ライバルとなんて、恋しない。8

ライバルとなんて、恋しない

タクシーに乗りマンションに戻ると、大慌てでバスルームへと駆ける。

優紀が来るまであと30分。

それまでに髪を洗い、服を着替えてお化粧をして………。

朝から死ぬほどバタバタする羽目になった理由は、今は考えないようにして、準備だけに全集中していると、優紀が来る頃にはなんとか支度が整った。

優紀が運転してくれる車の助手席に乗って、優紀には聞こえないように小さくため息をつく。

バカなあたし。30歳にもなって何やってるのよ。

ワンナイトラブで朝帰り。

しかも、これからも顔を合わせる可能性がある男となんて、超最悪な展開。

唯一の救いは、他人に言いふらすような口の軽いタイプの男ではないだろうという希望だけだ。

今後、仕事で顔を合わせたらどんな態度を取ればいいのか。

誘ったのはあたしの方だから、やっぱり謝った方がいい?いや、でも、帰ろうと一度は言ったのに、再びキスを仕掛けてきたのは向こうの方。

悪いのはあたしだけじゃないはず。

そんなことをグルグル考えていると、運転している優紀が

「何かあったの?つくし。」

と、心配そうに聞いてくる。

「ん?ううん、何もないよっ。」

「そう?仕事でトラブって徹夜だったんじゃない?」

確かに言い方を変えれば、『仕事関係でトラブって夜を明かした』のに変わりは無い。

「うーん、ちょっとね。たいしたミスじゃないから大丈夫。」

そう声に出して答えてから、『そうだ、こんな事、社会人ならよくあることかもしれない。気にしない気にしないっ』と自分に言い聞かせて、頭を温泉旅行に切り替えた。

奮発して予約した温泉宿は、想像以上に素敵なところ。

宿自体が女性客専用なので、至る所に女性が喜ぶ仕掛けがたくさんあり見飽きない。

みやげ物屋で買い物をして、宿の周辺を散策し、カフェでお茶をしたら、あっという間に夕方だ。

「そろそろ温泉でも入ってくる?」

「そうだね。温泉入って、部屋でゆっくり呑もう!」

お酒が好きな優紀はここの宿が出している地酒を呑むのを楽しみにしている。

今夜は部屋食だから、思う存分ゆっくり呑ませてあげたい。

2人でお風呂の準備をして、地下にある温泉へと移動する。

この時間は夕食前だからまだそんなに混んでいない。

服を脱ぎ、髪を軽くゴムで結んでいると、優紀が一瞬あたしを見て、ん?という顔をした。

「どうかした?」

「ん?ううん。つくし、向こうの方に行こう。」

そう言って、1番奥の洗い場へ先に歩いていく優紀。

その後もなるべく人の少ないところを選んで動く優紀に、少し違和感を感じたけれど、鈍感なあたしは自分の失態に何も気付いていなかったのだ。

そして、部屋に戻り豪華な夕食を前にして、カンパーイとグラスを合わせた次の瞬間、優紀から爆弾が落とされた。

「つくし、彼氏出来たの?」

「え?」

驚くあたしに、もう一度ニヤリと笑いながら

「彼氏出来たの?」

と聞く。

「出来てない出来てない。なに?急に。」

あたしがそう聞き返すと、優紀はあたしの顔より少し下を指さして、

「随分わかりやすく付けてくれたわよねその男は。」と意味不明なことを言う。

「え?なに?」

「キスマーク。」

「………へ?」

「今日の朝帰りは仕事じゃなくて、お楽しみだったって訳ね。」

そう言われて、ようやく優紀の言っている意味を理解したあたしは、慌てて部屋の奥にあるバスルームへと走っていく。

そして、大きな鏡の前で浴衣の前を広げると、

「うそ………。」

と、恥ずかしさで顔を覆う。

鎖骨の辺りと左胸の上にいくつか広がる紅い印。

それは昨夜の行為を思い出させるには十分な証拠。

頬が火照るあたしに、

「つくし、早く戻っておいで〜。」

と優紀の声がする。

トボトボと歩き部屋に戻ると、再び正面に座るあたしに、

「今日は全部聞くまで寝かせないわよ。」と、酒豪の優紀が微笑んだ。

「付き合ってないの?!」

「うん。」

「昨日が初めて?」

「うん。」

「お酒の勢いで、ラブホに連れ込んだ?」

「うん。」

有り得ない………というように首を振る優紀。

「つくしにしてはかなり大胆なことやったわね。」

「1億払ってでも時間を巻き戻したい。」

「プッ………、何言ってんのよ。私は良かったと思うなー。」

「え?何がよー。」

「だってさ、お互い様だけど、私たちそういう事ずっとご無沙汰じゃん。やる時はやらないと、女性ホルモンも出ないわよ。それだけ紅い印を付けられたってことは、だいぶ愛されたんじゃないの?」

開けっぴろげにそう聞かれ、赤面する。

昨夜の道明寺はすごく男っぽくてやらしくて、それでいて優しかった。

頭ではこんな事しちゃダメだと分かっているのに、大きな手に触れられれば触れられるほど、どんどん欲が解放され求めてしまう。

優紀が言うように、ホルモンが過剰に出過ぎて、女がこんな事言うのははしたないけれど、性欲が抑えられなかった。

「で?相手はどんな人?」

「どんなって………まぁ、そこそこイケメン。」

「へぇ〜。進展する確率は?」

「ゼロパー。」

「ゼロ?!まさか既婚者じゃないでしょ?」

「違う違うっ。でも、あたしのこと嫌ってるし。」

今まで仕事で顔を合わせてきても、いつも素っ気なく嫌味しか言ってこない。こっちはライバルだと思っていても、向こうはきっと、いつもウロウロ飛んでいる邪魔なハエだとしか思っていないはず。

「そうかなー。そんな相手に愛の印つけるかなー男って。」

そう言いながらまたあたしの胸元をわざとらしく指さす優紀。

そして、念押しのようにもう一度言う。

「当分の間消えないわよ、その愛のし・る・し。」

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