俺のため……?
「俺に会うためにこのエレベーターに乗ってるのか?」
「最初はそうじゃなかったけどっ……、
でも今は…………、」
たぶん、牧野がこのエレベーターを使うようになったはじめの理由は俺の想像通りだろう。
だけど、今は違うらしい。
いつも俺が追いかけてばかりの二人の関係は、そうでもないんだと教えてくれたこいつ。
25階についてエレベーターを降りようとした牧野の腕をつかみ、
「なぁ、牧野」
そう声をかけると
「ん?」
と言って俺を見上げるこいつ。
「明日の夜、空けておけ。」
「明日?」
「ああ。」
そのあとは、『指輪を見に行こうぜ。』
そう言う俺に、照れ臭そうに『うん。』と返事をする……そんな牧野を想像していたのに、返ってきた答えは、
「明日は無理。予定があるの。聞いてない?」と、キョトンとした顔のこいつ。
「あ?なんだよ、なんにも聞いてねーよ。」
「え?ほんと?
社長から、いや、道明寺のお母さんから家に電話が来て、明日邸に来ないかってお誘いされたんだけど、ほんとにあんた聞いてないの?」
ババァのやつ!
また俺に内緒でそんなことしやがって!
「聞いてねぇぞ。マジかよあのババァ。
せっかく苦労して明日の夜、時間空けたのによっ。」
「あたし、道明寺も一緒にいてくれると思ってたからオッケーしちゃったけど、もしかして呼ばれてるのはあたしだけなの?」
困惑顔の牧野。
「何時にいく予定だ?」
「7時。」
「わかった、俺も付いて行く。」
本当は7時に食事をしたあと、その足で銀座のジュエリーショップに立ち寄る予定にして、店を貸しきっていた。
「しょーがねぇな。」
苦い顔で俺はそう呟いた。
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:
次の日、牧野を家まで迎えに行き、車に乗せて邸までやって来た。
リビングに入ると予想していたのか、俺の顔を見て
「仕事はサボってないでしょうね。」
と嫌みを言うババァ。
場所をダイニングに移動して、3人で食事をする間もババァは終始ご機嫌だ。
いつもの冷徹な表情と口調は変わらねぇけど、牧野を見る目が柔らかい
「出身はどちら?」
「ご家族は?」
「どうして道明寺HDに?」
どこかの面接官かのように、牧野を質問攻めにする。
「もうその辺にしとけよ。
質問ばっかでこいつも疲れるだろ。」
「……ごめんなさいね。
でも、きちんと聞いておかないと。
家族になるんですから。」
『家族』
その言葉に今までとは違う感情が沸き起こる。
牧野のことを『好きな女』でも『愛する女』でもない、『家族』という呼び名で呼ぶ。
それは嬉しさと同時に身の引き締まる思い。
「牧野さん、あなたに見せたいものがあるの。」
ババァはそう言って立ち上がった。
そして、俺らを連れて自室の隣部屋へと入った。
そこはババァの衣装や靴、アクセサリーなどが保管されているドレッサールーム。
俺もはじめて入る部屋だ。
その部屋のソファに俺らを座らせ、ババァは奥のクローゼットへと消えた。
そして、戻ってきたババァは手に長方形の平たい箱をもって現れた。
そして、それを牧野の前に置き、
「あなたに受け取って貰いたいの。」
そう言ってその箱を開かせるよう牧野を促した。
恐る恐る開いたその箱には、どこにでもありがちなネックレスとリングのセット。
ダイヤだと思われる石は1カラットもない簡素なもの。
「なんだよ、これ。」
そう言う俺に、
「婚約指輪よ。」
と、さも当たり前かのように言い放ったババァ。
それを聞いて俺は叫ばずにはいられなかった。
「ふざけんなっ!
プロポーズも俺より先に言いやがった上に、指輪まで先に渡す気かよっ!
少しは俺に譲れっ!」
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