それから1時間後。
あたしは自分のマンションにいた。
ソファーに座りテレビを見ながらも、頭の中では全く違う光景が流れている。
それは、道明寺にされたキスのこと。
あれは……反則でしょ。
あんなキスされたら、女の子はみんな勘違いする。
まるで、彼女にするかのような優しくて熱いやつ。
また思い出してしまって顔が真っ赤になり、
「あっつ」
と言いながら慌てて部屋の窓を開け、その前で涼んでいると携帯が鳴り響いた。
こんな時間に誰だろう……そう思いながら画面を見ると、
『道明寺司』の文字。
せっかく身体の熱さがだいぶマシになったというのに、またその文字を見ただけで急激に熱がこもる。
さっき別れたばかりなのに、なんの用だろうか。
出る?出ない?
そう考えている間も鳴り続ける電話に、あたしは深呼吸をしたあと、勇気をだして出た。
「もしもし。」
「お、おう、俺だけど、」
「う、うん。」
お互い変な空気が流れる。
ダメダメっ、いつものように振る舞えあたし。
「なに?なんか用?」
「あのよ、ちゃんと話しておかねーと、寝れそうにねーから。」
「話?」
「俺と付き合おうぜ、牧野。」
唐突に発せられた言葉。
ホテルに行ったり、隠れてキスをしたり、色々ありすぎて肝心なことをすっ飛ばしてきたけれど、いざ直球でそう言われると、返事に困る。
沈黙が流れる中、マンションの前を大型のトラックが通り過ぎていく。
すると、
「おまえ、今どこにいる?」
と、道明寺が聞いてきた。
「へ?マンションだけど、」
「車の音、聞こえたぞ。」
「あー、窓開けてるから。」
「あ?こんな時間に無防備だなおまえはっ。不審者でも入り込んできたらどーすんだよっ。」
「こんな小さな窓から誰も入ってこれないからっ、」
「そーいう問題じゃねーだろ。女の一人暮らしなんだから、もっと警戒しろって。」
なんで窓を開けたくらいでこんなに怒られなきゃなんないのよ……とあたしの口から文句が出そうになったけれど、その前に道明寺が言った。
「心配させんな。」
「………。」
「好きなんだよ、おまえが。」
心臓が痛い。
どうしてこの人はこういう事をこんなストレートに言えるのか。
「あたしは、…正直まだ分からなくて…」
「キスは?嫌だったか?」
「っ!だから、そういう事聞かないでよ」
「大事なことだろ。俺はおまえ以外とは触れたいとも思わねーし、こんな風に別れてすぐに声が聞きてぇとも思わねーよ。」
ダメだ。
今、あたしの顔はきっと茹でダコみたいになっているはず。
「電話じゃ伝わんねーなら、今から会いに行く。」
「えっ?!」
「バラでも100本買ってくか?」
「いいっ、いいっ、大丈夫っ!」
冗談だろうけど、この男ならやりかねない。
慌てて拒否すると、道明寺がクックッと笑う。
その笑い声に、ようやくあたしの身体から力が抜けていく。
「ねぇ、あたしで、……いーの?」
「おまえがいい。」
「ライバルなのに?」
「むしろ燃える。」
即答するバカっぷりに、吹き出すあたし。
「俺たち、付き合うって事で、いーだろ?」
「……うん。」
色々フライングした2人だけど、ようやくあたし達は今日から付き合うことにした。
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