ライバルとなんて、恋しない 11

ライバルとなんて、恋しない

痛みに顔をゆがめて立ち上がれない牧野。

「おいっ、救急車呼ぶか?」

「いい、大丈夫。気にしないで……」

そう言われても放っておけるはずもない。

腕時計を見ると、23時半。

この時間から病院は無理だろう。

俺はポケットから携帯を取りだし、ババァにコールする。

3コール目で

「もしもし。」

と怪訝そうな声で出るババァに、俺は早口で言う。

「今、銀座にいる。吾妻ドクターに連絡を取って欲しい。すぐに診察して欲しい患者がいるって伝えてくれ。」

「はぁ、こんな時間に……」

「急患だっ、急いでくれ。」

道明寺家のおかかえドクターがここから程近い場所の大学病院にいる。ババァからの要請ならどんな時間でも引き受けるはずだ。

電話を切り、蹲っている牧野を横抱きに抱えると、すぐ側を通るタクシーを止め乗り込む。

「××病院へ。」

そう告げて隣に座る牧野に視線を送ると、額に玉の汗をかいたこいつは「ごめん。」と目を閉じながら小さく呟いた。

病院到着後、

ババァからの連絡を受けてすぐに診察をしてくれた吾妻ドクター。

その後、『吉井です』と言って女のドクターにバトンタッチ。

30分ほど診察を受けたあと、

「痛みを抑える薬を点滴しているのであと1時間半程かかると思います。点滴が終わりましたら帰っても大丈夫です。」

と、告げられる。

「病名は?どこが悪い?」

「……えーと、ご本人の口から」

「診察したんだろ、教えろ。」

「個人的な事なので、ご本人からお聞きください。でも、……心配するような病気ではありませんが、あまり無理をしない、ストレスを抱えない生活をするように心がけてください。」

そう言って一礼し去っていくドクター。

それを見送ったあと、俺は牧野がいる部屋に入った。

ベッドに横たわるこいつの腕には点滴の線が繋がれている。

俺を見るなり、

「ごめん。」

と、また呟く牧野。

「大丈夫か?」

「ん。もう大丈夫。道明寺、帰って。」

「これが終わったらな。」

そう言ってまだまだたっぷり入っている点滴の袋を指さしながら、ベッドの脇にあるパイプ椅子に腰掛ける。

「で?ドクターはなんて?」

「…………。」

「言えねぇ程の重病か?」

「そうじゃなくて……」

ドクターといい、牧野といい、なかなかハッキリ言わねぇことに苛立つ。

「痛てぇって倒れ込むおまえをここまで連れてきてやったんだから、説明くらいするのが礼儀だろ。」

そうわざと機嫌悪く言ってやると、牧野が視線を逸らしてぽつりと言った。

「生理痛……。」

「……あ?」

予想外の言葉に、お互い気まづい雰囲気が流れる。

倒れるほどの生理痛の痛みとは、男には想像も出来ねぇ。

「……そんなにいつもキツイのかよ。」

そう小さく聞くと、

「ううん。ただ……」

と言いにくそうに俯く。

「途中で止めんな。ここまで来たら、最後までちゃんと言え。」

自分でも驚くほど、『心配だから』というニュアンスが声に漏れる。

それが牧野にも伝わったのか、こいつがぽつりぽつりと話し始めた。

「ここ半年ほどずっと生理が止まってたの。病院にも通ってたんだけど、忙しさとかストレスが原因だろうって言われてて……。でも、あの日の夜から急に生理が再開して、」

「あの日?」

「……ホテルに行った日。」

「…………。」

3週間前、俺たちがホテルに行った日か。

「俺の……せいか?」

「違うっ、そうじゃなくて、いやむしろ元に戻してくれて感謝してるっていうか……。」

「でも、今日の痛みは?」

「先生が言うには、再開した場合、次の生理の時に痛みが強く出ることもあるそうで、今回のはたぶんそれじゃないかって。」

そう言って、火照る顔をパタパタ扇ぎながら、俺に背を向けて、

「今日はありがと。もう大丈夫だから、先に帰って。」

と言う牧野。

その背中に向かってまるで父親みてぇに俺は言った。

「仕事はセーブしろ。酒も禁止。」

「はぁ?」

振り向いて、不服そうに俺を見るこいつ。

「おまえは働きすぎだ。残業もやめろよ。

それと、最低、半年間はここの病院に通ってドクターに診てもらえ。」

「なによ急に、」

その後になにか言いたそうな牧野だったけれど、俺がこいつの乱れた髪に手を伸ばし、

「そして、辛い時は……すぐに俺に連絡しろ。」

そう呟くと、困ったような顔で、それ以上は反論しなかった。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす✩.*˚

コメント

タイトルとURLをコピーしました