ライバルとなんて、恋しない。6

ライバルとなんて、恋しない

その夜、張支社長とあたし達は銀座の一等地にあるお店でお酒を交わしていた。

出席者は昼間会議室で顔合わせをしたメンバーと張支社長の合わせて7人。あたし以外はみんな男だ。

あたしだって出来ることならこんな男だらけの呑み会に参加したくなんてない。

けど、この機会を逃したら、1歩みんなよりも仕事に後れをとる。そう思うと、不参加とはどうしても言えない性格。そんな自分を恨みながら、渋々あたしは3杯目のお酒に口をつけていた。

酒の量もだいぶ進み、酒豪だと噂の支社長も呂律が回らないほど酔ってきている。

そろそろ解散しようと誰かが切り出してくれればいいのに……そう思っていると、

支社長があたしに向かって突然言った。

「牧野さん、彼氏はいるの?」

同じ会社の上司に言われたら、「セクハラです」と即時にシャットアウトする内容。でも、今日はそうもいかない。

なんて答えようか一瞬迷っていると、支社長の隣に座っている道明寺司がサラッと言った。

「そういう話題は避けましょう。」

「なんだよ、紳士だね〜道明寺くんは。」

「いえ、そうじゃなくて。日本の会社はそういう事に敏感ですから。」

周りのメンバーも無言で頷き擁護してくれる。

でも、張支社長の口は止まらない。

「男女平等とか言っておきながら、そういうことに関しては守られたいんだよ女って。」

「張支社長、もうそれぐらいに。」

ピシャリと言い放つ道明寺司。

それを見て面白くなさそうに

「分かったよ、道明寺くん。」と渋々頷いた支社長は最後にボソッと言った。

「でも、……仕事は程々にしておかないと、婚期を逃すことになるよ。」

と。

腹立つ、腹立つ、腹立つ!

男は30過ぎても何も言われないのに、女は30過ぎると結婚は?と無言の圧力がのしかかる。

あたしだって、結婚はしたい。

将来の夢は?そう聞かれたら、迷わず家庭を持って子供を産み、幸せに暮らしたいと答えるだろう。

でも、今のあたしが独身なのは、決して仕事のせいだからでは無い。

単純に、恋愛ベタで出会いを求める場にも行かず臆病なだけ。

それをこんな風に『仕事を頑張りすぎてるからだ』と遠回しに言われることには黙っていられない。

支社長の言葉に、

「あのー、そのお言葉ですが、」

と、あたしが反論しようとした瞬間、

「そろそろ、お開きにしましょうか。」

と道明寺司が言った。

「あ、そうですね〜。」

「僕も、そろそろ終電なので。」

この雰囲気がヤバいと感じたメンバーたちは、道明寺司の言葉に一斉に帰り支度を始める。

「張支社長、迎えの車呼びますね。」

「いやっ、俺はまだ飲むぞ。誰か付き合ってくれ。」

「…………。」

誰も挙手するものは居ない。

結局、ベロベロに酔った支社長をタクシーに詰め込み、車が走り去っていくのを全員で見送った。

「はぁー、マジで疲れたな。」

「仕事の収穫はゼロ。」

それぞれが今日の飲み会のグチを言いながら、「お疲れ様でした〜。」と言って帰路に着く。

その中の1人の背中を鷲掴みにして、あたしは叫んでいた。

「ちょっと!話があるから来なさいよっ。」

「おいっ、バカっ、絡むな。」

「なんでさっき、あたしの言葉を遮ったのよ!」

「あ?おまえが暴言吐く前に助けてやったんだろ。」

あたしが絡んだのは、悪気もなくそう言い放つ道明寺司。

「あのセクハラおやじが先に暴言吐いてきたんでしょ。」

「だからって、それに乗っかったらおまえの会社も仕事もやりづらくなるだろ。」

「…………。」

それはそう。

だけど、言われた方の気持ちはどうなる。

男のあんたには分からないだろう。

あたしは道明寺司の背中から手を離し、無言でスタスタと歩き出す。

「おいっ、怒ったのかよ。」

「…………。」

「なんか言えって。」

「…………。」

それでもあたしの後を付いてくるこの人に、あたしは立ち止まって言った。

「あたしとあんたって1個違いでしょ?あんたも今までどこかで、婚期を逃してるなんて言われたことある?」

「いや。」

「じゃあ、なんであたしだけこんな事言われなきゃなんないのよ。」

「それはー、」

少し考えたあと、むちゃくちゃ小馬鹿にしたように言う。

「俺の場合、選ばれる方じゃなくて、選ぶ方だからじゃねぇ?」

「はぁ?」

「どう考えても、恋愛に困ってるように見えねぇ俺に、婚期を逃してるなんて言うやついねーだろ。」

自信満々にそう言い切るこの男が心底憎たらしい。

「ちょっと!あたしだって別に恋愛に困ってませんから。」

「へぇー。」

「何よその顔っ。」

「別に?」

あたしの顔を見てクスッと笑ったあとスタスタと歩き出すこの人。

「その顔、バカにしてるでしょ!」

「……。」

「嘘だと思ってる?」

「…………。」

無言でスタスタ前を歩く道明寺司にあたしは大声で言う。

「こう見えてすごくモテるし、言い寄ってくる人も後を絶たないんだからねっ。経験人数だってあんたになんか負けないんだからっ、2倍?いや3倍かもっ!それに……むぐっ……んーっ、」

それ以上は道明寺司の手で口を押えられ言わせて貰えない。

「バカか、おまえ。こんな所で叫ぶ内容かよ。」

「だって、あんたが信じないから悪いんでしょ!」

「信じるも何も、おまえの恋愛話に興味ねーし。

それに……」

そこまで言って、この人はニヤリとわらいながらあたしの耳元に何かを囁いた。

それは、

『人数の多さより、俺はテクニックで勝負してるんで。』

その言葉にあたしの何かがプツリと音を立ててはち切れた。

こいつにだけは負けたくないっ。

売られた喧嘩は受けて立つ!

道明寺司のスーツの胸元をグイッと引っ張りながら、

「どっちのテクニックが上か勝負だからっ。」

と言い捨て、そのまま夜の街を歩く。

そして、すぐに目の中に入ったラブホテルに躊躇なく入り込むと、あたしは勢いに任せて道明寺司を捕まえながらズンズンとエレベーターの前まで突き進む。

「おい、」

「なに?逃げる気?」

ようやく観念して逃げるか?そう思ったのに、

「あ?ちげーよ。部屋のカギ受け取らねーと部屋に入れねーだろ。」

と、入口付近にある壁に設置された部屋番号のパネルを慣れた手つきで押す。

えっ、ちょっと待って……、

この人まさか本気で部屋まで行こうとしてるつもり?

さっきまで強気で押していたあたしの心の中は???マークが広がりプチパニック。

『いやいや待てよ。俺が言いすぎた、悪かった。』

道明寺司がそう言うのを予想していたのに、この人はまったく言う素振りも見せない。

それどころか、エレベーターに乗り込むと、

「逃げるなら今のうちだぞ。」

と言う。

その言い方がいかにも勝ちを確信したような言い方で、やたらに腹がたつ。

もう、成るようになれだわっ!

そう開き直ったあたしは、

「その言葉、そっくりお返しするわ。」

そう言い捨てて、部屋の階で止まったエレベーターから勇ましく降りた。

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