こういう恋の始まり方 29

こういう恋の始まり方

専務の腕を取り社食から出て来たはいいけれど、どこに行っても社員の目があり逃げ場がない。

そんなあたしに、

「俺のオフィスに行くぞ。」

と言って今度は専務があたしの腕を取った。

専務のオフィスに入り2人きりになると、あたしは猛烈に抗議する。

「専務っ!あんな人目の多いところで何してるんですかっ!」

「おまえが電話を無視するから仕方ねーだろ。」

「無視って…そういう訳じゃ」

「『別れる』とか言い出すんじゃねーかと思ってマジで一睡も出来なかった。」

「…え?」

意外だった。

別れると切り出してくるのは専務の方だと思っていたから。

「別れたいと思ってるのは専務の方じゃないんですか?」

「んなわけねーだろ。

ようやく付き合えたのに、そう簡単に手放してたまるかよ。」

専務がそんな風に思っていてくれたなんて…。

昨夜の一人泥酔を消し去りたい。

「牧野。」

「…はい?」

「俺はおまえとの交際を隠すつもりはねえ。

っつーか、全世界に発信したいくらいだ。」

「冗談でも怖いんですけど…。」

「クッ…、とにかく、難しいことは考えずにありのままで行こうぜ俺たち。」

「ありのまま?」

「ああ。

昨日、おまえに言われて俺なりに考えた。

会社とか、同僚とか、おまえの言いたいことはよく分かった。

けど、それを怖がって犠牲になるのは間違ってる。

浮気でも不倫でもねーじゃん俺たち。誰にも非難させねーよ。」

先のことばかり考えて怖がって逃げようとしていたあたしとは違い、この人は相変わらず真正面からぶつかっていく。

その潔さが今は心強い。

「俺がどれだけ真剣かって事を周囲の奴らに分からせて、俺たちの交際を認めさせる。」

「どう…やって?」

「さっきのアレ。社食だろーが、ロビーだろーが、おまえとの交際は隠さねぇ。

俺が先に惚れて、追いかけて追いかけてやっと手に入れたって言い回ってやる。」

「そんな嘘ついて、」

「嘘じゃねーよ。」

そう言ってニヤリと笑った専務は、あたしを扉の壁へ追い詰めて言った。

「先に好きになったのは俺だ。

俺は女からホテルに誘われてもノコノコ行くような男じゃねーよ。でも、相手がおまえだから、いや、好きな女だったから迷わず誘いに乗った。」

「え?」

「あの日の飲み会も、途中で抜けたおまえを追って行ったんだ。仕事以外で話したいと思ったから。そしたら、『抱いてくれ』だろ?マジでビビったけど、初夜喪失に利用されたとしてもおまえを抱きたかった。」

あたしと専務がこうなるきっかけを作ったあの日。

『抱いて欲しい』なんて誘ったことは黒歴史でしかない。

でも、専務があたしにそんな感情を持ってくれていたと知って、心臓が痛い。

「なぁ、牧野。

俺はおまえを部下でも秘書でもなく、一人の女として愛してる。

だから、おまえも俺を…」

一人の男として…というその先の言葉は、聞こえなかった。

なぜなら、それよりも早くあたし達の唇が重なったから。

「専務っ…」

「ん?」

「しご…と、」

「午後休憩、あと……クチュ…10分残って……るだろ」

「ダメ…」

「なら、昨日のデートのリベンジ、今日させてくれ。」

……………

食事して、バーで飲んで、スイートルームへ。

そんな段取りもすっ飛ばして、俺と牧野はメープルの部屋のベッドにいた。

初めて身体を重ねてからもう3ヶ月以上経っている。

我慢の限界はとっくに過ぎていて、高校生並にがっつこうとするも、ふと牧野の手首の包帯が目に入った。

「痛くねぇ?」

「うん。」

「この体勢以外ムリか…。」

色々したい欲求はあるけど、怪我が治るまではしばらくお預けか。

と、思ったのに、

「大丈夫。お手柔らかにお願いします。」

と、照れながら言うこいつ。

その仕草が最強に可愛くて、ニヤけながら

「了解。じゃあ、遠慮なくいかせてもらう。」

と、本番突入。

1ラウンドが終わった頃には、

「ごめん。」

と、全然手加減してやれなかったことを反省。

お互い汗ばむ身体を寄せ合いながら、乱れた息を整える。

「今日、昼から仕事、大丈夫だったか?」

「あー、質問攻めにあって地獄だったんだから。」

「プッ…、さすがに社食でバラすのはインパクトありすぎたか。」

「今更言っても遅いでしょ!」

「西田にも怒られた。」

「えっ、なんて?」

「社内でイチャつくなって。」

「イチャつく…やだ、もう…」

西田を崇拝してる牧野は、穴があったら入りたいとでも言うかのように、ブランケットに潜る。

「牧野。」

「…ん?」

「西田から預かってあるぞ。」

「?」

ブランケットから顔を出して不思議そうに俺を見つめるこいつ。

「退職届。」

「えっ!」

「俺が寄越せって言ったんじゃねーぞ。

西田から、これは受理できねぇって返してきた。」

「……。」

「牧野、この先はずっと俺が守る。

だから、逃げんな。」

俺からも仕事からも世間の目からも。

堂々と、愛を貫こうぜ俺たち。

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コメント

  1. きな粉 より:

    きゃぁ~司君、相変わらずカッコいいじゃないですか・・・
    思いっきりバレたんだから・・・つくしちゃんは、覚悟を決めて
    更新ありがとうございます!(^^)

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