ドクター!22

ドクター

1週間前ぶりに牧野から連絡が入った。

『整理してから。』

あいつが俺と向き合う前に整理することと言えば…………ムカつくがあのドクターの顔が浮かぶ。

呼び出された場所に行くと、
「お腹すいてない?」
とかわいい顔で聞きやがる。

「おまえは?」

「すきすぎて死にそう。」
これが、
「好きすぎて」ならすげーいいのになぁ、なんてバカなことを考えてるうちに、

「お蕎麦食べに行こう。」
と歩き出す牧野。

牧野おすすめの鳥南蛮ソバを食いながら、気になってることを聞いてみる。

「おまえ、この間言ってた『整理』っつーのは、出来たのかよ。」

「ん?ああ。うん、まぁね。」
軽い口調の返事に不安がよぎる。

「で?なんて言ってた?」

「えっ?いやー、別に……、まぁ、頑張りなさいって、感じかな。」

「何だよそれ、ずいぶん上から目線だなあいつ。

「あいつって、あんた。まだそんな呼び方してるの?」

「あ?じゃあなんて呼べばいいんだよっ。
ドクターか?児島ドクター?ミスター児島?」
箸を置いて詰め寄るように聞いてやると、
ポカーンとした顔をしたあと、

「プッ…………フフ……アハハハァーーー。」
となぜか大爆笑のこいつ。

ひとしきり笑い終わったあと、
「ごめんごめん、それ忘れてたわ。」
とか、意味不明な言葉を言いながら俺をみる。

「ごめんっ。児島のことは忘れて。」

「……あ?」

「あいつとはただの友達。」
おまえもあいつとか言ってんじゃねーかよ、と思いながら思考が後から付いてくる。

「友達?」

「そ、友達。大学時代からの腐れ縁かな。
あいつね、実家が病院のすぐ側だから、ご飯食べに行かせてもらったり、着替えを頼まれたり、色々周りから誤解されることもあるんだけど、
正真正銘、ただの友達。
あっ、道明寺、お蕎麦のびるよ。」

「おまえさーっ、」

どんだけ俺がやきもきしたと思ってんだよ。
どんだけ西田にあたったと思ってんだよ。
あとで西田に謝れよ。
ったく、俺と別れてすぐにあいつと付き合ったと聞いたときは、マジで悔しかった。
俺と付き合ってたのは二年弱だったけど、それから6年はあいつと時を重ねたのかと思うと、居たたまれない想いだった。

そんな文句も全て飲み込んで、
「おまえさーっ、…………
俺のことどう思ってる?」
目の前の愛しい女に、直球で聞いてみた。

「ちょっ、ちょっと、こんなところで何よ。」

「場所なんてどーでもいい。
おまえの気持ち聞かねぇと、進まないだろ、俺たち。」

「……けど、……そうだけど、……でも、」

それでもクダクダ言ってるこいつに、6年前聞けなかった言葉をぶつける。

「牧野、俺と生きてく覚悟はあるか?」

好きか?
愛してるか?
そんな言葉よりも俺はこの答えが知りたい。
6年前、臆病だった俺は牧野に聞けなかった。
答えが分かってたからだろう。

表向きは滋との政略結婚が原因だったけど、俺たち二人のなかでは分かっていた。
そんなことが理由じゃない。
本当の理由は、
俺と生きていく覚悟がない牧野と、
そんな牧野を縛りたくなかった俺。

6年たった今、同じ女に、今度は真っ正面から聞いた。
それは、自信があったから。
牧野を守り、牧野の覚悟が出来るまで、側で愛し続ける。
そんな自分の想いに自信があったから。

「道明寺…………、あたし、」

「俺の側から離れるな。」
6年前も何度となく言った言葉。
そんな俺の言葉に、

「……うん。……もう大丈夫、覚悟は出来たから。」
そう言って笑う『今』の牧野。

「あのさ、あんたってそんなに蕎麦好きだった?」

「あ?」

「いや、だって、すごいスピードで食べてるから。もうひとつ頼もうか?」

バカ女。

「おまえも早く食えよ。」

「ん?どこか行くの?」

「とりあえず、2人きりになれる所に行こーぜ。」

その言葉に、あからさまに動揺する牧野。

「お蕎麦、おかわりしようかな…」

「却下。」

「道明寺…」

頬が赤く染まるこいつに言ってやる。

「これ以上、『待って』とか言うなよ。こっちは限界だっつーの。」

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