ババァの出現と突然のフライングプロポーズで、俺もゆっくりしていられなくなった。
早く牧野に合う指輪を用意して、自分の口から結婚を切り出したい。
そんな俺は、夜景の綺麗なレストランを予約して、最高のワインで乾杯をし、一生に残るプロポーズをするために、ここ数日急ぎの仕事を片付けて何年かぶりに休みをとるべく頑張っていた。
そして、なんとか明日の夜から明後日にかけて時間を作ることができ、それをすぐにでも牧野に伝えたくて25階のフロアまで下りてきていた。
栄養管理課。
久しぶりに入るその部屋。
トントンと軽く扉をならしてドアを開けると、中には年配の女性社員が二人いるだけ。
「専務っ!」
俺の顔を見て驚いて立ち上がるのを制して、
「牧野は」
と聞いてみる。
「あっ、えーと社員食堂の方に行ってます。」
「今ごろ休憩か?」
腕時計はすでに1時半を回っている。
「いえ、メニューの打ち合わせです。
もうすぐ戻ると思いますけど……ここで待ちますか?」
「……いや、行ってみるからいい。」
俺はそう言って管理課の扉を閉め、手近なエレベーターの前まで行き、下のボタンを押して待っていると、管理課のドアが開きさっき話した女性社員が
「専務っ。」
と俺を呼ぶ。
「……あ?」
「あのっ、牧野さんならそのエレベーターには乗りません。フロアの一番奥にあるエレベーターで上がって来ると思うので……。」
「おう、サンキュ。」
そう言われてみれば、確かにあいつはあのエレベーターに乗ってることが多い。
そのおかげで俺とも出会えた。
自分の課から一番近くて、社食にも行きやすいこのエレベーターに乗らないのはなぜか。
そう考えながら奥のエレベーターの前まで行くと、俺は社食の階まで下りていった。
社食の階に着くと、ちょうど牧野がエレベーターの方へ歩いてくるところ。
書類を見ながら歩いているせいか、俺の存在に気付かず、俺の横を通りすぎ、エレベーターの前で立ち止まる。
そんなこいつの後ろ姿に、
「おい、俺を無視するなんていい度胸だな」
と声をかけると、
「わっ!」
とすげー驚いて書類まで落としてやがる。
「バカ。」
落とした書類を拾ってやると、
「驚かさないでよっ。なに?今から食事?」
と相変わらずボケボケな女。
「ちげーよ。おまえのこと探しに来た。」
エレベーターの扉が開き二人で乗り込む。
向こうのエレベーターと違って、このエレベーターはほとんど人と会うことがない。
「なぁ、なんでおまえ、このエレベーターを使うんだよ。
向こうの方が近くて使いやすいだろ。」
「…………、別に?」
「わざわざ遠回りして、別に……かよ。」
「…………。」
言葉を濁すこいつに、俺の勘が当たっていることを確信する。
「会いたくねぇやつでもいるのか?」
「…………。」
「あいつだな。」
「はぁ?」
「徳井だろ。
まだあいつ、おまえにちょっかい出してるのかよっ。懲りねぇやつだな。」
「違うっ。そうじゃないって。」
「なら、なんでコソコソすんだよ。」
隣に立つちっせー牧野の頭をグリグリと苛めてやる。
「痛いって。やーめーて、道明寺。」
「なら、あの男にこの100倍の力でやってやるか?俺はまだあいつの名刺持ってるからな。
裏に書いてある携帯に今すぐ電話して専務室まで呼び出してやる。」
エレベーターの中でじゃれつく俺ら。
もうすぐ管理課のある25階。
「道明寺、分かったから、とにかく離して。
あんた、誰か来たらどーすんの?」
「おまえが白状したら離してやる。」
牧野の首に手を回し体を拘束してやる。
エレベーターが開くまであと数秒。
開いたときに誰かいたら、……アウト。
その状況に追い詰められた牧野が白状した。
それは、予想の上をいく言葉。
「道明寺が使うからでしょ!」
「……あ?」
「あんたが、このエレベーター使うから、あたしも乗ってるだけ。
これに乗れば、あんたに会えるかもしれないでしょ!バカっ。」

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