「大事な人です。」
彼女のその台詞に、今日自分がここに来た意味を思い知らされたような気がした。
司には母親としてしてやるべきことの半分もしてこなかった自分。
年頃の司が女性に興味を持たないのも、そういう愛情ある育てかたをしてこなかった自分に責任があると最近は思うようになっていた。
そんな司が一人の女性を愛した。
家柄がよく、学歴があり、容姿もいい、
そんな女性を散々見てきた司が選ぶのはどんな女性なのか。
興味があったが、蓋を開けてみれば、
何もない普通の女の子。
だけど、彼女には最強の武器があるのかもしれない。
それは、まっすぐに司自身を愛していること。
そして、それがまさしく私が知りたかった事。
食事もほとんど食べ終わり、私のために熱いお茶をいれてくれる彼女。
その彼女が席についたのを見計らって私は切り出した。
「牧野さん、」
「はい?」
「実は、……」
と、その時、玄関の方からバタバタと足音が聞こえ、
「ごめん、遅くなっちゃった!」
とショートカットの女性が入ってきた。
「おかえりなさい、滋さん。」
「ただいま。……あっ、お客さんだったんですね。」
私の顔をチラッと見て頭を下げる大河原滋さん。
そんな滋さんを黙ったまま見つめる彼女は、
少しの沈黙のあと、
「え?……滋さんの叔母さんよね?」
と、当然の反応。
「えっ?違うけど……どういうこと?
つくしのお客さんでしょ?…………あっ、
もしかして、……えっ、」
そんな慌てた様子の滋さんが私の顔を見て、何かに気付いたらしく、
「あのぉ、……道明寺さん……ですよね?」
と、困った顔でそう聞く。
「ええ。道明寺楓です。
牧野さん、今まで黙っていて申し訳ないわ。
騙すつもりはなかったの。
でも、あなたとこうして食事ができてよかったわ。」
驚いた顔で私を見つめる彼女にそう伝えると、
「……道明寺のお母さん……ですか。」
と消え入りそうな声でそう呟く。
「ええ。司の母です。
楽しかったわあなたと話せて。
……私はこれで失礼します。」
………………………………………………………
ババァが今日帰国するのは聞いていた。
プライベートジェットで邸にそのまま降り立つ予定の事も。
オフィスで最後の書類に目を通してる俺に、西田が渋い顔で部屋に入ってきた。
「専務、お話が。」
「なんだ?」
「社長が戻られました。」
「ああ。聞いてる。」
そう言って顔をあげる俺に、
「それが…………。」
と更に渋い顔で続けた。
西田の話を聞いて、取るものも取らず車に飛び乗った。
ババァが大河原邸に向かったらしい。
たぶん、今ごろ牧野と。
ババァの考えてることが掴めない今、とにかく牧野の側に急ぐしかない。
猛スピードで大河原邸までたどり着くと、邸から少し離れたところに黒塗りのベンツが停まっている。
それを見てババァが中にいることを確信した俺はチャイムも鳴らさずに大河原邸へと乗り込んだ。
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