ライバルとなんて、恋しない 16

ライバルとなんて、恋しない

ロブスターの後に出たデザートは、全く味が分からなかった。

なぜなら、道明寺が言った

「おまえが好きだ。」の言葉が頭から離れず、他のことが何も考えられなかったから。

ただ機械的に口の中へデザートを運び、お皿が空になった途端、道明寺に

「行くぞ。」

と手を引かれ強引に立たされる。

「っえ、あっ、お金!」

「ババァの奢りに決まってんだろ。」

「はぁ、そんなっ、自分の分はっ」

急いで財布を出そうとするけれど、道明寺の力にはかなわず、ズルズルと店の出口へと連れられていく。

どんどん視界から小さくなる道明寺のお母さんに、

「すみませんっ、お代はこんど会った時に…」と叫ぶのがやっと。

外に出ると、お店の前に停まっていた運転手付きの黒塗りの車に乗せられて、あっという間にあたしはこの男に拉致られてしまった。

車が動き出してから、あたし達はしばらく無言のまま。

その沈黙を破ったのは道明寺だった。

「怒ってるか?」

「……うん。」

「昔からああいう奴なんだよババァは。自分勝手っつーか、強引っつーか、」

「……ちがう。」

「あ?」

「あたしが怒ってるのは、あんたに。」

「…………。」

あたしの怒りのオーラが伝わったのか、黙る道明寺。

そんなこの人に、あたしはハッキリと言ってやる。

「あたし、あんたみたいな人が1番苦手なの。」

「……俺みたいな人?」

「そう、あんたみたいな、あっちにもこっちにも甘い言葉を言って、女遊びが激しい人っ!」

そう言って睨んでやると、道明寺もさすがにキレた顔であたしに言い返してきた。

「なんだよそれ、分かるようにハッキリ言えっ!」

「言ってやるわよっ!あのお店の女の子と付き合ってるんでしょ?彼女の部屋で夜な夜な一緒に過ごしてるくせに、あたしの前では平気で好きだとか言う。そういうちゃらんぽらんな人が1番嫌いっ!」

「…………。」

その言葉に黙る道明寺。

そんなあたしと道明寺をミラー越しに見つめる運転手さんと目が合った。

その瞬間、道明寺がその運転手さんに向かって言った。

「西田わりぃ、いつもの店に向かってくれ。」

「承知しました。」

……………………

車がゆっくりと止まった場所は、千石バーのあるあのビルの前だった。

「道明寺、」

「いいから付いてこい。」

このシチュエーションはもしかして、

お店の女の子とあたしを引き合わせて、修羅場を繰り広げろということなのか。

いやいや、あたしはそんなつもりは無い。

今すぐにでも帰りたいけれど、道明寺にがっしりと腕を取られて逃げれない状況。

エレベーターが5階に止まり、案の定、道明寺がいつも通っているというあの女の子のいる店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。」

お店のボーイが出迎える。

道明寺の顔を見た瞬間、ボーイは軽く頷き

「いつもの席へ」と言って案内しようとして、あたしの存在に気付き立ち止まる。

「大丈夫だ、俺の連れだから。」

道明寺がそう言うと、もう一度頷き店の奥へと進んだ。

店内は想像以上に広い。

そして、テーブルとテーブルが薄いカーテンのようなもので仕切られていてかなり怪しい雰囲気だ。

まさかここで女の子とやましい事をしてる訳じゃないわよね……と思ってしまうような場所。

そんな雰囲気に圧倒されてガチガチなあたしに、

「プッ、緊張しすぎだ。」

と、道明寺が笑う。

ボーイの後について行き、お店の一番奥にあるテーブル席へ案内された。

そして、あたし達が座ると同時に、ボーイが薄いカーテンをシュッと閉め出ていく。

店の中とは言え、道明寺と2人だけの空間。

周囲の声はBGMでかき消されほとんど聞こえない。

「道明寺、あたし」

帰る……そう言おうとした時、

カーテンが少し開かれ、ドレスを着た女性が姿を見せた。

「いらっしゃいませ、お待ちしてました。」

笑顔でそう言いながら入ってきた女性は、道明寺の隣にあたしがいることを見て、すぐに眉間にシワを寄せた。

「わりぃ、座ってくれ。」

「……はい。」

素直にそう答える女性は、紛れもなく、

道明寺と腕をからませ親密そうにしていたあの子。

「なに飲みますか?」

「いつものように炭酸水で。」

「そちらの方は?」

「こいつにもアルコール抜きのものを。」

炭酸水?アルコール抜き?

こんなお店でそんな注文をすれば嫌がられるのは目に見えているのに、彼女は普通に受け入れている。

そして、あたしの前にオレンジジュースが置かれるのと同時に道明寺が言った。

「牧野、俺はこの店に仕事で来てる。そして、この梨花は俺の仕事を請け負ってくれている仕事仲間だ。」

思いがけない言葉にあたしの頭が追いつかない。

「仕事……?」

「梨花、今週の見せてくれ。」

「はい。」

梨花と呼ばれたその女性は、自分の携帯を取り出し道明寺に手渡す。

そして、あたしにも見えるように1つのファイルを開けた。

それを見て、あたしは驚いて両手を口に当てる。

そこには、

張社長を含め、あたし達が今関わっている仕事の取引先である社長の名前がズラリと書かれていて、その下には1週間分のプライベート情報が書き記されていたのだ。

「……これって、」

「梨花を通して、社長たちが行きそうな銀座のクラブには情報屋を置いてる。そこで話された会話の内容や交流関係について、全部報告が入るようになってる。」

「信じらんない……」

「女の前では男はペラペラ話すからな、それを利用させて貰ってるって訳だ。」

どおりで次から次へと仕事を取っていくはずだ。

道明寺は梨花さんに携帯を返しながら、

「俺の方に転送しといてくれ。」

と言ったあと、

「もうひとつ、確認しておきたいことがある、」

と、梨花さんを見て言った。

「仕事以外で俺がここに来たことはあるか?」

「……いいえ。」

「俺と店以外のプライベートで会ったことは?」

「いいえ。」

梨花さんのその返事を聞いたあと、あたしの方を見て「他に聞きたい事は?」と聞いてくる。

恥ずかしいっ、まるであたしがヤキモチを焼いてるみたいじゃない。

「ないっ!」

そう断言してオレンジジュースを一気飲みした後、

「お邪魔しましたっ!」

と言い捨て、あたしはカーテンを開け仕切られた個室から飛び出す。

その後を追って道明寺も付いてきた。

その時だった。

あたし達の正面から聞き慣れた声が聞こえたのだ。

店のボーイと共にこちらに向かってくる人影。

それは、張社長だ!

こんな所で会ったらマズイっ。

道明寺も同じことを思ったようで、咄嗟にあたしの腕を掴み、すぐそばにあるカーテンの影に隠れる。

そのスペースは2人が入るにはやっとの狭い場所。おのずと、道明寺との距離が近くて、どこに視線を合わせればいいか困るほど。

ドキドキと心臓がうるさく鳴る。

それがバレたくなくて1歩下がると、それを見透かしたように1歩近づいてくる道明寺。

なんで?と言うように、無言で道明寺を見上げた時、あたし達の視線ががっちり絡まった。

そして、次の瞬間、この人はあたしの唇スレスレのところまで近づいてきて言ったのだ。

「おまえの誤解は解けたか?」

「…………。」

「YES?NO?言わねーと、このまま…するぞ。」

何を?なんて聞かなくても分かる。

もう、唇と唇が触れそうになっているから。

だから、

「YES」

と、急いで小声で言ったのに、

結局、そんなの関係なかった。

あたしの後頭部に手を回し、逃げる隙なんて与えずに、この人はあたしの唇にキスをした。

それも、何度も何度も、繰り返し。

おかしくなっちゃいそうな……キス。

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コメント

  1. えりりんこ より:

    Xがないのでこちらでコメントさせて頂きます。
    今回のお話も凄く面白くて、楽しみに見させて頂いてます。
    そして16話で誤解が解けて私もスッキリです(笑)

    ちなみに、小話も好きです!
    無理なさらずに頑張って下さい!

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