牧野との買い物を終えて邸に着いたのは19時を過ぎていた。
ラファエルとの仕事が一段落してからは、残業することもなくこの時間に帰ってこれる日も多い。
車から降り、エントランスに入ろうとした時、邸の車寄せに1台の青のベンツがゆっくりと近付いてきた。
誰の車かは一目瞭然。
エントランス前に停まった車の運転席からは案の定、総二郎が顔を出し、助手席からはあきらが降りてきた。
「おまえら、どーした?」
「日本に留まることが決まった親友と酒でも呑もうかと思ってよ。」
「連絡しろよ。」
「何度もしてんのに、無視してるのはどっちだよ。」
あきらのその言葉に、俺は慌て携帯をポケットから取り出した。
『着信2件』『メール3件』
それを見て、「わりぃ。」と呟く。
牧野と一緒にいる時間、ほとんど携帯を見ていなかった事に今更ながら気付く。
「20時までここで待って、司が帰って来なかったら俺らだけで呑みに行こうって話してたとこ。」
「行くか?」
「いや、おまえの部屋で呑もうぜ。例のアレもあるだろ?」
ニヤッと笑う総二郎。
ラファエルから貰ったフランス産のビンテージワインを相当気に入って、こいつはそれを目当てに来やがる。
「てめぇ、飲み干したら、今度はおまえが仕入れてこいよ。」
「その時はまたラファエルに頼んでくれよ。」
「ふざけんなっ。俺は仕事の対価として手に入れたんだっ。」
そんなくだらない事で言い合いをしながら、エントランスの扉を開けると、そこにはすでにメイド達が勢揃いして出迎えていた。
「おかえりなさいまし。何を大きな声で喧嘩してるんですか。」
タマが呆れ顔で俺たち3人を見比べる。
「タマさんっ、お邪魔します。
お元気そうで、お肌もツヤツヤですね〜。」
あきらがゴマをする。
「まったく、美作坊ちゃんは相変わらず口が上手いんですから。今日はいかがなさいました?」
「司の部屋で久しぶりに呑もうかと思って。」
「久しぶり?
ついこの間も朝まで呑んできたじゃないですか。」
「え?」
「坊ちゃんを遅くまで連れ回すのはおやめくださいな。
朝帰りした次の日はだいぶお疲れでしたよ。」
「朝帰り?」
睨むタマと、困惑するお祭りコンビ。
この状況は…かなりやべぇ。
牧野とホテルに行って朝帰りした2回とも、タマには『総二郎たちと呑んでいた』と嘘を付いたのだ。
さすがに女と会っていたとは言えねーし、言ったとしたら根掘り葉掘り聞かれるだろう。
それに素直に答えられるほど、牧野との関係は純粋なものだとは決して言えない。
ここで嘘がバレるのはまずい。
さっさとこいつらを部屋に連れていこう。
そう思い、お祭りコンビの顔を見た瞬間、俺はこいつらを邸に入れたことを後悔した。
なぜなら、完全にこいつらは何かを悟ったらしく、
「おーおー、そうか。司くん、この間の朝帰りはそんなに疲れたのか?」
「確かになぁー、かなり激しかったしなーあの日は。」
と、獲物を捕まえたあとの余裕な目をしてやがる。
俺は深いため息を付きながら、2人の背中を思いっきり押して階段を上がった。
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東部屋に入るなり、あきらが、
「今日は面白い話が聞けそうだな司。」
と、浮かれてやがる。
「うっせぇ。」
「なんだよ、俺らに内緒で2回も朝帰りしたのか?」
「……。」
「相手は?まさか仕事だとは言わねぇよな。
女が出来たのかよ。いつ?どこの誰?俺らの知ってる女か?」
矢継ぎ早に質問してくるこいつらに、俺は
「わーかったっ!全部話すっ!だから、とにかく、落ち着けボケっ!」
と、ケリを入れてやった。
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:
それから30分後。
全てを話し終えた俺に、総二郎がポツリと言う。
「肝心なとこが抜けてんじゃん。」
「あ?」
「今の話、なんかの小説みてぇな展開で面白いけどよ、肝心なとこが抜けてる。」
「肝心なとこ?」
「ああ。
司、おまえはそんな有り得ない展開に乗るような男じゃねーよな。」
「それは、俺も思った。なんかの罠かもしんねーとか思わなかったのかよ。」
あきらも俺を見つめて聞く。
「罠…か。
ふふっ…かなも、そうかもしんねーな。」
そう呟きながらワインをがぶりと飲み干すと、総二郎が俺のグラスにワインを注ぎながら言った。
「罠だったとしても、おまえは誘いにのったって事か?」
「んな事、考える余裕もねぇーよ。」
「そこが肝心な部分だって事だろ。
いつも冷静なおまえが後先考えずに行動した。」
「…ああ、だな。」
「クッ…気付いてんなら言えよバカ。」
「うっせぇ。」
「で?お前の気持ちは?」
そう、肝心な部分は俺の気持ちだ。
こいつらがからかって聞いてるなら、答えるつもりはない。けど、今のこいつらの目は違う。
「俺は、あいつが好きだ。
好きだと自覚してたから、あいつの突拍子もない誘いに乗った。」
その言葉に、2人が顔を見合わせる。
「だろーな。じゃなきゃ、司が仕事上付き合いのある女を抱くはずねーし。
美人か?スタイルは?うちの秘書の松橋とどっちが綺麗?」
「美人でもねーし。スタイルだって160cmぐらいのちんちくりんだ。」
「ぶっ!まじかよっ。
おまえの趣味はロリコンか?」
「てめぇ、殺すぞ。」
「ギャハハハハハー」
大笑いしながら、ワインのグラスを空けるこいつら。
そんな2人をみながら、俺はなぜか不思議な気持ちになっていた。
女に対して、恋愛感情を持ち、
『好きだ』と発したのは、人生初。
俺にもそういう日が来るなんて想像してなかった事だけど、
こういう気持ちは、
案外、悪くねぇ。

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コメント
待ってましたぁ。更新うれしいです。体調でも悪いのかと心配してました。よかったです。また、まってます!
お待たせしてしまってごめんなさい。私生活で仕事がバタついており、なかなか更新できず。。でも、ボチボチ再開していきますので、お暇な時に覗いてみてくださいね。
コメントありがとうございました!
初めまして。kokoと申します。司一筋様には何年も前からお邪魔させて頂いております。
作風が好きでいつも楽しく拝読しております。
1ヶ月更新がなかったのでこちらも閉じてしまわれるのかとハラハラしておりました。
花男二次の好きな書き手様のサイトが次々と閉鎖、停止になってしまい、司一筋様が最後の砦です。今日の更新、跳び上がるほど嬉しくて初めてコメント差し上げます。
お忙しい中の執筆、読み手からの勝手な言いがかり等、きっと色々ストレスもおありと拝察致しますが、何とか細く長く続けて下されば、と願って止みません。
今回の連載、今までとちょっと違う設定で面白く読んでおります。ご無理のない範囲で更新して頂ければ幸いです。
コメントありがとうございます!なかなか更新する時間が無く皆さんをおまたせしてしまってごめんなさい。これからも細く長く続けて行くつもりですので、お付き合い下されば幸いです。このコメントを励みに頑張りまーす✨
更新ありがとうございますー!!
待ってましたー!!!嬉しい!
ありがとうございます!これからもよろしくお願いしまーす