牧野が運ばれた病院へ行くと、個室の前にアリーナが佇んでいた。
「アリーナ。」
「…司…」
「牧野は?」
「今、手首の処置中なの。」
病室を見ながらそう言ったあと、俯いて目に涙を溜める。
そして、一言
「ごめんなさい。」
と言った。
牧野が階段から落ちた理由は詳しく聞いていなかったが、落ちた直後に『私のせいで…』と言ったアリーナの言葉がずっと引っかかっていた。
「アリーナ、何があった?きちんと説明してくれ。」
コクンと頷いたあと、
「実は、ある人から執拗に交際を迫られていて…」
アリーナの話によれば、パーティーで何度か顔を合わせた男と連絡先を交換した。
人当たりもよく、優しい雰囲気に気を許したという。
最初はとりとめのない会話のやり取りだったのが、そのうち一日に何十件と連絡が来るようになった。
さすがに怖くなり、返信をやめていた頃、
俺とアリーナの写真が雑誌に載った。
それからは、男の態度が豹変して「俺とは遊びだったのか?」と怒り、ストーカーのように付きまとわれるようになったそう。
「警察には?」
「話したわ。警察から彼にも話してもらったし、私にもパパがSPを付けてくれてたの。
それで彼からの連絡も無くなり安心してたのに…」
「今日、そいつが居たんだな?」
「そう。
会場を出たところで待ち伏せされていて、会いたくなかったから急いで階段まで逃げた。そしたら彼も付いてきて、あたしの腕を掴んできた。」
「牧野はそばにいたのか?」
「あたしが…つくし助けてって叫んだの。
だから……。」
両手で顔を覆うアリーナ。
その時、病室から看護師が出てきて、
「処置が終わりましたので中へ入ってもいいですよ。薬が効いて少し眠くなると思いますので、あまり長居はしないでくださいね。」
と言い、頭を下げて離れていく。
中へ入ろうとする俺。
その背中に、アリーナが言う。
「司、私は帰ります。
警察に事情を説明しに行かなくちゃならないし……、」
そう言ったあと、何となく寂しそうな表情で言った。
「っていうのは口実で、……今は司とつくしの2人きりにした方がいいわよね。司のあんな必死な姿見せられたら、認めざる得ないし。司がつくしを大切に想っている事を。」
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