その番号を押したのは、6年ぶり。
「もしもし。」
「…………。」
「もしもし?」
「……つくし?」
「滋さん……。」
お互いそれ以上は電話で話せなかった。
ただ、約束の時間と場所を決めて電話を切った。
そして、今日滋さんと6年ぶりに会う。
「つくし~っ。こっちこっち!」
「滋さんっ。」
笑顔であたしに手を振る滋さん。
長年のブランクを感じさせない再会。
それが滋さんの気遣いだってことは痛いほど分かってる。
「元気だった?」
「うん。滋さんは?」
「見ての通り元気元気!」
滋さんのおすすめのイタリアンを囲み、仕事の話や疎遠になってた桜子のことなどでひとしきり盛り上がった頃、あたしは鞄から例のものを取り出した。
「滋さん、これ。」
「あっ、司から受け取ってくれたの?
絶対来てね。今から空けといてよ。」
結婚式の招待状。
それを見て幸せそうな滋さん。
「滋さん、」
「つくし、あたしの方から話させて。」
「え?」
「あたしずっとつくしに謝りたかった。
ごめんね。ほんとごめん。」
急に頭を下げる滋さんにあたしは慌てて、
「滋さん、やめてよ。」
と言ってとめる。
「分かってた。
司とつくしの間に割り込む余地なんてないことは。
でも、政略結婚でもいいと思った。
いつか、司があたしを見てくれる日が来るかもしれないと思ったから。
でも、全然ダメ……」
そう言ってあはは……と笑う滋さん。
「どんなに誘惑しても指一本触れてこないのあいつ。
3年、3年我慢したけど、限界。
あたしの方から願い下げだわ。」
「滋さん……。」
「それなのに、この間久しぶりに会ったら、なんかすごくいい顔してて、何かあったのかなぁなんて思ってたら、『牧野に会った。』って言うからあたしピンときたの。
また動きだしちゃったんでしょ、あのバカの心が。」
「滋さんっ、…………ごめんなさい。」
動き出したのは道明寺の心だけじゃない。
「あたし、道明寺を忘れようと努力したの。
もう、忘れたと思ってたの。
でも、全然……違った。」
「つくし……」
「もう、あの頃のように自分の気持ちに嘘ついたり誤魔化したり出来そうにないの。
ごめんなさい、滋さん。」
「つくし、それはあたしに伝えることじゃないよ。
ちゃんとあのバカに伝えてあげた?」
「……ううん。」
滋さんには全部お見通しなんだろう。
「あたしね、つくし。
武田さんを心から愛してるの。
武田さんもそうだと信じてる。
誰かを本気で愛するようになって始めて分かったんだけど、愛してる人に愛されてないって思うことはすごく辛いこと。
司はつくしを愛してた。
別れてからもずっと。
だけど、その想いは届かないと思ってたはず。
それがどんなに辛いことか、今のあたしには分かるの。
そんな辛い状況でも、司はつくしへの愛を消せなかった。
それぐらいあのバカは一途な男。
ね?だから、少しぐらいご褒美あげたらつくし。
」
滋さん……。
きっと、滋さんが一番辛かったはず。
ただ現実から逃げただけのあたしに、こんな風に優しくしてくれる。
涙が溢れてとまらない。
「うん、うん。……わかった。
道明寺に……んっ……ご褒美……あげる。
滋さんっ、……幸せになってね。
おめ……でとう。」
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