道明寺との付き合いが深くなればなるほど、雲の上の存在のように感じるこの人。
生まれた家柄も育った環境も天と地ほどの差があるあたしたちなのに、そんなことなんてなんの障害もないようにあたしの世界に入り込んでくる。
そんな道明寺が昨夜、電話であたしに言った。
「来週、株主総会があって社長が日本に帰国する。
牧野、……社長におまえのこと、紹介したい。」
その言葉が何を意味してるか、
正直に言うと、嬉しいけど、……怖い。
「別に、今すぐどうこうしようって訳じゃねーけど、ババァには付き合ってることも言ってあるし、今度会わせろとも言われてたから……。
でも、おまえが乗る気じゃねーなら、また次の機会でも俺は構わねぇけど。」
いつもは俺様なのに、こういうところは押しが弱い道明寺。
「おまえには弱い。」
普段からその甘い言葉通り、こんなときでもあたしのことを優先するらしい。
「いいよ。」
「あ?」
「だから、社長に会いに行く。
はぁーーー。でもさー、」
「なんだよ、その盛大なため息は。」
「だって、絶対に反対されるでしょ。
反対するっていうか、腰抜かすよ社長。」
「プッ…………。」
「ちょっと!笑い事じゃないしっ!
本気で、あたしなんかが彼女だって言ったら社長、倒れちゃいそう。
とにかくっ、会いに行くけど……認めてもらえる自信はないから……あたし。
でもね、あたしは雑草のつくしだから。
踏まれても踏まれても負けない自信もあるよ。」
不安だけど、それを乗り越える以外選択肢を持っていないあたし。
雑草魂をここで見せるしかない。
そんな拳を突き上げたあたしに、
「この俺様が、雑草に惚れてるなんてなっ。」
と優しく笑った道明寺。
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それから数日後。
会社からの帰り道、携帯がなった。
「滋さん?どうしたの?」
「あっ、つくし。今どこ?」
「もうすぐ家に着くけど。」
「よかった!
あのね、悪いんだけどあたし家に帰るのもう少しかかりそうなんだけど、実はあたしの叔母がそっちに向かってるのよ。」
「滋さんの叔母さん?」
「そう。フランスから帰ってきてて、うちの
家の蔵庫に、昔使ってた画材道具があるから取りに来たいって。」
「あー、あの画家の叔母さんね。」
「そうそう。
だから、もしあたしが帰る前に叔母が来たら少しだけ家で持っててもらってくれない?
早めに帰るからっ。」
「わかった。大丈夫。」
そう言って電話を切った。
それから10分後、大河原邸のチャイムが鳴った。
「はーい。」
玄関を開けたあたしの目の前には、一目で高価だと分かる品のいいスーツに身を包んだ女性がいた。
その人はあたしの顔をじっと見たあと、なにかを言いかけたけれど、
「あっ、お話は伺ってます。
どうぞ、中へ。
もうすぐ帰ってくると思いますから。」
あたしの方が先にそう言って女性を招き入れた。
リビングのソファに案内したあたしは、お茶を用意するためキッチンへと向かう。
そんなあたしに、
「あなたが牧野つくしさん?」
と女性が訪ねてきた。
「はいっ。
いつもお世話になってます。」
滋さんにはプライベートでは世話になりっぱなしだ。
「私がここに来ることは知っていたのかしら?」
「はい、さっき電話で聞きました。」
「……そう。」
そう言いながらもお茶をいれるあたしのことを見つめてくる女性。
どこかで会ったことがあるかな……、
なんとなく、あたしも目線をそらしながらそう考えた。
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