで、」

あたしは知らなかった。

こういうお店で呑むお酒は千石バーで呑むものよりも数倍も濃いと言うことを。

グダグダとあいつの愚痴を言いながら、身体が揺れてきて、頭もクラクラする。

「お姉さん、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。」

「ごめん、私が呑ませすぎちゃった。」

「へーきへーき!あたしなんていつも千石バーで5杯も6杯も呑んでんだからっ!これくらい全然へーき……。」

「タクシー呼ぶから待って。」

「いーの、千石バーでもう少し呑むから」

「もうやめといてっ、これ以上呑めないって!」

「呑めるっ!今日はあたし、いーっぱいお金もってるんだから!呑める呑めるっ、朝まで呑める〜〜っ!」

完全に酔っ払い。

目なんて半開きにしか開かないし、足なんて力が入らない。

それでもカバンを開けて万札を握りしめ、凛花ちゃんに手渡すと、

「もうっ、お姉さんっ!」

と、困った顔の梨花ちゃんがあたしを見つめていた。

そして、あたしの記憶はそこまで。

……………………

それからどれくらいたっただろうか。

ふと物音がして目を覚ますと、そこは見慣れた千石バーのソファの上。

どうやってここまでたどり着いたかは分からないけれど、酔っ払ったあたしは無事に千石バーに来て眠っていたようだ。

よっこらしょと小さく呟きながら身体を起こすと、

そんなあたしの後ろから呆れたように誰かが言った。

「ったく、何がよっこらしょだよ。」

その声の方を振り向くと、ソファに座り腕を組みながら、道明寺があたしを見ていた。

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コメント

  1. ボルドー より:

    梨花ちゃん良い子だったー!!!
    イラッとしてごめんね!
    つくしちゃんに助けられたの忘れてなかったの嬉しいです♪
    更新嬉しすぎますー!
    何度司一筋を読んだことやら笑

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