ライバルとなんて、恋しない 13

ライバルとなんて、恋しない


それから数日たったある日、朝の出勤時にあたしの携帯が鳴った。

見ると、

「急なお誘いですみません。今夜、前回のメンバーで食事会をすることになったのですが、牧野さんもご一緒にいかがですか?佐々木」

とある。

前回のメンバーとは、張社長と一緒に飲みに行ったメンバーたちだ。

そのグループLINEに佐々木さんからこのメッセージが送られてきた。

今夜は特に予定は無い。

参加するのは問題ないけれど、このメンバーはあたし以外みんな男性。

前回のように張社長の声掛けなら断れなかったけれど、今回は張社長抜きのプライベートなものだから断ろうか……。

電車に乗りながら少し思案していると、それを見透かしたかのように、佐々木さんからもうひとつメッセージが届く。

「実は、うちの社の後輩で新しく営業課に入った女子社員がいるのですが、牧野さんの話をしたら是非会ってみたいと言ってまして。今日の食事会に同席しても構いませんか?」

と。

あと10秒遅かったら断りのメッセージを送っていたところ。幸か不幸か、断るタイミングを逃してしまった。

「分かりました。場所と時間が決まりましたらご連絡ください。牧野」

と、返信してあたしは電車をおりた。

19時に仕事を終え会社を出る。

待ち合わせの場所は会社からさほど遠くないビアホール。

19時半の待ち合わせには余裕で着く距離だ。

ゆっくりとしたペースで店へと向かっていると、

「よぉ。」

と、急に隣に人影が現れる。

「おっつ、道明寺っ。」

驚いて変な声が出るあたしに、

「プッ……驚きすぎだろ。」

と、笑うこの人。

その自然な笑顔にあたしの胸がドキンと鳴り、慌てて視線を逸らしながら言った。

「あんたも、参加するの?」

「ああ。」

「LINEのメンバーに入ってないじゃん。」

「俺ぐらいになれば、易々と連絡先を教えたりしねーの。」

「はぁ?」

「特別な男なもんで。」

「もしかしてあんた、仲間に入れて貰えなかったとか?」

「ちげーよっ。」

「ムキになる所が怪しいー。」

そんな言い合いをしていると、前方に佐々木さんが見えた。

「あっ、佐々木さんだ!」

佐々木さんの横にはあたしぐらいの背丈の女性が並んで歩いている。きっとメッセージで言っていた職場の方だろう。

佐々木さんの所まで近付こうと、駆け出そうとした時、道明寺があたしの腕を取り言った。

「牧野っ、」

「……なに?」

「この間、言ったことだけどよ……、」

その先をなかなか言わない道明寺。

その間にも、佐々木さん達は横断歩道を渡り切ろうとしている。

「なによ、急ぎじゃないなら、」

後で聞く……そう続けようとしたあたしに、道明寺は自分の携帯を取りだして言った。

「この間、おまえに言ったよな。

辛い時は俺に連絡しろって。だから、俺たち連絡先交換するぞ。」

あたしを真っ直ぐ見下ろしてそう言う道明寺。

相変わらず俺様口調で腹が立つ。

でも、この男は分かっているのだろうか。

その言葉とその甘い視線が、人を勘違いさせる事を。

だからあたしは、わざと嫌味を言って突き放す。

「道明寺さんは、易々と連絡先を教えたりしないんじゃなかったんですかー?」

「…………。」

「特別な方と存じてますので、連絡先交換なんて恐れ多いですぅ。」

そう言って、舌を小さくべーっと出して勝ち誇ったように見上げた時、道明寺が言った。

「俺のプライベートな連絡先を教えてもいいと思ったのは、女でおまえが初めてだ。」

あたし達が店に着くと、もうみんなが揃っていた。

「お疲れ様です!道明寺さんと牧野さん。ここにどうぞ〜。」

そう言って勧められた席は空いた2つのとなり席。

渋々並んで座るあたし達には、微妙な雰囲気が流れている。それを周りに察知されないようにいつも通りに振舞いながら食事会がスタートした。

佐々木さんが連れてきた女性はあたしより年齢が2つ下。転職組で営業職は初めてだけど、語学が堪能で数字にも強いことから抜擢されたそう。

口数は少ないけれど真面目そうで、真っ直ぐ相手を見て話す所とか、あたし的にはとても好印象。

好きなタイプだわーと思って眺めていると、彼女の飲むペースがかなり早いことに気がつく。

「横田さん、大丈夫?無理してない?」

隣に座る彼女に小さく声をかけると、

「え?あー、すみません。あたし、お酒好きなんです。」

と、照れたように笑う。

「あっ、そうなの?ならいいんだけど、こういう席だから飲まなきゃって思ってるのかなぁと思って心配しちゃった。」

「ありがとうございます。でも、ご心配なく、私、飲んでも全然酔わないんで。」

そうキッパリ言い切るところがまた可愛くて、あたしも彼女に合わせてグラスを傾ける。

すると、そんなあたしに向かって、

「おまえは飲みすぎんな。」

と、道明寺が言いあたしの手からグラスを奪った。

口をふくらませて睨んでやると、あたしにだけ聞こえる小声で

「ドクターに止められてるだろバカ。」

と、呟かれ、大人しくするしかない。

婦人科のドクターに、3ヶ月間はお酒と仕事は程々に…と釘を刺されているのだ。

すると、そんなあたし達の様子に気づいたのか、佐々木さんが言った。

「なんか、道明寺さんと牧野さんって雰囲気変わりましたよねー。」

「…え?」

キョトンとするあたしに、他のメンバーも言う。

「そうそう、噂で聞いてたのとは違うなぁと思って。」

「うわさ?」

「道明寺さんと牧野さんってライバル会社で昔からバチバチやり合ってる犬猿の仲だって聞いてたんですよ。でも、実際はそんなことないですね、逆に仲がいいって言うか、いいコンビって感じで…」

メンバーたちがあたしと道明寺の顔を見比べてウンウンと頷く。

すると、隣に座ってる横田さんが突然ボソッと言った。

「付き合ってるんですか?」

「………。」

シーンと一瞬その場が凍りつく。

そして次の瞬間、いっせいに、

「おいおいっ、横田さーんっ!」

「飲みすぎたかな?それくらいにしておこうか。」

と、慌ててフォローに入るメンバー。

付き合ってるんですか?

横田さんのその言葉で、あたしは思い出さなくてもいい嫌な事を思い出してしまった。

先日、あのお店のホステスに、言われた言葉。

「まさか、道明寺さんと付き合ってませんよね?」

そして、その子の身体から漂う道明寺と同じ香水の香り。

それを思い出したあたしは、慌てて次の話題に切り替えようとしているメンバーたちに向かって宣言していた。

「道明寺とあたしは永遠にライバルなんでっ!

ライバルと恋愛なんて……ありえないでしょ。」

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コメント

  1. きな粉 より:

    いいねぇーもっと言っちゃえ~(笑)
    あっちもこっちもええかっこしいの奴は、お仕置きだぁ
    宣戦布告だぁ~(笑)
    楽しいですね、こういうお話も。
    横田女史も司君を狙ってる?
    更新ありがとうございます(^^♪

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