ライバルとなんて、恋しない 9

ライバルとなんて、恋しない

優紀との温泉旅行から3週間後。

あたしは張社長の会社に来ていた。

先日の飲み会以降、初の顔合わせ。

張社長に

「あの時は酔っ払っていて、牧野さんに失礼なこと言って申し訳なかったね。」

と言われ、

そういえば、張社長から

「婚期が遅れる………」とセクハラ発言された事を今更思い出した。

「いえ、気にしてませんので。」

そう返しながら、心の中で呟く。

『その後の展開が衝撃すぎて、張社長の発言なんかすっかり忘れてました』と。

あの日以来、幸いにも道明寺司とは会っていない。

同じ職場じゃなくて良かったと心底ほっとする。

次にあった時にはどんな顔をしたらいいのか。

いや、向こうもそれほど気にしていないだろうから、あたしも何も無かったように振る舞えばいい。

そう自分に言い聞かせながら、あたしは張社長との会議を終えて1階のロビーへとおりる。

すると、そこに先日飲み会で一緒だった仲間の顔が会った。

「あっ、牧野さんっ。」

「あ、こんにちは佐々木さん。お疲れ様です。」

「張社長と打ち合わせですか?」

「ええ、まぁ。特に収穫はありませんでしたけど。」

そう言っておどけてみせると、相手もクスッと笑ったあと、

「あのぉー、良ければ僕と連絡先交換しませんか?」

と、言ってくる。

「え?」

「いや、変な意味じゃなく、実はこの間来ていたメンバーとは連絡先を交換したんです。でも、牧野さんと道明寺さんだけは帰る方向が違ったので交換出来てなくて。良ければ、仕事仲間としてしませんか?」

「あー、そういうことですね。

はい、喜んでお願いします!」

こういう横の繋がりは結構大切で、お互い損は無い。

あたしは鞄から携帯を取りだして、佐々木さんの携帯に近付ける。

ものの数秒で佐々木さんの連絡先があたしの携帯に届く。

「牧野さんって、つくしって名前なんですね。」

「はい。」

「なんだか、可愛いですね。」

「そうですか?雑草ですけど。」

「あははは〜。」

佐々木さんとロビーでそんなやり取りをしていると、なぜだか物凄い殺気を感じて顔を上げる。

すると、ロビーの入口に立つ男があたしたちの方を見て、滅茶苦茶機嫌悪そうに睨んでいる。

「あ?道明寺さんっ!」

佐々木さんが嬉しそうにそう呼ぶと、来なくてもいいのに道明寺司がゆっくり近づいてきた。

あの夜以来、3週間ぶりのご対面。

色々と再開場面を予想していたけれど、このシチュエーションは予想外。

「道明寺さんも打ち合わせですか?」

「資料だけ届けに来た。おまえらは?」

「僕も牧野さんも社長とアポで。」

佐々木さんがそう言うと、道明寺司があたしの方へ視線を向ける。

でも、あたしはその視線に目を合わせることが出来ないまま、

「あたしは終わったのでこれで失礼します。」

とペコリと頭を下げて出口に向かって早歩きで歩き出す。

その背中に向かって、

「つくしさん、また今度っ。」

と、佐々木さんの声がした。

3週間ぶりに牧野に会った。

いつものように地味な服装ときっちり整えられた髪。靴もカバンもシンプルだ。

会社の受付嬢にも丁寧に挨拶し、腰が低い。

見た目はどこにでもいそうな事務系の社員に見えるけれど、実際は違う。

そこら辺にいる男よりも数十倍仕事ができる女。

作る資料は丁寧で完璧、他の会社が目をつけないような所まできっちりとおさえてくる。

そして、何より相手ファーストで物事を捉え導き出すプレゼンは独創性があり舌を巻くほどだ。

今迄の俺の牧野に対する評価はそんなもんだったけど、今は少し違う。

そこにプラスされて、

『女として気になる存在』というフレーズが追加されちまった。

正直いうと、あの夜は衝撃だった。

抱いてる最中、常に俺の心の中に『可愛い』というワードが飛び交う不思議な体験をした。

強く抱いたら壊れそうな華奢な身体や、小さく漏れる声、潤む瞳、濡れた唇、溢れる液。

気でも狂ったか………と思うほど、こいつが可愛くて堪らなかった。

その感情をどうしたら良いのか、宙ぶらりんのまま3週間がすぎ、ようやくこいつに会ったと思ったら、まさかの他の男と楽しそうに笑ってやがる。

おまえって女はマジで分かんねぇ。

見た目通り恋愛も地味なのかと思いきや、ホスト通いや旅行、はたまた仕事関係の男とも仲良くしてやがる。

本気で俺は一夜限りの遊びなのか?

だとしたら、俺のこのモヤモヤした感情をどうしてくれるんだよっ。

モヤモヤした気持ちのままその夜、いつものように週に2回顔を出す銀座のビルに向かうと、ビルのエレベーター前で俺を惑わせている女に出くわした。

俺と目が合ったあと、驚いたように目を逸らす牧野。

そんなこいつの隣に立って言ってやる。

「随分、堂々と避けてくれるじゃん。」

「べ、別に避けてないしっ。」

俺の言葉にムキになってわざと俺の目をガッチリ見てくる牧野。そんなこいつの腕にはかなり高額だろう豪華な花束が抱えられている。

「それ、なんかの祝いか?」

「…誕生日。」

「すげー豪華じゃん。」

「大事な人へのプレゼントだから。」

そう言いながら嬉しそうに花束を見つめる牧野。

エレベーターに乗り込んで上の階に上がる途中、俺のモヤモヤはおさまらない。

牧野から大事な人と呼ばれ、誕生日にそんな花まで貰うホストとはどんなやつなのか。

エレベーターが5階に止まり扉が開く。

「降りないの?」

「あ?…ああ、降りる。」

そう答えたあともなかなか降りない俺に、

「早く降りなさいよ。」

と、開くのボタンを押しながら牧野が言う。

「おまえさ、」

「……なに?」

「その花をやる相手って、」

「…相手?」

俺はこいつに何を言おうとしてるんだ。

「いや、何でもねぇ。」

髪をクシャクシャっとかき混ぜながらそう言い捨てて、俺はエレベーターから降りた。

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コメント

  1. きな粉 より:

    もうもう、司君は意地っ張りですね(笑)
    一人で勝手に勘違いしちゃって・・・(笑)
    つくしちゃんは、いい迷惑ですねぇ~
    続きが、楽しみです
    更新ありがとうございます(^^♪

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