ライバルとなんて、恋しない!2

ライバルとなんて、恋しない

次の日、会社に着きエレベーターに乗り込むと、同期の村瀬があたしの顔を見てニヤリと笑う。

「なによ。」

「聞いたぞ。またライバルにやられたんだって?」

そういう情報だけは早く出回るからタチが悪い。

「今回の契約を逃したのは痛かったなぁ。またあの道明寺ジュニアに持っていかれたんだろ?課長が頭を抱えていたぞ。」

「こっちだってやれる事は精一杯やってるの。ただ座って結果待ちしてるだけの人にとやかく言われたくない。」

「おいおいっ、課長の前でそんな事言うなよっ。」

「分かってる。でも、…はぁーー、同期にくらい愚痴らせてよ。」

「牧野も大変だな。ライバルが強すぎだろ。」

そう言って可哀想な目で見る村瀬は、あたしの肩にポンと手を置いたあと途中の階で降りていく。

エレベーター内に1人残されたあたしは、

「朝から嫌な奴の顔思い出しちゃった。」

と、呟きながら頭をブンブンと思いっきり振る。

道明寺司との出会いはあたしがこの会社に入社して4年目にしたあるプレゼンでだった。

その日は、3社合同で行われる公開プレゼンの日。

1年以上かけて少しづつ信頼関係を築き、どこよりも充実した内容で、相手の要望も全てのみ、低コストを売りにした最高の条件、契約締結は我社で間違いないという確信に満ちたプレゼンだったにも関わらず、

本番当日にあいつに全てを持っていかれた。

元々、道明寺ホールディングスの担当は道明寺司ではなかった。中堅クラスの課長が担当していたその案件、プレゼンももちろんその課長がするものだとばかり思っていたのに、

当日、会場に現れたのは、道明寺ホールディングスの一人息子であるあの男。

噂通り、高身長で甘いマスク、キレのある話し方と堂々とした振る舞いに、その場の雰囲気をガラリと変えた。

そして極めつけは、我社が提示していた見積もり金額と全く同じ金額で揃えてきたこと。

1円の差もなく同等の金額。

そうなれば、結果は一目瞭然。

道明寺ホールディングスの御曹司を蹴り落とす馬鹿な会社はない。

あたしの努力は、ゴール寸前であいつがかっさらって行った。

その後も、あたし達の悪縁は続き、あれから5年たった今では、あたしとあいつの勝敗は、

8対5で完全に負け越している。

仕事先で会う度に、すれ違いざま『頑張れよ』と嫌味のように小声で言ってくるあのいけ好かない男。

営業部になんて居ないで、早く副社長にでもなってあたしの前から消えてくれと何度思ったことか。

はぁーーー、あたしとあいつの悪縁はいつまで続くのか。

深いため息を着きながら営業部のフロアに入っていくと、あたしの顔を見るなり、

「牧野、残念だったなぁ。」

と、渋い顔で課長が言った。

それから3日後の週末。

千石バーのママから『約束通り煮魚作ってあるから、夜に寄ってね。』とメールが来て、あたしはウキウキしながら会社帰りにお店へと向かった。

相変わらずこの辺は、夜の匂いに溢れている。

キャバクラやホストクラブといった若い子が通うお店や、しっとりとした着物姿のお姉様達がいる高級クラブも立ち並ぶ界隈。

そこをスーツ姿で歩くあたしは場違いすぎて、キャッチのお兄さんも素通りしてくれる。

そんな中を抜けて、店のある雑居ビルに入っていくと、エレベーターの前で何やら男性客とホステスが口論をしている。

「まだ仕事が残ってるから無理〜!」

「いいから来いって。ママには後でメールしておけばいーだろ?」

「ダメだって、他のお客さんも待ってるから、店に戻るね。」

「おいっ、他の客と俺と、どっちが大事なんだよっ!」

そう言いながら女の子の肩に強引に手を回す酔っぱらいのオヤジ。

そんな2人をふと見ると、女の子の方はこの間道明寺司に腕をからませていたあの子のようだ。

チラッとあたしの方を見て困ったような顔をする彼女。でも、ここで関わると厄介なことになりそうだ。

あたしは視線を逸らして、エレベーターを待つ。

その間も、オヤジは女の子の腰に手を回し、『なにか欲しいもの買ってやるからよ〜』と甘ったるく囁く。

『離してください』『付いてこいって』

2人の言い合いは続く中、エレベーターが開いた。

聞いているあたしの身体には嫌悪感で鳥肌が立っている。

あたしはエレベーターに乗り込んで『閉まる』ボタンを押すのと同時に、

彼女の腕を思いっきり引っ張った。

エレベーターの中に入った彼女を自分の身体の後ろに隠し、酔っぱらいの男に向かって言ってやる。

「あんまりしつこくすると、女の子は嫌がりますよ〜。」

それと同時に扉が閉まる。

そして、

「おいっ、てめぇー!」

男の声が響くのを聞きながら、エレベーターはゆっくりと上に向かって動いた。

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コメント

  1. えりりんこ より:

    いつも楽しく見てます❗️
    まだ2話ですがすでに続きが気になります‼️
    楽しみにしています✨

    • 司一筋 司一筋 より:

      コメントありがとうございます!
      ゆっくり更新ですが、お楽しみくださいね〜。
      司、どこから暴走するーー?きゃは✩.*˚

  2. ユウ より:

    面白そうな新連載、有り難う御座います。更新が楽しみです。

    • 司一筋 司一筋 より:

      コメントありがとうございます!
      新連載、今後どんな展開になるのか、私にも分かりません笑
      どうする、司〜?
      お付き合いよろしくお願いしまーす✩.*˚

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