ライバルとなんて、恋しない 18

ライバルとなんて、恋しない

付き合って5日目。

電話では何度か会話をしたけれど、お互い仕事が忙しくて直接は会っていないあたし達。

ようやく仕事終わりの金曜日、デートの約束をした。

待ち合わせは、あたしの会社近くのカフェ。

いつもより1センチヒールの高い靴と、おろしたてのブラウス。

職場の同僚たちにはバレない程度に、お洒落はしてきた。

待ち合わせは7時。

その時間が近づいてくるにつれてドキドキと胸がうるさい。

一旦気持ちを落ちつかせるために、会社のカフェスペースで紅茶を飲んでいると、同期の村瀬とばったり会った。

「牧野、今日の同期会行かないんだって?」

「んー、ごめん。ちょっと約束があって。」

「そっかぁ、まぁ、今回は急に決まったしな。」

「みんな参加するの?」

「ああ。山本と牧野以外は参加かな。」

「楽しんできて。」

「おー。じゃあな。」

同期会という名の飲み会。

つい数日前にメールが来たけれど、道明寺との約束が先だったから断った。

断る理由をあれこれ聞いてこないのも村瀬のいい所。サバサバした性格が心地よい。

残りの紅茶をガブッとひと飲み一息つくと、さっきまでの胸のドキドキ感が少し和らいでいる。

「さぁ、仕事仕事!」

あたしは自分に言い聞かせてデスクに戻った。

………………………

待ち合わせの10分前。

会社から数百メートル離れた大きなカフェに着いた。

店内は仕事帰りの会社員で溢れている。

まだ道明寺は来ていないだろう。

そう思い、空いている席をキョロキョロ探していると、テラス席に近い場所でパソコンと睨めっこしている道明寺が目に入った。

向こうは、あたしに気づいていない。

それどころか、周囲の女性たちがチラチラと自分に視線を向けていることさえ無視するかのように、パソコンに向かっている。

その姿が、あまりにもカッコよくて、思わずあたしでさえ固まってしまった。

カッコイイ…って何よっ。

今までライバル扱いしてきた男が彼氏になった途端、カッコイイとか思ってしまうこのあたしの脳内をどうにかして欲しい。

今まで通り普通に!

そう自分に言い聞かせて、道明寺が座るテーブル席へと近付いた。

「お、お疲れ様。」

「おー、おつかれ。」

道明寺の正面に座ったあたしは、道明寺のパソコンを見ながら、

「仕事?」

と、聞く。

「あぁ、わりぃ。急ぎのメールが来たから、それだけ返信してもいいか?」

「どーぞどーぞ。

仕事忙しかったんでしょ?待ち合わせ、もっと遅い時間でも良かったのに。」

何気なくそう言ったあたしの言葉に、

「おまえと会う時間の方が優先だろ。」

と、呟きながらキーを打つこの人。

付き合ってから、分かったことがある。

電話で話してる時もそうだけど、この男はなんの前触れもなく甘い言葉を発するのだ。

それもたぶん無自覚で。

言った本人は何事もなく平然としてるけど、言われたこっちはかなりダメージが大きい。

今もそう。

『おまえとの時間が優先』とかサラッと言うなっ。

その攻撃のおかげで、あたしの体温は0.5度上昇してるんだからっ。

あたしの動揺なんて知る由もなく、道明寺は流れるような速さでキーを打つ。

と、その時、あたしの背後で

「牧野?」

と、呼ぶ声がした。

振り向くと、そこにいるのは同期の村瀬。

「村瀬、どうしてここに?」

「これから同期会の店に移動するとこ。

牧野は……仕事か?」

そう言って、村瀬が道明寺の方をチラッと見る。

「あっ、うん、そう。」

あたしが答えると、

「もしかして、……道明寺ホールディングスの道明寺さんですか?」

と、村瀬が道明寺に言った。

「はぁ、そうですけど。」

パソコンから顔を上げて答える道明寺に、

「わぁ、本物だっ。」

と、興奮気味に喜ぶ村瀬。

「こんな所で道明寺さんに会えるなんて無茶苦茶嬉しいです!

僕、牧野の同期の村瀬と言います。営業3課なので仕事では会う機会がないですけど、道明寺さんのお噂はいつも聞いてます。いつかお会いしてみたいなぁと思ってました。」

いつもクールな村瀬がここまで興奮するのは珍しい。

村瀬が内ポケットから名刺を取りだし道明寺に手渡すと、道明寺もマナーとして自分の名刺を村瀬に手渡す。

それを大事そうに持ちながら、あたしに言った。

「それにしても、牧野と道明寺さんのツーショットって意外だな。」

「えっ!?」

「だって、牧野いつも言ってんじゃん。

永遠のライバルだって。

だから、こんな風に2人でカフェで話してる姿が見られると思わなかった。」

「いや、それはたまたま…そのぉ、外でばったり会って、仕事のことで情報交換しておきたい事があったから…だよね?」

そう言って道明寺の方に目配せすると、道明寺はコーヒーを1口飲んでまたパソコンに視線を移す。

「へぇー、俺はてっきり、道明寺さんとはバチバチにやり合ってるのかと思ってたから、意外に仲良くやってそうで安心した。」

「な、仲良くって……別にそんなんじゃないしっ!」

今まで散々、村瀬には

「あんな男、叩きのめしてやるっ!」

くらいの勢いで道明寺の愚痴を聞いてもらっていたから、今さら付き合っているなんて口が裂けても言えない。

「村瀬っ、そろそろ時間じゃないの?」

慌てて話題を変えてそう言うと、

「あー、そうだった、行かなきゃ。

じゃあ、僕はお先に。道明寺さん失礼します。」

と、道明寺にぺこりと頭を下げて村瀬が急いで店を出ていく。

その姿を見送りながら大きく息を吐き、

『あたし達が付き合ってる事は、絶対に秘密にしなきゃ』

と、心に誓った。

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