ライバルとなんて、恋しない 15

ライバルとなんて、恋しない


それから道明寺が店に現れるまで15分足らずだったと思う。

息を切らしながらあたし達が座るテーブル席まで来ると、開口一番

「大丈夫か?」

と、心配そうにあたしの顔をのぞき込む。

「ん?え、うん、大丈夫だけど…」

そう答えた途端、

「ババァ!どういうつもりだよっ」

と、今度はお母さんに向かって怒鳴る道明寺。

「道明寺っ、ちょっと落ち着いてっ」

「牧野、ババァになにか言われたのかっ?」

「はぁ?ババァってあんた、」

「何言われたっ?」

勝手に1人でヒートアップして、

あたしの話なんかちっとも聞かないこの人にいい加減こっちも腹が立ってくる。

「道明寺っ!」

「…………」

「周りの人に迷惑でしょ!一旦落ち着いて座る、話はそれからっ!」

そうピシャリと言ってやると、ようやくいつもの落ち着きを取り戻した道明寺はあたしの隣の席に腰を下ろした。

そのタイミングで、あたし達のテーブルにメインの料理が運ばれてくる。

それは今まで見たことも食べたこともないほど大きなロブスター。

思わず、「わぁ、美味しそう…」と呟くと、

そんなあたしを見て、道明寺が呆れたようにクスッと笑った。

「……おまえはまずは、それ食べろ。」

「……いいの?」

「話はババァとする。」

この男は、自分の母親をババァ呼びしているのか。

どこまで行ってもけしからん奴だ。

今すぐにでも叱ってやりたいけれど、

でも、この美味しそうなロブスターの誘惑には勝てない。

お言葉に甘える事にして、あたしはフォークとナイフを持ちロブスターに取りかかる。

その間、道明寺はお母さんに、

「なんのつもりだよ。」

と、聞く。

「たまたま病院で牧野さんに会ったから食事に誘っただけよ?ねぇ、牧野さん。」

「はぁ、まぁ、そうですね。」

「牧野の事調べたのかっ?」

「調べたって…ドクターから聞いたのよ。」

「患者の守秘義務も守れねーのかよあの医者はっ」

「あのねぇ、よく聞きなさい。この間、深夜0時に道明寺家の専属ドクターを病院に呼びつけて診察をしてくれってわがままを言ったのはあなたの方よ。私はてっきりあなたが怪我でもしたのかと思ってドクターに聞いたら、道明寺家とは関係ない女性を診たって言うじゃない。それはこっちとしても詳しく聞かせて貰わなきゃ困るわ。」

「…………。」

「あなたからなにか言ってくるかと待っていたけど、何も音沙汰無し。今日、病院に行ったら偶然牧野さんと診察が重なったので声をかけただけ。あなたに怒鳴られるような事は何もしていないし、むしろ私たちの食事を邪魔しに来たのはあなたの方よ。」

お母さんの言うことはごもっともだ。

何も言い返せない道明寺。

あたしは…というと、そんな2人の会話に耳を傾けながらも、ロブスターの身を殻から取るのに悪戦苦闘中。

出来ることなら、手を使って豪快に食べたいくらいだ。でも、ここはそれが許されるようなお店ではない。

そんなあたしに気付いたのか、

「貸せ。」

と道明寺がロブスターの乗った皿を自分の方へ引き寄せる。

そして、あたしの手からフォークとナイフを奪い、器用な手さばきであっという間に殻から身を取ってくれたのだ。

「…ありがと。」

「ん。」

男の人にこういう優しい行為をされるのに慣れていないから、頬が火照る。

それを隠すように俯きながらロブスターを1口くちに入れると、正面に座る道明寺のお母さんがいった。

「司が他人に優しくするなんて、珍しいものを見せてもらったわ。

2人はいつから付き合ってるの?」

その言葉に驚いて顔を上げるあたし。

「へぇ?……いえっ、あたし達付き合ってません!」

「え?付き合っていない?」

「はい、あたし達、そういう関係じゃなくて、仕事仲間というか、厳密に言うとライバルというか。

なので、お母さんが誤解されているような恋愛感情は無しで」

そこまで早口で言った時、道明寺があたしの言葉に被せるように言った。

「無しなんかじゃねーよ。」

「…………。」

「…………。」

「俺は無しじゃねぇ。おまえが好きだ。

ライバル?ふざけんなっ。とっくにそんな域を超えて、今は恋愛感情しかねーけど?」

「…………。」

言葉を失うあたしに、道明寺は余裕げに

「早くそれ食って、行くぞ。」

と笑った。

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