牧野と想いが通じたあの日、全身が痺れるほどの甘いキスをした。
このまま連れ去りたい、そう思う俺の欲望を欠き消したのは車のエンジン音だった。
大河原邸の前に止まる1台の車。
それは、見間違えるはずもない、俺の専用車。
中から西田が降りてきて、
「お迎えに上がりました。」
と、頭を下げた。
それからの数日、俺の機嫌はMAXに悪い。
原因は自分にあると自覚している西田は、あまり俺に近付かない。
その代わり、牧野には会いに行ったらしい。
「今日、西田さんが管理課に来たよ。
なんか、申し訳ありませんでしたって謝られたんだけど、どうかしたの?
専務の機嫌を直せるのは牧野さんだけです、ってワケわかんない事言われたけど、道明寺、あんた機嫌悪いの?」
なんにも分かっちゃいないこの鈍感女。
こんどチャンスがあったら、速攻、押し倒してやるからなっと、心の中で毒づき電話を切ったが、今度会えるチャンスがなかなか巡ってこない。
ここ一週間、スケジュールが遅くまで詰め込まれてて牧野とゆっくり過ごす時間がない。
明後日の夜に、唯一時間が空きそうだと、なんとか自分を奮い立たせて仕事に向かってる俺に、西田が最悪な案件を持ってきた。
「専務……、今月はお見合いの月ですが。」
そうだった。2ヶ月に1回のペースでババァが持ってくる見合い相手と定期的に会うことになっていた事をすっかり忘れていた。
「どうしますか?」
「ああ。…………俺から社長に話す。」
「分かりました。」
いずれ話さなきゃなんねぇ事なら早い方がいい。
その方が邸にも牧野を連れていけるし、オープンに付き合える。
そう思ってた俺の考えは、ババァの冷めた笑いに一蹴された。
「好きな人が出来た?
もちろん、今まで紹介したお見合い相手の中から選んだでしょうね?」
そう言うババァに包み隠さず牧野の事を話した。
「本気?」
「ああ。」
「…………。」
「今まで俺の事を監視してきたなら分かるだろ。
俺が女に好きだと冗談で言うと思ってるのか?
俺は本気だ。
牧野が好きだ。」
そう言う俺に、ババァが静かに言った。
「そこまで言うなら会ってみたいわ、その牧野さんに。
でも、今回のお見合いは予定通りしてもらうわよ。
場所も時間も先方に伝えてあるの。
粗相のないようにしてちょうだい。」
その夜、牧野に電話して見合いの事を告げた。
「明後日……見合いに行ってくる。」
「見合い?」
「ああ。前に言っただろ、俺の恒例行事だ。
だけど、今回で最後だ。」
「なんで行くのよ。」
拗ねた声がすげーかわいい。
「しょーがねーんだよ。ババァが先方と約束しちまって断れねぇ。
だけど、いつも通り一時間きっかりで帰ってくる。」
「もし、すごくかわいい人だったら?
めちゃくちゃ、話が弾んだら?
道明寺のドンピシャ、タイプの人だったら?
そしたら、一時間で……、」
「牧野。
一時間で帰ってくる。
その後はおまえに会いてぇから、空けとけよ。
それとな、
俺がめちゃくちゃ可愛いと思ってるのはおまえだけだし、ドンピシャにタイプなのもおまえだ。
可愛いこと言うな、バカ。」

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