ライバルとなんて、恋しない 19

ライバルとなんて、恋しない

道明寺との初めてのデート。

オフィス街から少し脇道に入ったところにあるレストランに入ると、20時近い時間にも関わらず結構店内は混んでいる。

「少し狭いですけど、こちらの席で。」

と案内されたのは、店のほぼ中央にある2人がけの席。

180cm近い大柄な道明寺には窮屈かもしれないけれど、あたしはそんなことよりも他に心配な事がある。

オフィスから離れた所だとはいえ、店内に誰か知り合いはいないだろうか。

道明寺と仲良く2人で食事をしている所なんて誰かに見られたら大変だ。

そのことで頭がいっぱいで、ろくにメニューも見ずに注文していると、運ばれてきた料理の数に驚く。

「えっ、えっ、こんなに?」

「プッ、おまえが注文したんだろ。」

「うそっ、あたし?」

「俺なら、メイン料理から3つも頼んだりしねーし。」

確かに、肉料理だけで3つもある。

「おかしいって気付いてたなら言ってよ。」

「わかんねーだろ、おまえがもしかしたら大食いでむちゃくちゃ食べる女って事もあるし。」

「だとしても、これは食べきれない…」

テーブル一面に置かれた料理に困惑するあたし。

それを見て、

「時間はたっぷりあるから、ゆっくり食べろよ。」

と、笑いながら言う道明寺。

こんな近くでしかも正面から、この人の笑い顔を見て、あまりの綺麗さに目を奪われる。

思わずじっと道明寺を見つめていると、道明寺もあたしをじっと見返してくる。そして言った。

「おまえさ、」

「…ん?」

「まつ毛、すげぇ長い。」

「え?」

急に何を言い出すこの人は!

「な、な、なにっ?」

「ずっと思ってたけど、おまえのそれってなにか人工的なやつ?」

「はぁ?人工的って?」

「だから、最近そういうのあるじゃん、女がまつ毛をわざとバサバサにするやつ。」

そう言いながら、あたしにフォークとナイフを手渡して料理を食べろと合図する。

あたしもそれを受け取り、お皿に料理を盛りながら聞き返す。

「それって、もしかしてつけまつげの事?」

「あー、そうかも。職場とか店とかに行くと、たいてい女の目って不自然にバサバサしてんじゃん。」

「バサバサって……」

その言い方に思わず吹き出すあたし。

すると、真面目な顔で道明寺が言う。

「あれ、俺すげー苦手。なんか、ロシア人形みてーじゃん。昔、俺んちにあったんだよ、ああいう目だけバサバサした女の人形。それが夜中に動き出すんじゃねーかと思ってちいせぇ頃は怯えてた。」

「あんたにもそんな可愛い頃があったんだ。」

「怖ぇーから、その人形に俺のニット帽被せて離れの部屋に置いといたら、ババァにめちゃくちゃ怒られた。その人形、ロシアのアンティークのもので500万したらしい。」

「はっ?500万って!」

「ニット帽のせいで、人形のカールの髪の毛がぺしゃんこになってよ…」

「プッ…ふふふっ…ちょー、もうやめて。

想像したら、死ぬ。」

ロシア人形エピソードが見事ツボに入って抜け出せない。

ひとしきり2人で笑ったあと、

「いや、俺が言いてぇのは人形の話じゃなくて」

と言い、あたしの目を軽く指さして言った。

「おまえの目がすげー綺麗だなって。うん、まじで綺麗……。」

そう言って、言った本人が照れたように視線を逸らして料理を食べる。

目が綺麗………そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。

それなのに、この誰もが綺麗だと認める男に言われるなんて。

言われたあたしはどうしたらいいのか分からなくて、

「ねぇ、………その人形、結局どうしたの?」

と、苦し紛れに、話を元に戻すことしか出来なかった。

………………………………

食事が終わり時計を見ると22時すぎ。

結局2時間近くレストランで過ごした俺たち。

牧野を車で送っていき、マンションの下で停車すると、

「今日はご馳走様でした。」

と、ぺこりと頭を下げるこいつ。

「おう、………」

「…じゃあ、また。」

何となく気まずい雰囲気の中、牧野が車から降りようとする。

今日が付き合って1回目のデート。

女と真面目に付き合ったことの無い俺でも、1回目のデートでがっつきすぎるのは良くないって事くらい分かる。

でも、

このまま「じゃあな。」とあっさり帰れるほど、俺はお利口さんじゃねえ。

シートベルトを外し、車の扉を開けようとした牧野の腕を掴み、

「牧野、」

と、呼び止める。

「ん?」

牧野が俺の方を向くのと同時に、俺は自分のシートベルトを外し、牧野の身体を強く引き寄せた。

「ンッ…どーみぉー…じ」

キスくらいなら、いいだろ?

部屋に行きたいなんて、初回からわがままは言わねーよ。

けど、これくらい、許されるだろ?

そう心の中で呟きながら、牧野の唇の温かさを味わう。

「クチュ…ダメ………誰か来る」

「うん、わかってる、……少しだけ。」

すると、少しして、急に車の中に光が差し込んできた。

マンションの停車スペースに、もう1台車が入り込んできたのだ。

さすがに、このまま続ける訳にはいかない。

仕方なく牧野の身体を解放すると、

「もぉーーっ、」

と、俺の胸を軽く叩いて抗議してくるこいつ。

たぶん、今の俺の顔は甘々なんだろーなと恥ずかしくなるほど、俺はこの目の前にいる女が可愛くて堪らない。

俺から身体を離して、

「道明寺、またねっ!」

そう言って車を降りていく牧野。

それに軽く手を挙げて返したあと、車を発車させた。

数分後、信号待ちしているところに、携帯が鳴った。

そこには、ババァの名前が。

「もしもし。」

「どこにいるの?」

「今から帰る。」

「帰ったら、書斎に来てちょうだい。

今後のことについて、少し話しましょう。」

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