ライバルとなんて、恋しない。7

ライバルとなんて、恋しない

間接照明がともされたホテルの部屋に入ると、牧野が少しだけ尻込みしたように感じた。

ほらな?

勢いだけでこんな所に来て、ようやく事の重大さに気付いたか?

どんな理由をつけてこの場から退出するのか……。

潔く謝ったら許してやるぞ。

そう思いながらこいつの顔を覗き込むと、口をぎゅっと結んだ後、意を決したように俺の身体を強い力で壁に押さえつけた。

まさか……?

その後を考える間もなく、俺のネクタイは下方向に引っ張られ、唇に柔らかい感触が当たる。

キス。……マジかこいつ。

それも、甘さの欠けらも無いキス。

やけになってしてきてる事くらい俺にだってわかる。

でも、どんだけ乱暴にやけっぱちでしてきても、その吐息や仕草、こいつから漂う香りに、俺の理性が崩れていく。

乱暴に合わせられた唇が離され、ようやく我に返った牧野が呟く。

「ごめん、やっぱこれは違う。」

「…………。」

「出よう。」

そう言って出口の方へ向かおうとするこいつに俺は言った。

「……今更か?」

「ごめんって、あたしが悪かった。」

反省したように下を向く牧野。

その謝罪を素直に受け入れられない俺。

「簡単に降参すんな、バカ。」

今度は俺が牧野の身体を反転させ壁に押し付ける。

そして、躊躇うことなく唇に食らいつく。

「ンッ……どおーみょー……じっ、」

身長は俺より頭1つ分小さい牧野。その顔を両手で挟み上に向かせ、少し開いた唇に親指を入れる。

その温かさと、ネチョっとした感触に興奮が止まらず、スーツの上着を脱がせ、上半身に手をはわす。

「道明寺っ……」

「……ダメ?」

自分でも驚くほど甘く囁く言葉。

こんな風に女におねだりする日が俺にも訪れるなんてと苦笑する程だ。

牧野の身体を持ち上げ、部屋の中央にあるベッドに運ぶと、ゆっくりそこに寝かせる。

そして、自分の上着とネクタイを取り外し、牧野のブラウスのボタンに手をかける。

1つ目を外し、2つ目にいこうとした時、

「自分で出来るから。」

と、俺から視線を逸らして小さく言う。

それは、この状況を受け入れたという牧野の意思表示。

その照れたような顔と、胸元から見えるピンクの下着に、もう抑えが効かなくて、

「俺がしたい。」

そう言って牧野のボタンにもう一度手をかけた。

『経験人数だって、あんたに負けないんだから!』

『人数じゃなく、テクニックで勝負してるんで。』

牧野を揺らしながら、1時間前のその言葉を思い出す。

お互い馬鹿な言葉を吐いてるのは百も承知だ。

でも、もしも本当にこいつがそうなら、その数多くの男たちと比べられて落胆されるのだけはごめんだ。

何度も限界に達しそうになるのを我慢して、じっくりと執拗に激しく攻め立てる。

あそこがヒクヒクと波打つ様子から、牧野は既に何度めかの絶頂を味わっているはず。

でも、控えめな声と恥じらう態度から、確信は持てない。

「……イッタか?」

耳元でそう聞くと、片手で顔を隠すこいつ。

そういう仕草に堪らなく胸を揺さぶられ、俺ももう限界が近い。

今日は俺の人生で間違いなく、一番濃厚で至福な夜。

そう感じながら、快楽に包まれてドクドクと果てた。

早朝6時。

携帯のアラームが部屋に鳴り響く。

モゾモゾと動く牧野はまだベッドの中で覚醒していない。

ようやく30秒ほど鳴ったところで、ガバッと頭だけ起き上がり、慌てて昨日脱ぎ捨てたスーツの中から携帯を取り出している。

そして、

「あっ!どうしよっ!」

と、情けない声を発したあと、ベッドに顔をうずめて動かない。

その間、俺は寝たフリのまま。

いや、既に5時くらいからもう目は覚めていた。

正直、ほとんど眠れなかった。

裸のまま眠りについてしまった牧野は、朝目覚めたらどんな顔をするだろう。

昨夜のように、恥じらいながら俺の腕の中で眠るのか、それともやってしまった……というような表情で俺を避けるのか。

そんなことをグルグル考えていると、あっという間に朝。

寝たフリをしながら牧野の様子を伺っていると、今度はアラームではなく携帯が鳴った。

慌てて音量を消すこいつ。

そして、静かにベッドから出ると、身体を小さくしながら脱ぎ捨てた服をひろいあつめている。

その背中に向かって言う。

「帰るのか?」

すると、

「キャッ!」

と、驚いて俺の方を振り向く。

「お、起こした?ごめんね。」

「いや。帰るのかよ。」

「ん。ちょっと今日用事があって、急がなくちゃいけないの。」

「こんな早くからか?」

「うん。……知り合いと温泉。一泊で行く予定で、朝あたしのマンションに迎えに来るの。

……道明寺、悪いんだけど、着替えるから少し反対向いててくれない?」

「お、おう。」

言われるがままベッドの中で身体の向きを変える。

背中越しに牧野が着替えているのが伝わってきながら、俺はふと思い出す。

そう言えば、牧野がオヤジに殴られて俺の邸に連れて行ったあの日。

誰かから電話が来て、温泉旅行の話をしていたっけ。

まさかとは思うけど、俺は気になって聞いてみる。

「なぁ、おまえさ、今日の温泉ってまさかホストと、」

そこまで言った時、また牧野の携帯が鳴った。

今度は耳に当てて

「もしもしっ。」

と出る。

そして、

「ゆうき?ごめん、ちょっと事情があって、少し時間かかりそうなの。ほんと、ごめんね。悪いけど、1時間遅らせてもらってもいい?」

と、申し訳なさそうに言う。

それを聞きながら俺は軽く目眩がする。

『ゆうき』と呼んでいるところを見ると、やっぱり相手は男だろう。

ホストか?それとも付き合っている男なのか。

どちらにしても、男と一夜を過ごしたあとに違う男と温泉旅行に行くとは、やっぱり本人が言うように男関係は奔放なのかもしれない。

バカみてぇにドキドキして、興奮して、満足した昨夜の記憶を思い返しながら、のぼせてるのは俺だけかよ。と軽い脱力感に襲われた。

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