ライバルとなんて、恋しない。4

ライバルとなんて、恋しない


腫れた頬と泣いた目を隠したいから、この大柄な男の後ろに隠れるようにして、夜の街を歩く。

すると、少し開けた道路に出たところで、黒塗りの車がスーッと近づいてきた。

ん?

不思議に思う暇もなく、道明寺司がその車の後部座席を開け、あたしの身体を押し込む。

「えっ、えっ、え?なに?」

驚くあたしの言葉なんて無視して、運転手に

「邸まで。」

と、告げるこの人。

「どこ行くの?」

「俺の家。」

「はぁーーー?!」

「うるせぇ。」

大きな声を出すあたしに、嫌な顔をした後、

「応急処置しておかねーと、そのブサイクな顔がもっと見苦しくなるぞ。」

と、ムカつく事を言い放つ。

「今すぐ降ろして。」

「…………。」

「降ろしてくれないなら、飛び降りるから。」

そう言いながら睨みつけると、あたしの顔をチラッと見たあと、運転手に向かって

「今の2倍のスピードで走れ。」

と、しれっと言う。

もぉーーー、この男はどこまで行っても腹が立つ!!

さっき、傷にそっと触られた時に一瞬だけでも『優しい』なんて思ってしまった自分を殴ってやりたい。

優しさの欠片も持ち合わせていないこの男を睨みつけてやると、

ようやくあたしと目を合わせた。

「薬、用意させてあるから、とりあえず大人しく付いてこい」

「こんな時間に男の家に行くわけないでしょ。」

「フッ……ホスト通いはするくせに、そんな常識持ち合わせてるのかよ。」

「……はぁ?」

「安心しろ。俺だって女をこんな時間に部屋に誘ったりしねーよ。それなのに、誘われた意味を考えろ。」

「…………、ねぇ、それって」

「…………」

「あたしは女じゃないって事ーっ!!」

そう叫ぶのと同時に、車が大きな門をくぐり抜けてどこかのお屋敷へと入っていく。

そこはまるでおとぎ話に出てくるような世界。ライトアップされたお城のような洋館、湧き上がる噴水、綺麗に整えられたお庭。

あまりの素敵さに目を奪われていると、その洋館の前で車が止まった。

「ん?ここは?」

「俺の家。」

「…………。」

「降りるぞ。」

訳が分からないまま車から降りると、洋館の扉が開き、

「お帰りなさいませ、坊ちゃん。」

と、老婆が出迎えてくれた。

……………………………………

驚きで声も発しなくなった牧野つくしを連れて、東棟の俺の部屋に行く。

そして、タマに向かって

「頼んでおいた薬、持ってきてくれ。」

と、伝える。

車に乗り込んだ後、タマにメールで頼んでおいたのだ。

腫れを引かせる冷却材と痛みが和らぐ鎮痛剤を。

とりあえず、そこに座れと言って女をソファに座らせたあと、スーツの上着を脱ぎネクタイを緩める。

そこにタマが来て、テーブルに熱い紅茶を置いたあと、俺に薬を手渡しながら小さく言った。

「坊ちゃん、まさかとは思いますが、あの頬の腫れは坊ちゃんが?」

「あ?んな訳ねーだろ。」

「はぁ、良かった。坊ちゃんが女性を殴ったのかと思ってタマは心臓が飛び出るほどでしたよ。」

「たまたま見かけただけだ。」

「たまたま見かけただけの女性を邸にまで連れてくるなんて、今迄の坊ちゃんにはありませんでしたけど?」

そう言ってニヤリと笑うタマに、

「余計な詮索すんな。」

と言ってやり背中を押して部屋から出す。

そして、ソファに大人しく座っている牧野つくしのそばまで行くと、

「痛み止めだ。」と言って薬を手渡した。

「ありがとう。……ここって、ほんとにあんたの家?」

「ああ。」

「……プッ……ふふふ、」

「なんだよ。」

「いや、すごいなぁと思って。元々、あんたとは相慣れない人だと思ってたけど、ここまでだとは思わなかった。」

感心するようにそういった後、俺が手渡した薬を水でごくんと飲み、続ける。

「いつも仕事で会う度に思ってたの。無駄に育ちの良さを醸し出して、エリート面して、人を見下してる所が気に食わないって。でも完全にあたしの勘違いね。あんたは本物のおぼっちゃまで、完璧に育ちが良くて、エリート中のエリートだって事が今わかったわ。」

そう言って、1人で納得したようにコクコクと頷きながらタマが持ってきた熱い紅茶を手に持ちフゥーと息を吹きかける。

俺もこいつの正面のソファに座り、同じように紅茶に口をつけた時、

「でもさー、」

と、牧野つくしが言った。

「そんなあんたが、どうして夜の街でクラブ通いなんかしてる訳?」

「…………。」

「あの子がそんなにお気に入り?」

「フッ……」

鼻で笑う俺に、この女は紅茶のカップをカタンとテーブルに置き、避難するような目で言い始めた。

「週に何度も通うくらい大事なら、あんなお店直ぐに辞めさせなさいよ。あんたの財力なら、あの子養ってあげるぐらい簡単でしょ?今日みたいに、また頭のおかしな客に絡まれるかもしれない、あんたの大事な人がこんな風になってもいーの?」

そう言って自分の頬を指さすこいつ。

「おまえだってそーだろ。」

「え?」

「毎週毎週、ホストに会いにあのビルに通ってんだろ?」

「あたし?」

「どこの店のホストに入れあげてんだよ。働いた微々たる金を全部つぎ込んでるんじゃねーのか?ホストなんて、その場ではなんとでも甘いこと言ってくるけど、所詮目当ては金か身体。騙されんじゃねーぞ。」

「はぁー?」

完全にいつものペースを取り戻した俺たちは、ライバルらしくバッチバチに睨み合う。

と、その時だった。

こいつの携帯が鳴り響く。

そして、「あっ、忘れてた。」と呟いたあと、電話に出た牧野。

「ごめんっ!ちょっと色々あって連絡するの忘れてた。…………、今日、お店に行けそうにないの。…………来週は絶対に行く!だから、待ってて。あっ、それと、来月の旅行だけど、温泉予約したから。久しぶりの旅行だから、ちょっと高い宿に奮発しちゃった。2人でゆーっくり過ごそうね〜。」

嬉しそうにそう話すこいつは、ホストと2人で温泉旅行にでも行くつもりなのか。

金と身体……今俺が言った言葉を全然理解してねーこの女。

俺はバカバカしくなって頭を振りながら、トイレに行くために立ち上がった。

数分後。

トイレから戻りソファを見ると、そこには足を抱えたままの体制でコロンと横になっている女。

どうやら眠っちまったようだ。

そんな牧野を見ながら、

「敵の家で無防御すぎだろバカ。」

と呟いたあと、俺は自分の部屋を出た。

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