ライバルとなんて、恋しない 10

ライバルとなんて、恋しない

エレベーターから降りると、いつものように手前から3件目の店へと向かう……はずの俺の足が、今日は言う事を聞かずに、その先の階段へと進む。

そして、階段を段飛ばしにのぼり、息を切らしながら7階まで上がると、牧野の姿をキョロキョロと探す。

すると、7階の1番奥にあるホストクラブへ入る牧野の背中がチラリと見えて、俺は急いでその背中に向かって叫んだ。

「おいっ、牧野っ!」

その声に、牧野の背中がビクンと揺れ、顔だけ振り向く。

「……道明寺?」

そう呟いた牧野に駆け寄り、その小せぇ身体を店の外に引きづり出す。

「な、な、何よっ!」

「いーから、こっち来いっ。」

「はぁ?ちょっと、花が潰れるってば!」

両手に抱えた花束を大事そうに庇うこいつが気に食わない。

「そんな花、こっちに寄越せ。」

「やめてっ、贈り物なんだからっ。」

「だから寄越せって言ってんだろ」

「どういう事っ?花が欲しいなら、自分で買いなさいよっ。」

「花なんか欲しくねー。でも、それは没収だ。」

そう言って牧野の手から花を奪おうとする俺に、牧野が睨みながら言った。

「ママのために買った花を、なんであんたに没収されなきゃなんないのよっ。ほんと、意味が分かんないっ。」

「……あ?ママって?」

「千石バーのママっ!」

店の看板を見上げながらそう怒鳴る牧野と、ポカンと固まる俺。

そこには、『千石バー  幸代ママ』と書かれた看板が。

もしかしたら、これは最悪の状況か?と頭をよぎった次の瞬間、

「あらあら、どうしたのぉー?つくしちゃん、いらっしゃい。こちらの方は?」

と、店の中から着物姿の女が登場した。

そして、

「まぁ、素敵なお花〜。私のために持ってきてくれたのかしら?」

と、喜ぶ『ママ』を見て、俺は最悪だ……と心の中で呟きながら目を閉じた。

結局、

『ママ』に強引に引き込まれて店に入れられた俺は、店の1番奥にあるテーブル席に座り、ママと優紀と呼ばれる女からニヤニヤ顔で見つめられている。

「お名前は?」

「…………。」

黙る俺を呆れた顔で見つめながら、

「道明寺司。」

と、代わりに答える牧野は、俺らから離れたカウンター席に1人で座り、ツマミのナッツを食っている。

「つくしちゃんとはどういうご関係?」

「…………。」

「仕事先でたまに会う人。」

と、またまた雑に牧野が説明する。

「へぇ〜〜。

それにしても、凄いイケメンねぇ。

つくしちゃんとは仲良いの?」

「いいえ。」

「全然。」

俺たちが同時にそう答えると、爆笑する『ママ』。

「つくしちゃん、お花ありがとうね〜。

でも、彼との約束があるならわざわざお店に来なくたっていーのに。」

「違っ!約束なんてしてないしっ。

この人は、ここのビルの中で働いてるお気に入りの女の子に会いに、夜な夜な通ってるのよね〜。」

「えっ、そんなんですか?道明寺さん。」

「違いますっ。」

「違わないでしょ、ほらあの5階にある紫の看板のお店の子。この男は、あのお店の若ーい女の子にメロメロなの。」

ナッツを口に入れながら、軽蔑した目で俺を見る牧野。

「おまえ、その勘違い発言やめろって。」

「ん?あたしの発言のどこが勘違いなの?」

「俺は仕事であの店に……」

「へぇー、仕事で?週に何回も?腕を絡ませてお見送りまでして貰って?」

「おいっ、」

ヒートアップしそうな俺たちの会話に、『ママ』が慌てて入り込む。

「つくしちゃん、もうその辺にしておきなさい。そして、飲みすぎよー。随分今日はピッチが早いわね。」

牧野は入店して30分足らずでもう3杯目。

頬も少し赤くなってきている。

「そんなに飲んだら帰れなくなるわよ。」

「明日は仕事休みだしいーんです。」

「なら、道明寺さんに送って行って貰う?2人とも仕事が休みなら、お泊まりしちゃう〜〜?」

『ママ』的には軽い冗談でそう言ったのだろうけれど、一気に俺たちの間に気まづい雰囲気が流れ、お互い分かりやすく視線を逸らす。

その仕草に、それまで黙って見ていた『優紀』が、

「あ、……もしかして、道明寺さんって、あの彼?」

と、牧野に向かって聞く。

「……へ?」

「ほら、だから、ゼロ%の彼?」

聞かれた牧野は明らかに動揺した様子で大きく首を振り、

「その話は忘れてっ。」

と、フラフラした足取りで立ち上がった。

23時を回った頃、

「今日は誕生日だから早く店を閉めるわ。」

とママが宣言し、強引に帰り支度をさせられた俺たちは、真冬の夜道を並んで歩く羽目になった。

「さみぃー。」

「そう?あたしは暑い。」

「アルコールの摂りすぎだ。」

「それか、贅肉という服を着ているからかなー。」

自虐ネタでクスクス笑うこいつは完全にぶっ飛んだ酔っ払い。

でも、贅肉なんてどこにも付いてねーだろ、と頭の中で牧野の綺麗な裸体を思い返す俺は、もっと頭がイカれてる。

「……なぁ、」

「ん?」

「あのビルに行く目的は、あのママに会いに行くためか?」

「……そうだけど?」

「ホストクラブは?」

「ホスト?そんな上級遊びをするほどお給料貰ってないので。」

その言葉を聞いて、ほっとしたのと同時に、

「紛らわしいことすんな。」

と、愚痴が漏れる。

しばらく無言で歩いて行くと、突然牧野が言った。

「ねぇ、……道明寺。」

「あ?」

「あんた、どうやって帰るの?」

「おまえは?」

「あたし、……ちょっと……少し休んでくから、先に行って。」

「あ?どした?」

「大丈夫。少し……んー……」

急に顔をしかめて牧野がその場にしゃがみこむ。

「おい、大丈夫か?」

「ん。ちょっと……痛くて、……」

「どこがだよ。」

「おなか……かなー。」

そう言って困った顔で俺を見つめたあと、牧野は完全に道路に座り込んでしまった。

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