ライバルとなんて、恋しない 14

ライバルとなんて、恋しない


飲み会で道明寺を『永遠のライバル』だと宣言した数日後、あたしは仕事を早退して病院に来ていた。

この病院に来るのは今日で2回目。前回は急な腹痛で夜間に道明寺に連れてきてもらった。

その時に出された薬が無くなりかけていたので、病院に予約の電話をかけると、今日のこの時間なら診察が空いていると告られた。

久々に仕事を早退して明るいうちに会社を出る。予約していた時間に病院に着くと、あっという間に名前を呼ばれ診察室へ。

継続して1ヶ月分の薬を出してもらい会計を済ませると、まだ17時前だ。

「会社に戻ろうかな…。」

一瞬そう考えたけれど、

「仕事も少しセーブしろ」

という道明寺の言葉を思い出し、

優紀とご飯でも食べて帰ろうか、と考え直す。

そしてカバンの中から携帯を取り出した時、あたしの隣にスっと誰かが座る気配がした。

会計のある1階ロビーはそんなに混んでいない。

座ろうと思えばいくらでも空いている席はあるのに、わざわざ隣に座ったことに違和感を感じ顔を上げると、あたしを真っ直ぐに見つめる綺麗な女性がそこにいた。

「牧野つくしさん、かしら?」

「えっ?…はい、そうですけど。」

突然名前を呼ばれて驚きながらも頷くと、その女性はあたしに1枚の名刺を差し出した。

その小さな紙を見てあたしはさらに驚いて女性を見つめる。

「道明寺…楓さん。」

「初めまして牧野さん。道明寺司の母です。」

ニコリともせずにそう話す女性。

なぜ道明寺のお母さんがここに居るのか。そして、あたしを知っているのか。

もう頭の中がぐちゃぐちゃで追いつかない。

すると、そんなあたしに向かって女性が言った。

「この後、お時間あるかしら。

少し牧野さんとお話がしたいの。」

あたしは後悔している。

なぜあの時、

「これから約束があるので。」

と断らなかったのだろう。

そうすれば、こんな状況になんてならなかったのに。

後悔してももう遅い。

病院を出たあたしは、道明寺のお母さんに連れられて、ダックスフンドのような車に乗りこみ、今いるフレンチレストランへと来てしまった。

そして、あれよあれよと店の奥に通され、ディナーコースを注文され、白ワインを1口飲んでいる。

その間、道明寺のお母さんはあたしに対してプライベートな事は一切聞いてこない。それがまた薄気味悪くて緊張が増すのだ。

どうしてここに呼ばれたのか…。

なぜ、私の事を知っているのか…。

まさか、道明寺と一夜を共にしたことがバレて、お叱りを受けるのだろうか。

ドキドキ感がMAXで前菜も喉を通らない。

すると、そんなあたしを見て、

「そんなに緊張しないでちょうだい。

あなたがどんな方なのか、お会いしたかっただけなの。」

と、言う。

「あのぉー、それはどういう意味で…」

「司とは、親しいのかしら?どんなご関係?」

ほら、きた。

やっぱり、あたしと道明寺のことを疑ってるのだ。

「ご、誤解しないでください。あたしと道明寺は仕事のライバルで、それ以上の関係では、」

「道明寺?」

まずいっ!

迂闊にも道明寺のお母さん相手に『道明寺』と呼び捨てにしてしまった。

「あっ、すみません!いつもの癖で」

「司のことをいつもそうやって呼んでいるの?」

「……すみません。」

もう謝るしかない。

怒られることを覚悟で頭を下げると、意外にも道明寺のお母さんの顔が緩みクスッと小さく笑った。

「随分あなたには心を許してるのね…。

司があなたをあの病院に?」

「あー、はい。ちょうど道明寺…さんがいる時に具合が悪くなってしまい、ご好意に甘えて病院まで連れて行ってもらいました。」

そこまで言った時、あたしの鞄で携帯のバイブ音がした。最初は無視していたけれど、なかなか鳴り止まない。

すみません。と小さく言ってカバンの中から携帯を取り出し見てみると、そこには絶妙なタイミングで

『道明寺司』の文字が。

「司から?」

「……そうみたいです。」

「どうぞ、出て。」

出て…と言われ、無視する訳にも行かない。もう渋々出るしかない状況。

「もしもし。」

「おう、俺だけど。おまえ今日、何時に仕事終わる?」

「……なんで?」

「暇なら……少し会おうぜ。」

なんなんだ、この親子は。

寄りにもよって同じ日。

「ムリ。」

小声でそう即答すると、

「他に約束か?俺は遅くなっても構わねぇけど。」

と、食らいついてくる。

「そうじゃなくて、」

どう説明しようか言葉を考えていると、そんなあたしに道明寺のお母さんが突然腕を伸ばしてきた。

???

意味がわからず見つめ返すと、

「電話、貸してちょうだい。」

と。

その圧力に負けてあたしは無言で電話を差し出すと、道明寺のお母さんが電話に向かって言った。

「司?牧野さんと今食事中なの、邪魔しないでちょうだい。それとも、あなたも一緒に参加する?」

えええーーーっ、思わず叫びそうになったあたし同様、電話の向こうの道明寺もなにかを叫んだらしい。

道明寺のお母さんが顔をしかめて耳から電話を少し離す仕草をした。

そして、不敵な笑みを浮かべながら言った。

「フレンチレストランにいるわ。詳しい場所は西田に聞いてちょうだい。

急がないと、デザートになるわよ。」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす✩.*˚

コメント

タイトルとURLをコピーしました