突然現れたかと思ったら、何を言い出すこの人はっ。
『こいつと家でゆっくりするので。』
この言葉で勘違いしない人なんているんだろうか。
案の定、周りの女性社員は興味津々で、
あたしたち二人のことを交互に見比べたりなんてしている。
そんな外野の視線にも臆することのないこの人。
「家に行くような仲なんですか?」
芸能レポーター並みに食い付いてくる女性たち。
「ああ。こいつの家、すげー落ち着くんで。」
「うそぉーー。それって、お泊まりですか?」
「まぁ、何度か。」
「キャーーーーっ!」
「ちょっとーー!
みんな、誤解しないで下さいね。あたし、独り暮らしじゃないですし、泊まったのだって、2回……、」
「なぁ?泊まったよな?」
完全に墓穴を掘った。
知り合いだとバレた上に家に泊まったことも白状させられたあたし。
それなのに、道明寺は涼しい顔でさっきは不味いと言っていたあたしのウーロンハイを飲み干している。
そして、
「飲み足りねぇなら、帰りになんか買って行くか?」
と、明らかに面白がってる道明寺。
皆からの視線が痛すぎて、あたしがそれ以上何も言い返せないでいると、
「それではっ、二次会に移動しまーす!」
と幹事の声が響いた。
女性社員の強烈な誘いも片っ端から断り、逃げるように店から出てきたあたしたちは、タクシーを1台捕まえてそれに飛び乗った。
家の住所を告げて一息ついたあたしの横で、
「やべぇ、西田のこと置いてきた。」
そう呟くこの人。
隣に座る道明寺の顔をあたしはまじまじと見つめる。
すると、
「とりあえず、帰ろうぜ。
文句は……それから聞く。」
と、柄にもなく反省してる様子。
そんな道明寺がなんとなく可愛くなって、あたしも柄にもなく、
そっと手を伸ばした。
いつも握ってくれるその大きな手に、今日はあたしからギュッと手を繋いだ。
道明寺が驚いて、あたしのことを見てるけど、
恥ずかしいから顔は窓の外に向けたまま。
手を繋いだまま無言でタクシーに揺られるあたしたち。
なんとなく、さっきの徳井さんとの会話を思い出す。
小さな名刺を渡され、
『空いた時間にかけてきて。』
そう言われた言葉。
どこかで聞いたようなその台詞。
その時はそう思ったけど、今は分かる。
『俺の空いてる時間はおまえのために使う。
だから、おまえの空いてる時間も俺にくれ。』
道明寺が言ってくれた言葉。
同じような意味なのに、伝わってくる心地よさが全然違う。
誠実さも、優しさも、すべて……違う。
今日、管理課の飲み会に来た理由は分からないけど、この人がいてくれて良かった。
そう思ったあたしの気持ちがバレているかのように、道明寺があたしの手を強く握った。
家の前でタクシーを降りたあたしたち。
タクシーが立ち去り、辺りが暗闇に包まれると、
「怒ってねーの?」
と道明寺が聞いてきた。
「凄く怒ってますけど。」
「なんだよっ。やっぱりか……。」
「やっぱりか……じゃないでしょ。」
「おまえから手繋いできたから……怒ってねぇかと思った。」
あんたでもそんな顔するんだ。
捨てられた子犬のような似合わない顔。
「家に寄ってく?」
あたしがそう言うと、チラッと家の方に視線を移した後、
「滋たち帰ってきてるんだろ?」
と聞いてくる。
「たぶん、いると思うけど。」
「なら、やめとく。」
「何よそれ。」
滋さんと桜子が聞いたら怒るよ、と言おうとしたあたしに、
「おまえともう少し二人でいたい。」
そう今度は男の顔で道明寺が言った。
あたしは、この人のこういうところが、
たぶん……好き。
ひどいことを言われても、乱暴な口調でも、
道明寺の言葉には、
嘘偽りがない。
疑ったり、駆け引きをしたり、
あたしが苦手とすることを
道明寺は必要としていない。
ただ、ひたすらに自分の気持ちに真っ直ぐなこの人。
あたしも、…………そうありたい。
『おまえともう少し二人でいたい。』
その言葉にあたしも答えるかのように、
暗闇のなか、道明寺の胸にそっと近付き、
背中に手を回した。
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