ジューンブライド。
昔から6月の花嫁は幸せになるという言い伝えがあるのを、あの滋が無視するはずがない。
メープルホテルで盛大に開かれた武田氏と大河原の結婚式。
こだわり抜いただけあって、それなりに俺から見てもいい式だった。
「こんなすごい結婚式、見たことないわ。」
そう言いながら二次会の立食式パーティーの料理を頬張る牧野。
一次会の披露宴は席が決められてあり、俺とババァが同じテーブルに座れと言ったのに、断固として断りやがったこいつ。
「あんなメンバーの中に座れないっ。」
と言って友人席に優紀と一緒に座った牧野はそれはそれは楽しそうに披露宴に出席していた。
俺はと言えば、財界のジジィたちの面白くもねぇ話に付き合わされて二時間が苦痛以外の何ものでもなかった。
唯一の救いは、俺の席から牧野が見えること。
あいつの嬉しそうな顔を見ただけで、こっちの顔まで緩むからヤバイ。
「デレッとしないで。恥ずかしいわ。」
そう小言を言うババァは無視して、目線はほぼ牧野に集中。
おかげでほとんど滋を見ていなかったことに今更ながら気付く始末。
「おまえ食べ過ぎじゃねぇ?」
「だって、披露宴ではほとんど食べれなかったんだもん。」
そう言って皿いっぱいに料理を取っている牧野。
確かに、披露宴では滋のドレスに見とれてたり、二人の出会いのエピソードに感動したり、両親への手紙に涙ぐんだり、料理どころじゃなかったこいつ。
「なぁ、俺らもこんな結婚式にするか?」
「はぁ?まさか、やめてよっ。」
相変わらず可愛くねぇ口。
「だっておまえすげー感動してただろ。」
「それはそうだけど…………。
あたしはもっと小さくて身内だけの結婚式でいいの。」
そう言う牧野の頭を優しく撫でてやる。
そこに今日の主役である滋が近付いてきた。
「つくし~、今日はありがとう。」
そう言ってドレス姿で牧野に抱き付く滋。
そんなこいつを牧野から引き離して、
「抱き付くなっ。今度するときは俺に許可を得てからしろっ。」
そう言ってやる。
「相変わらず、束縛半端ないね、司は。
今に逃げられるよつくしに。
ねっ、つくし。マリッジブルーの女は何しでかすか分からないよね~。」
「いや、……別に、マリッジブルーとか……」
「ほらっ、もう逃げたくなってるよ。」
「うるせー、牧野、おまえマリッジブルーなのか?っつーか、その何とかブルーってなんだよっ。」
「……アホだ。……究極のアホだ…………。」
「うるせー、滋。」
そんな俺らのいつものじゃれあい。
そんな風に出来るこの関係が居心地いい。
「つくし、これ。」
そう言って滋が牧野に差し出したのは、ドレスと同色で作られたパープルとピンクのグラデーションブーケ。
「滋さん…………。」
「ほんとはもう結婚決まってるつくしには必要ないものかもしれないけど、どうしてもつくしに受け取って欲しかったから。」
「滋さん…………ありがとう。」
そう言ってまた涙ぐむ牧野。
「お互い幸せになろうね、つくし。」
「うん。」
「俺に任せろ。」
半年後、俺たちは結婚する。
牧野の希望どおり、小さなチャペルで親族だけが集まった結婚式。
見栄や世間体を気にするババァも、牧野のそんな希望に何一つ口を挟まなかった。
不思議に思った俺が、
「ほんとにいいのかよ。あとでグダグダ文句言うなよっ。」
そうババァに言ってやると、
「いいませんよ。
どうせ、私が反対してもあなたたち二人は何一つ言うこと聞かないじゃない。
出会った頃からイヤというほど思い知らされてきてますからね。」
と不適に笑った。
牧野とババァは俺の心配をよそに、案外仲良くやっている。
式の打ち合わせも俺と行くよりババァと行く方が多いし、帰りに食事して帰ってきたりと昔の関係からは想像もつかない仲だ。
今だって、俺の結婚相手にと娘を紹介したがってるおやじたちに、
「司の相手はあの子以外あり得ませんから。」
と牧野を見て笑ってやがる。
そんな牧野は滋から貰ったブーケを大事に持ったままシャンパンに夢中だ。
「道明寺、これすごく飲みやすいよ。
ジュースみたい。ごくごく飲めちゃう。」
「バカっ、飲みすぎるなよ。
ババァが向こうから監視してるぞ。」
「ゲッ!!」
そんな牧野に言ってやる。
「それによ、昨日も子作りしたんだから、もしかしたら出来てるかもしれねーぞ?
しばらくシャンパンはお預けだな。」
Fin

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