「よっ。」
「司、来てくれたんだ。」
メープルのウェディングルームにある応接室。
結婚式の打ち合わせで今日も数組のカップルが衣装合わせや式のプランについて担当者と話し合いに来ている。
そのカップルの一組が半年後に式を挙げる予定の滋たち。
「道明寺さん、お忙しい中すみません。」
「いえ、どうです?話し合いは順調ですか?」
「ええ、……まぁ。」
苦い顔の武田氏。
滋の結婚相手であるこの武田氏は、滋とは対照的な落ち着いた年上の男性で、滋のわがままをいつも笑って聞き流してくれる。
結婚式に関しても、二人とも大企業の娘、息子だけあって参列者はかなりの数だ。
それだけでも席順やスピーチの順番に手間取るのに、滋ときたら式場のインテリアから花の種類、余興までわがまま放題言いやがる。
「一生に一度のことなんだからいいでしょ!」
それを口癖になんでも通用すると思ってる滋。
そんなこいつを相手に式場の担当者がとうとう根を上げた。
「滋、おまえわがまま言い過ぎ。」
「でも、来てくれるお客さんには満足して貰いたいし。」
「担当者が困ってるだろ。」
「だから、司に来てもらってるんでしょ。」
俺をわがままの調整役だと思ってるらしい。
けど、そんな滋の幸せそうな顔を見るのは悪くない。
正式ではないが、俺と婚約してた時期に滋のこんな笑顔を見ることはほとんどなかった。
滋を苦しめた自覚はある。
好きになろう……そう努力したつもりだが、どうしても出来なかった。
滋が悪いんじゃない。
俺がどうしても牧野をわすれられなかったから。
「武田さん、ほんとにこいつでいいんですか?
考え直すなら今のうちですよ。」
「ちょっと!司っ!」
「フフフ……はい、僕はこんな滋さんが好きなんです。
いくら考え直しても彼女に決めてますから。」
滋、ごめんな。
そして、滋、オメデト。
「滋、あとで少し時間あるか。
話したいことがある。」
「ん、オッケー。」
1時間後、メープルの喫茶に現れた滋。
「武田さんは?」
「仕事が残ってるから先に帰ったけど、いてもよかったの?」
「ああ、別に俺は構わねーよ。」
「なーんだ、話があるっていうから、結婚するなって引き留められるのかと思ったじゃん。」
そう言って水に口をつける滋。
こいつの冗談はすべて聞き流すに限る。
「滋。」
「ん?」
「牧野に会った。」
水を片手に持ったまま固まる滋。
「…………そっかぁ。」
「○○病院で医師として働いてる。
タマの手術を担当して、偶然会ったんだ。」
「…………で?どうだった?」
「変わってなかった。
全然、変わってねーのあいつ。
白衣着てるからドクターっぽくは見えるけど、脱いだら昔のまま。」
なんとなく思い出したら可笑しくて、笑いながらそう話す俺に、
「そうじゃなくて。」
と突っ込む滋。
「あ?」
「そうじゃなくて。
司はどうだった?って聞いたの。」
「…………。」
さすが滋。
俺が滋をここに呼び出した理由はただひとつ。
「滋。
俺は牧野が好きだ。
今行かなかったら一生後悔する。
だから、行かせてくれ。」
滋にだけはきちんと話しておきたかった。
滋にだけは許してもらいたかった。
「司、早くしないとまた逃げられるよ。
ブーケはつくしのために取っておくから。」

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